帯状疱疹(たいじょうほうしん)というと一般的には、皮膚科医が中心として診断すると思われがちです。しかし、現実の外来では内科医でも週に1〜2回は帯状疱疹の患者さんを診察します。特にわれわれ脳神経内科医は帯状疱疹の治療には深くかかわります。
なぜなら大病院などでは皮膚科が診断、その後の帯状疱疹後神経痛の治療を脳神経内科医が引き継ぐことが一般的でした。治療期間も皮膚科医の治療は2週間程度ですが、脳神経内科の治療は1年を超えることさえありました。
しかし、最近では治療薬が良くなったため、早期に治療をすると帯状疱疹後神経痛の治療が不要になることが増えています。このことは、患者さんにとってはとても朗報であります。だからこそ、帯状疱疹についての正しい知識をもち、医療機関での早期受診、正しい治療が重要となってきます。今回の記事では、脳神経内科専門医の長谷川が、帯状疱疹について解説します。
目次
1.帯状疱疹とは?
帯状疱疹は、水ぼうそうの原因ウイルスである水痘帯状疱疹ウイルスに感染して発症する病気です。初めて感染したときは水ぼうそうを発症します。水ぼうそうが治った後、水痘帯状疱疹ウイルスは後根神経節と呼ばれる脊髄の根本に潜伏し、悪さをすることなく年単位で潜んでいます。
しかし、ストレスや疲れなどがきっかけとなりウイルスに対する抵抗力が低下すると、水痘帯状疱疹ウイルスが再活性化して帯状疱疹を起こします。つまり、水ぼうそうにかかったことのある人なら、誰でも帯状疱疹になる可能性があります。
身体の左右どちらか一方にピリピリと刺すような痛みと、これに続いて赤い斑点と小さな水ぶくれが帯状(おびじょう)にあらわれるため、「帯状疱疹」という病名がつけられました。
2.帯状疱疹の特徴
帯状疱疹には以下の特徴があります。
2-1.年齢
帯状疱疹は、60歳代を中心に50歳代〜70歳代に多くみられる病気です。統計的には、約60%が50歳から70歳代で発症しています。しかし、若い方であっても、疲れが蓄積すると帯状疱疹を発症することがあります。また、エイズやがんなどに関連して水痘帯状疱疹ウイルスに対する免疫力が低下すると、帯状疱疹を発症しやすくなります。
2-2.部位
身体の左右どちらか一方の神経に沿って帯状にあらわれるのが特徴です。神経は全身に張り巡らされているため、身体中どこでも発症する可能性はあります。過去の報告(石川博康ら:日皮会誌113(8)、1229(2003))でも全身に起こっています。
頭部~顔面 | 17.6% |
頚部~上肢 | 14.5% |
上肢~胸腹部 | 31.2% |
腰背部 | 19.6% |
腰臀部~下肢 | 17.1% |
2-3.何度もかかるの?
通常は生涯に1 度しか発症せず、免疫が低下している患者さんを除くと再発することはまれです。但し、最近の超高齢化に伴うためか、私の経験でも高齢の方で再発される方が増えています。
3.症状は?
症状は、痛みと皮膚症状が中心となります
3-1.皮膚症状がないこともある
帯状疱疹は、神経領域に一致して症状が出現します。初期症状はぴりぴりとした皮膚の痛みであることが多く、必ずしも見た目の皮膚変化は伴いません。正直、この段階では診断は不可能です。また、患者さんによって「痛い」、「痒い」、「痛痒い」など表現方法も様々です。このような症状を、我々脳神経内科医は「異常知覚」と認識します。
なお、帯状疱疹であれば時間が経つにつれて徐々に赤みや水疱形成を伴うようになります。
3-2.全身をチェック、正中をまたぐことはない
患者さんや家族によっては、お腹や手に湿疹ができたと訴えられることもあります。その際、医師として必ず全身、特に背中の皮膚もチェックを忘れてはいけません。身体の表面だけでなく、背中にも皮膚症状があって、同じ神経領域であれば帯状疱疹である可能性は高くなります。
ただし、神経の走行は背中の脊髄から出て正中までです。ですから皮膚症状が身体の正中を超えることはありません。そのため腹部を中心に左右に広がっている場合は、帯状疱疹の可能性は低くなります。
3-3.水泡が一つであれば診断
帯状疱疹の特徴は、水泡という水の袋が発生することです。とても小さいのでライトを当ててしっかり観察することが大事です。仮に一つであっても水泡があれば、帯状疱疹である可能性が高くなります。
4.治療
帯状疱疹は、当初は痛みだけで何の病気か分かりにくいのですが、数日すると発疹が出てきます。症状に気づいたらすぐに受診してください。発疹が出て3日以内に抗ウイルス薬をのめば、多くは跡形もなくきれいに治ります。薬には、以下があります。
4-1.ゾビラックス(一般名:アシクロビル)
