「風邪は治ったけど咳だけが残る」あるいは「咳が止まらない」といった訴えで外来を受診される患者さんはかなり多いものです。その中で、「マイコプラズマ肺炎」と診断される方がいらっしゃいます。肺炎と名がつくため、少し不安になりますが、心配はありません。適切な治療をすれば、特に入院もせずに改善します。
ただし、マイコプラズマ肺炎は咳以外の症状があまり強くないため、医療機関への受診が遅れがちです。そうなると完治までも長引き、場合によってさらに悪くなることもあります。今回の記事では、総合内科専門医の長谷川嘉哉が、マイコプラズマ肺炎を疑うポイントを紹介します。あてはまる場合は、早めの受診がお勧めです。
目次
1.マイコプラズマ肺炎とは?
マイコプラズマ肺炎は、細菌のなかで一番小さな「肺炎マイコプラズマ」という病原菌による呼吸器感染症です。過去には4年ごとに大流行し、感染者が増えたことから、オリンピック肺炎と呼ばれたこともあります。発症年齢は5~14歳に多いと言われていますが、大人や乳幼児にも感染します。
マイコプラズマ肺炎は、高熱を発して入院が必要になる「肺炎」と自然に治る「風邪」の「中間」みたいな病気です。「肺炎マイコプラズマ」に感染して1~3週間後に熱や咳が始まります。ほとんどは「風邪」と区別がつかず数日で治りますが、「肺炎」になることもあるのです。
2.発生や流行の特徴
マイコプラズマ肺炎には以下の特徴があります。
2-1.流行時期
1年を通じて見られますが、冬場にやや増加する傾向があります。
2-2.感染経路
感染は、以下の2つの経路によります。
- 飛沫感染:感染者の「くしゃみや咳」と一緒に飛び出した肺炎マイコプラズマを吸い込むことにより感染します。
- 接触感染:感染者が手を触れたドアノブ、スイッチなどに触れることにより肺炎マイコプラズマが手に付着し、さらにその手で目や鼻、口などに触れることで、その部位の粘膜から体内に入り感染します。
2-3.潜伏期間
熱が下がっても痰には肺炎マイコプラズマが排出され続けます。排出される量は症状が最も強かった時期をピークに1週間ほど高いレベルで続き、その後も4~6週間以上排出されるため他人への感染には注意が必要です。
その上、感染後、潜伏期間は2~3週間と長いので、周囲にマイコプラズマにかかった人がいたら、しばらくは注意が必要です。
3.症状の特徴
発熱、全身倦怠感、頭痛などの全身症状が現れてから、少し遅れて乾いた咳がでます。咳は徐々に強くなって、夜間、早朝にでやすくなります。乾いた咳から湿った咳に変わり、熱が下がった後も約3~4週間、咳は長引きます。多くの場合、気管支炎などの軽い症状ですみますが、重症化して、肺炎をおこすこともあります。
嗄声、耳痛、咽頭痛、消化器症状、そして胸痛は約25%で見られ、また、10〜20%の人には発疹が現れます。気管支がゼーゼーいう喘息様気管支炎を呈することもあり、急性期には40%で喘鳴が認められます。
日々外来をやっていると、成人では比較的若くて元気な人がなりやすく、高齢者にはほとんどみられません。高齢者は、マイコプラズマ肺炎になる前に、通常の細菌性の肺炎になってしまうようです。マイコプラズマ肺炎には、他の細菌とは違う作用機序が疑われます。
4.合併症
症状が重くなると、中耳炎や無菌性髄膜炎、肝炎、脳炎などの合併症をおこすことがあります。その他、貧血、関節痛、髄膜炎などの神経系疾患がみられることもあります。
5.診断
外来では以下のように診断します。
5-1.採血
マイコプラズマ肺炎の場合、外来での緊急採血では、他の細菌性肺炎などで上昇がみられる白血球数やCRPが、正常にとどまることが特徴です。言い換えれば、採血だけでは診断ができないのです。
