ギラン・バレー症候群・誰でも罹りえる難病を脳神経内科医が解説

ギラン・バレー症候群・誰でも罹りえる難病を脳神経内科医が解説

ギラン・バレー症候群という病気をご存知でしょうか? 食あたりやインフルエンザなどの後、1〜3週間後に、両手足に力が入らなくなり、急速に麻痺が全身に広がる病気です。重症になれば死に至る場合もありますが、軽い症状で済む場合もあります。

ギラン・バレー症候群は、世界中のあらゆる地域で、赤ん坊からお年寄りまで誰でも罹りえる病気です。近年では、大原麗子さんが、29歳でギランバレー症候群を発病し、一度は克服しますが、53歳のときにギランバレー症候群が再発したことで芸能界を引退しました。その後、他の病気によってお亡くなりになっています。このことで記憶にある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

実は、ギラン・バレー症候群は脳神経内科が専門で診療します。今回の記事では、脳神経内科専門医の長谷川嘉哉がギラン・バレー症候群について解説します。

目次

1.ギラン・バレー症候群とは?

1916年にフランスの医師、ジョルジュ・ギランジャン・アレクサンドル・バレー2人がそのメカニズムを発表したことで、その名を取ってギラン・バレー症候群と呼ばれています。日本では、厚生労働省の難治性疾患克服研究事業の対象とされ、難病に指定されている病気です。

1-1.頻度・年齢・予後

ギラン・バレー症候群は、10万人当たり1~2人が発病し、日本では年間2,000人が発病しています。男女比は3:2。平均年齢は 39.1歳です。特定疾患の難病の中では、比較的頻度の高い病気だと言えます。

発症者の15%~20%が重症化し、致死率は2~3%です。但し、最近では、早期診断・早期治療が行われるため、重症化して亡くなられるケースに至ることは極めて稀でしょう。20年以上脳神経内科専門医に従事してる私自身も、重症化した患者さんを経験したことはありません。

1-2.木でいえば「枝」=末梢神経が障害

我々脳神経内科医は、疾患を考える際に、「木の上に頭がのっているモデル」をイメージします。頭と幹がつながり、木の幹からは枝が分かれ、枝の先には葉がついています。具体的には、木の幹が脊髄、枝が末梢神経、葉が筋肉になります。ギラン・バレー症候群はその中でも、木の枝が特異的に障害される病気です。当然ですが、木の枝が障害されると葉っぱも枯れてしまいます。つまり、末梢神経が障害されることで、筋肉も委縮・筋力低下する疾患なのです。

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枝(末梢神経)に障害があると、手のひらなど末端にも大きな影響が出ます

1-3.原因

人間は、ウイルス感染や細菌感染を受けると、外敵に対して免疫機能が働きます。しかし免疫システムが異常を起こすと、自己の末梢神経を障害することであらたな疾患が発生します。

このように、自分自身に対する免疫反応によつて起こる疾患を、「自己免疫疾患」と呼びます。ギラン・バレー症候群もその一つです。

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人体は免疫システムで細菌やウイルスから身を守っていますが、自己を攻撃してしまうことがあります

2.症状

ギラン・バレー症候群は前駆症状があってから、症状が出現します。

2-1.前駆症状

約7割の患者さんはギラン・バレー症候群発症の1~3週間前に風邪をひいたり下痢をしたりといった感染症の症状があります。感染の主な病原体はカンピロバクター(Campylobacter jejuni)、サイトメガロウイルス、エプスタイン・バール(Epstein-Barr)ウイルスです。春夏は下痢、春冬は上気道感染が前駆症状になることが多いです。

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胃腸風邪のあとに、ギラン・バレー 症候群を発症することが多いです

2-2.神経症状

感染症の発症後、約1〜3週間以内に初発症状として、「足が動かしにくくなったり」、「しびれ」などが現れます。神経症状ははじめ下肢に現れますが、徐々に腕や体幹、場合によっては顔面にまで広がることもあります。

運動機能に障害が生じることが多く、階段を上りにくい、手に力が入りにくいなどの症状から始まり、より症状が進行すると、眼球周囲の筋肉の麻痺により、ものが二重に見える、飲み込みに関わる筋肉の麻痺により、ものが飲み込みにくい、呼吸に関連する筋肉の麻痺より、息苦しいなどの症状がみられるようになります。

2-3.ギラン・バレー症候群の進行

神経症状が徐々に悪化していくことがギラン・バレー症候群の特徴ですが、およそ4週間の経過で症状がピークに達します。症状の強さにもよりますが、数か月の経過で症状が改善していきます。なかには麻痺を残すこともありますし、最悪の場合、呼吸不全から亡くなってしまう方もごく稀にいらっしゃいます。

