当直をしていると突然の痛みで駆け込んでくる患者さん、とりわけ尿管結石の患者さんにはよく遭遇します。正直、自分が罹患するまでは、「少し大げさでは?」「男は痛みに弱い?」と思っていました。しかし自分が尿管結石になったとき、患者さんは決して大げさでなかったことが分かりました。本当に本当に本当に痛いんです。そして、痛みが良くなっても、再発することもあります。そうなると、「また起こるのでは?」と考えるだけでも不安です。今回の記事では、総合内科専門医である長谷川嘉哉が、自ら経験した医師として尿管結石の治療法や再発防止方法についてご紹介します。
目次
1.尿管結石とは
尿管に結石ができることを言います。実は、腎臓で作られた尿が通る道である腎臓、尿管、膀胱、尿道などに石ができることを尿路結石といいます。尿路結石は、大きく2つ上部尿路結石(腎結石、尿管結石)、下部尿路結石(膀胱結石、尿道結石)に分けられます。
尿路結石のうち、尿管結石を中心とする上部尿路結石が、全体の約96%を占めます。この記事では尿管結石が含まれる尿路結石を中心に解説していきます。
2.結石の男女比と頻度は
尿路結石には以下の特徴があります。
2-1.男性の方が罹患しやすい
男女比が2.4対1で、男性の方が女性に比べて2.4倍もかかりやすいのです。この圧倒的に男性に多いことも尿路結石の特徴です。女性に少ないのは女性ホルモンのエストロゲンやプロゲステロンが関係するといわれ、閉経すると女性にも増え始めます。
2-2.罹患率
尿路結石は、男性の7人に1人、女性の15人に1人が一生のうちに一度はなると言われています。これは、これほどの痛みを伴う病気としては、凄い頻度です。特に、男性では40歳代、女性では50歳の患者さんが最も多いです。私は30歳代に発症しましたが、40歳を超えてから周囲の男性と話をすると、3人に1人は罹患しているのは?と思うほどです。
2-3.患者数が増加中
この40年間で患者数が約3倍に増加しています。理由は食生活の変化ではないかと考えられています。
3.尿路結石の症状
尿路結石は、結石ができた部位によって症状が異なります。
3-1.腎結石
鈍い痛み程度で、症状がないこともあります。
3-2.尿管結石
尿管結石は、「石が尿管の壁を傷つけるから痛くなる」と思いがちですが、そうではありません。腎臓は24時間ずっと尿を作っているので、尿管に石が挟まって尿の流れが遮断されると、腎臓の内圧が上昇します。石が尿管に挟まっている場合でも、腎臓は尿を作り続けるので、痛むのは腎臓そのものです。痛みを感じるのはわき腹や腰背部で、かなりの痛みです。自分の場合も、救急車を呼ぶ気持ちが分かるほどの痛みでした。同時に、発熱、吐き気、血尿などの症状が出ることもあります。一般的に、石が小さいほど痛みが強くなります。
ちなみに、出産経験のある女性に、尿管結石の痛みと陣痛の痛みを比較してもらったところ、同程度であるとのことでした。
3-3.膀胱結石
頻尿、残尿感が出現しますが、痛みはありません。尿管から石が膀胱に落ちた際には、膀胱結石となります。
3-4.尿道結石
排尿時に強い痛みが生じたり、血尿や尿が出にくいことがあります。
4.診断・検査所見
通常は、以下の所見を持った中年以降の男性が急激に発症した腰背部痛を訴えた場合は尿管結石を疑います。
4-1.尿検査
痛がられている患者さんには申し訳ありませんが、尿検査が必須です。目で見て分かる肉眼的血尿の場合もありますし、検査で初めてわかる血尿もあります。
4-2.CVA knocking pain
肋骨脊柱角の叩打痛のことを「CVA knock pain 」と言います。おおよそ、痛みがある側の背中側の肋骨の下あたりを叩くと、激痛が走ります。自分自身でも叩いてみましたが、確かに痛みが強まります。医師の方々には、くれぐれもいきなり強く叩かないで、徐々に力を込めていただきたいと痛感しました。
4-3.身の置き所のない痛み
痛みの中には、動けなくなるような痛みもあります。しかし、尿管結石の場合は、「身の置き所のない痛み」が特徴です。痛いのですが、じっとしていることができません。はたから見ると、「痛いのに何をウロウロしている?」と感じるようです。(自分が尿管結石になるまではそう思っていました)
4-4.腹部エコー
エコー検査は、痛みの原因となっている結石の詰まりによって生じた腎臓の腫れの有無を簡便に観察できます。
4-5.レントゲン
レントゲンは、カルシウムを多く含む結石であればレントゲンに白く写るので結石の部位と大きさ、位置が分かります。しかし、一部の結石はレントゲンに写りません。また、体のなかでは結石に間違いやすい石灰化がみられることがよくあります。そのため、以下の腹部CTが必要になります。
4-6.腹部CT