正直、昔の薬です。現在でもこの薬を出す先生がいますが、あり得ないと思います。何しろゾビラックスは、血中での滞在時間が短いため 1 日 5回服用する必要があります。と言っても寝ている間は服薬できませんから、どうしても24時間の中では抗ウイルス薬が切れる時間帯があるため、治療効果が落ちるのです。せっかく早めに受診してもゾビラックスしか処方されない場合は、すぐに医療機関を変えましょう。
4-2.バルトレックス錠(一般名:バラシクロビル)
ゾビラックスと違い、24時間薬の血中濃度が維持されため、帯状疱疹の治療効果が上がりました。実際には、バルトレックス500㎎を1回に2錠、1日3回を1週間服薬します。
難点としては
- 錠剤が大きく、1日6錠飲むのが負担
- 1錠が375.7円と薬価が高い・・1週間は服薬が必要になるため、1日6錠を7日間=42錠 42錠×375.7=15779.4円になります。
- 薬が腎臓で排泄されるため、高齢者など腎機能が低下している患者さんへの投与には注意が必要になります。
4-3.アメナリーフ錠(一般名:アメナメビル)
2017年9月に、新規作用機序の抗ヘルペスウイルス薬アメナメビル(アメナリーフ錠)が帯状疱疹の適応症で発売されました。1日1回400mgの食後投与1週間で有効性が確認されています。また、薬剤が糞中に排泄されるため、腎機能による薬物動態への影響が小さく、クレアチニンクリアランスに応じた投与量設定の必要がない点も優れています。
バルトレックスに比べ、1日1回で良い点、高齢者でも腎機能の低下を気にする必要がない点から、これからは主流になると思われます。なお、薬価は200mg1錠1469.70円。1日2錠を7日間=14錠 14錠×1469.70円=20575.8円と少し高いですが、副作用の少なさを考えるとやむを得ないと思います。
5.帯状疱疹後神経痛が減少した理由
帯状疱疹の皮膚症状が消失し、帯状疱疹が治癒した後も続く痛みのことを帯状疱疹後神経痛と言います。帯状疱疹後神経痛の代表的な症状は、「持続的に焼けるような痛みがある」、「一定の時間で刺すような痛みを繰り返す」といったものです。ほかにも、ひりひり、チカチカ、ズキズキ、締めつけられる、電気が走る、と表現されるような痛みを感じることがあります。そんな1年以上にわたって患者さんを苦しめた帯状疱疹後神経痛はなぜ減少したのでしょうか?
5-1.薬剤が改良された
ゾビラックスに比べ、バルトレックス錠やアメナリーフ錠は24時間途切れることなく血中濃度が維持されます。そのため、急性期疼痛および帯状疱疹関連疼痛の消失までの期間を有意に短縮させることが報告されています。
実際に、バルトレックス錠やアメナリーフ錠で治療された帯状疱疹の患者さんに、「痛み等は大丈夫ですか?」と聞いても、ほとんどの方が「大丈夫です」と答えられます。帯状疱疹後神経痛は脳神経内科医としての腕の見せ所なので、少し寂しい思いをしています。しかし、これは患者さんにとっては間違いなくメリットです。
5-2.高齢者が増えた
高齢になると、痛みに関する反応が鈍くなることも事実です。そのため、見かけ上相当ひどい発疹と水泡であっても殆ど痛み等を訴えない患者さんもいます。これも、帯状疱疹後神経痛を訴える患者さんが減った原因と思われます。
6.帯状疱疹はうつるの?
帯状疱疹は、他の人に帯状疱疹としてうつることはありません。ただし、帯状疱疹の患者さんから水ぼうそうにかかったことのない乳幼児などに、水ぼうそうとしてうつる場合があります。
7.帯状疱疹の予防接種は必要?
米国やヨーロッパの一部では約10年前から, 帯状疱疹予防ワクチンとして高力価水痘ワクチン(ZOSTAVAX®)が用いられていました。日本においても2016年3月より, 水痘ワクチンが高齢者の帯状疱疹予防目的で使用できるようになりました。但し、このワクチンには以下の課題が指摘されいることを考えると、現状では積極的に接種する必要はないと思われます。
- ZOSTAVAX®ならび水痘ワクチンはいずれも生ワクチン:免疫不全患者への接種は認可されていない。つまり、白血病, 抗がん剤使用中, 免疫抑制療法中, AIDSといった本来接種すべき対象者に使用できない。
- ワクチン効果の持続期間:現在のところワクチンによる帯状疱疹の予防効果がいつまで持続するのかについて, 明確な答えは出ていない。
- 抗ウイルス薬の副作用が少なく効果がある。
8.まとめ
- 帯状疱疹は、水ぼうそうの既往がある人ならだれでも罹る可能性があります。
- 早期治療が大切なため、皮膚症状が出れば1日でも早く医療機関を受診しましょう。
- バルトレックス錠やアメナリーフ錠のお陰で、帯状疱疹後神経痛の患者さんが激減しています。