3.診断

以下のようにギラン・バレー症候群を診断します。

3-1.病歴

前駆症状の有無、しびれや運動障害の有無、両側性であること、徐々に進行していることが診断において重要です。

3-2.反射

脳神経内科医は、ハンマーを使って四肢の反射を診ます。ギラン・バレー症候群は末梢神経の障害のため、上肢・下肢の反射が両側性に低下します。逆に、反射が更新している場合は、他の病気を疑います。


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3-3.筋力

末梢神経が障害されるため、その先にある筋肉の力が低下します。筋肉は四肢の筋肉だけでなく、眼筋、呼吸筋にまで出現することがあります。

3-4.血液中の自己抗体

ギラン・バレー症候群では、特徴的な自己抗体が検出されることがあります。すべての患者さんにおいて認めるわけではありませんが、たとえば「抗GM1抗体」などの抗体が検出される際には、ギラン・バレー症候群である可能性が高くなります。

3-5.髄液検査

髄液検査では、タンパク質の増加を認めます。他のウイルス性や細菌性の髄膜炎においてもタンパク質は増加しますが、この場合は炎症細胞の増加も認めます。これとは対照的に、ギラン・バレー症候群においては炎症細胞の増加は認めることなくタンパク質が増加します。

4.治療

ギラン・バレー症候群は治療を行わなくても自然に症状が軽くなる病気と考えられていましたが、一部の方は重症になり、適切な治療がされないと後遺症を残す方もいます。したがって、発症してからなるべく早く治療を開始する必要があります。

4-1.血液浄化療法

血液浄化療法のうち、単純血漿交換療法はギラン・バレー症候群の確固たる治療法として確立しています。血液から血球を除いた液体成分である血漿(けっしょう)を遠心分離器・半透膜などを用いて分離し、血漿中の有害物質を取り除いてから体内に戻す治療法です。単純血漿交換療法では、分離した血漿を全て廃棄し、代わりにアルブミン溶液を補充します。回数は重症度に合わせて2~4回を1日おきに行います。

4-2.免疫グロブリン大量静注療法

ヒト免疫グロブリン4g/kgを5日間連続して点滴する治療です。1回の点滴には4~6時間を要します。副腎皮質ステロイドとの併用でより高い効果が得られる可能性が指摘されています。

4-3.重症患者さんへの治療

呼吸筋の麻痺や食事がうまく飲み込めない、ろれつが回らないなどの球麻痺の患者さんは致死的になることがあります。このような重症な方の場合、集中治療室で厳重に全身管理を行います。呼吸筋の麻痺に対しては人工呼吸器を用いることもあります。

単純血漿交換療法と免疫グロブリン大量静注療法は同等の有効性と考えられています。一般には、特別の設備がなくても行うことができる免疫グロブリン大量静注療法が選択される頻度が高いです。

5.リハビリ・慢性期治療

ギラン・バレー症候群によって障害された末梢神経は、必ず再生します。しかし、神経の再生には時間がかかるためリハビリ等を行うことが重要です。

5-1.状態に合わせたリハビリを

ギラン・バレー症候群は、患者さんの状態がかなり異なります。運動障害が強くベッド上での生活が主の場合は、リハビリは理学療法士や作業療法士による他動的に行われます。逆に、ある程度、座位や立位、歩行が可能であれば、能動的なリハビリを行います。

5-2.ビタミンB12の服用

ビタミンB12を含んだ製剤としてメチコバールという薬があります。効能は、「ビタミンB12を補い、貧血や末梢神経痛、しびれなどを改善する薬」ですが、多くの医師は、「全く効かない」と認識しているかもしれません。

確かに、高齢者の手足がしびれるといった症状に処方しても効果はありません。しかし、ギラン・バレー症候群のように本当に末梢神経が障害された場合は、神経の再生の際にビタミンB12が必要になります。このような時には、メチコバールは効果があるので必須です。きちんと服用をしたうえでリハビリを行ってください。

6.悪化因子

治療後の見通しが悪い因子としては、以下のようなものがあります。

  • 高齢者の方
  • 先行感染として下痢症状があった方
  • 発症時や症状がピークの時に高度の麻痺がある方(特に人工呼吸を必要とする呼吸筋麻痺がある方)
  • 不整脈などの自律神経障害がみられた方などがあります。

7.まとめ

  • 感染症後に、手足がしびれや動きの悪さを感じたら、ギラン・バレー症候群を疑って脳神経内科専門医を受診しましょう。
  • ギラン・バレー症候群の診断がされたら速やかに、血液浄化療法もしくは免疫グロブリン大量療法を受けましょう。
  • 症状が残った場合でも、時間はかかりますが回復します。ビタミンB12を服用しながらリハビリに励みましょう。
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