CTでは、結石の有無と位置、大きさがわかり、さらに痛みが他の病気によるものではないことが確認できます。尿検査と超音波、レントゲンで結石の存在がほぼ明らかな場合にも、CTをとり、結石の位置と大きさについてより詳細に調べます。
5.緊急時の治療
救急外来では、以下のような治療が行われます。個人的な体験も含めてご紹介します。
5-1.ブスコパンは効かない
尿管のけいれん性の痛みを抑える目的で、ブスコパン(一般名:ブチルスコポラミン臭化物注射液)の筋肉注射を行います。確かに教科書には記載されていますが、救急で受診するような状態では殆ど効果はありません。
5-2.ケトプロフェンの筋肉注射は痛いが効果あり
急性期に効果があるものとしては、抗炎症作用、鎮痛作用を有する酸性非ステロイド性抗炎症薬のケトプロフェンの筋肉注射です。なぜか尿管結石に著効します。しかし、筋肉注射自体がとても痛いものですので、これは我慢してください。
この注射は、筋肉注射ですが、臀部の筋肉と指定されています。少し、恥ずかしいですがこのことも我慢してください。
5-3.座薬が思いのほか効く
ケトプロフェンの筋肉注射ほどではありませんが、医師が処方するボルタレン座薬25㎎もしくは50㎎も効果があります。尿管結石になった患者さんは、必ず頓服で処方してもらい、冷蔵庫に常備されることをお勧めします。
6.経過・・自然排石を促す
石が尿とともに出てくることを排石といいます。外科的な処置をせずに、尿で出るようにすることが自然排斥です。
結石の大きさが、5mmより小さいものは自然排石が期待できます。したがって、5mmより小さい石については飲水や運動などで経過観察を行います。幸い、私も数日後に、尿道から石が出てきたときはとても嬉しかったものです。
5〜10㎜の大きさがある場合は、さらに以下のような指導を行います。
- 1日2L以上の水分摂取で利尿効果による排石促進を期待します。
- 縄跳び、階段昇降などの適度な運動で重力運動による排石促進を期待します。
- 薬物治療:尿管の攣縮抑制のある(商品名:コスパノン)や尿管結石の排出促進作用のある(商品名:ウロカルン)を使用します。
7.自然排石しない場合は
大きさが10mm以上の大きさの石では、自然排出はあまり見込めません。6-9㎜で自然排石しない場合や、10mm以上の大きな石については、以下のような対応をします。
- ESWL(体外衝撃波破砕術):体外から衝撃波エネルギーを当てて結石を小さく破砕し、尿管から膀胱に排泄させ除去する治療で、砂状になった結石は尿とともに体外に排泄されます。
- TUL(経尿道的結石破砕術):尿道から 細い内視鏡を入れて尿管または腎臓の結石をレーザや空気衝撃波などの砕 石装置で砕石します。破砕された結石片は、手術中に体外に取り出すこと ができます。
- PNL(経皮的結石破砕術):背中に小さな穴を開け、その穴から内視鏡を入れ、腎臓の結石を砕石、取り出す治療です。TULとの違いは、比較的大きな腎結石に対して行われることが多い手術です。
8.予防法は
尿路結石が5年以内に再発する確率は約45%と言われています。具体的な再発予防のために以下の点に気をつけましょう。(私も気をつけています)。
8-1.十分な水分を摂る
水分をあまりとらない慢性的に脱水の状態では、尿が濃縮されて尿路結石ができやすくなります。食事以外に1日2L以上の水分補給をし、1日尿量を2L以上とすることで、結石再発リスクを61%に減少できるという報告もあります。
とくに夏場の暑い時期や、入浴・運動後、夕食後の水分補給が大切です。ちなみに、私も夏場に高校の剣道部のOB会で剣道で汗をかいた翌日に発症しました、
8-2.動物性の脂肪、タンパク質を摂り過ぎない
食生活の欧米化が尿路結石の頻度増加の一因です。動物性脂肪を多く摂ると、腸内の脂肪酸が増えてカルシウムと結合するため、シュウ酸がカルシウムと結合できなくなり、このシュウ酸が吸収されて尿中へ排出され、結石ができやすくなります。また、動物性タンパク質が多いと、尿中尿酸が多くなり、結石ができやすくなります。和食をとるようにしましょう。
8-3.夕食を食べすぎない、寝る前に食事をしない
夕食に食事を多く摂ると、寝ている間に尿への結石形成促進物質(カルシウム、シュウ酸、尿酸など)がたくさん排泄されます。また寝ている間は水分が補給されないため、尿が濃縮されます。食後2〜4時間でこの尿中結石形成促進物質の濃度がピークになるため、できれば夕食は、寝る4時間前までに済ませるのが理想的です。
9.まとめ
- 尿管結石は、私自身の経験でもとても痛いものです。
- 緊急時の対応は、ケトプロフェンの筋肉注射が著効し、座薬も効果があります。
- 再発することも多いため、生活習慣の改善も大事です。