5-2.画像診断
マイコプラズマ肺炎は、一度外来を受診してから、咳が治らないため再受診する患者さんが多いのです。身体所見の診察では異常が診られないのに、レントゲン検査上で肺野に異常影を認めます。
5-3.迅速診断キット
実は、迅速診断キットがあります。マイコプラズマの検査は、検査の材料をのどから綿棒でぬぐい取るだけで簡単に行うことが可能です。検査の結果も15分くらいでわかります。
ただし、本当は、陽性なのに、陰性と出てしまう偽陰性があるため、検査が陰性でも100%マイコプラズマ肺炎を否定はできません。そのため、家族内での発生、症状、胸部XPからマイコプラズマ肺炎が疑われる場合は積極的に治療を行っていきます。
6.治療
治療は以下のように行います。
6-1.診断的治療
症状や胸部レントゲン検査の結果からマイコプラズマ肺炎が疑われる場合は、診断が確定する前でも治療を開始します。特に家族内でマイコプラズマ肺炎の患者さんがいる場合、胸部XPの異常影に比べ採血上の炎症反応が乏しい場合、咳が2~3週間続いている場合は、マイコプラズマ肺炎に効果がある抗菌薬を処方して、効果の有無で確定診断を行います。
6-2.通常の抗生剤が効かない
マイコプラズマは最小の微生物で、その大きさはおよそ 0.3 マイクロメートルくらいで、細胞壁を持ちません。このことから、細胞合成阻害を作用機序とする通常よく使用するペニシリン系やセフェム系の抗菌薬は、効き目がありません。
マイコプラズマに効く薬はマクロライド系の抗生物質です。よく使用される製品は、エリスロマイシン、クラリス、クラリシッド、ジスロマック等です。
6-3.耐性菌の出現
以前は、「マクロライドが効かないマイコはない」 と、言われていました。ところが、「マクロライドが効かないマイコ」が、2000年あたりからどんどん増えています。2000 年以降、検出された約 15%がマクロライド耐性を持つと判定されています。原因はいろいろ推察されていますが、マクロライド系の抗生物質の使い過ぎもあるようです。
マクロライド系の抗生物質が無効な場合には、テトラサイクリン系の抗生物質(ミノマイシン)や、ニューキノロン系の抗菌薬(オゼックス)が有効です。
7.予防
マイコプラズマ肺炎の予防には以下の対策が必要です。
7-1.手洗いが予防に有効
くしゃみや咳で飛び散ったウイルスを吸い込んだり、鼻水のついた手で触ったタオルや食器で感染がひろがります。保育園・幼稚園・小学校などの集団感染にも注意が必要です。また、家庭内でも兄弟や父母、祖父母に感染してしまうことがありますので家に帰ったら、手洗い、うがいを徹底しましょう。感染が拡がらないようにマスクを着用するなどしましょう。
7-2.マイコプラズマ感染症が学校で流行した場合
マイコプラズマによってかかる病気は学校保健安全法 第3種によって管理を受ける学校伝染病のひとつです。第3種は学校教育活動を通じ、学校において流行を広げる可能性のある疾患です。
学校保健法では、この第3種の疾患に関する扱いが明確に規定されておらず、学内で感染が確認されたら、流行を防ぐため、学長が校医の意見を聞き、条件によっては出席停止の措置が必要と考えられる伝染病のひとつとなっています。
8.まとめ
- 風邪症状の後に、咳が2-3週間続いた場合は、マイコプラズマ肺炎を疑いましょう。
- 治癒後も排菌している期間が長く、感染後の潜伏期も長いため身近な人がマイコプラズマ肺炎に罹患した場合は注意が必要です。
- 症状や検査でマイコプラズマ肺炎が疑われた場合は、治療することで効果をみる診断的治療を積極的に行います。