命を落とすこともある「椎骨動脈解離」とは?脳神経内科専門医が解説

命を落とすこともある「椎骨動脈解離」とは?脳神経内科専門医が解説

先日、お笑いコンビ千鳥のノブさんが、「椎骨動脈解離」という耳慣れない病気で安静・休養を取られました。「椎骨動脈解離」は、一般的には稀な疾患と言われています。しかし適切な診断を受けることなく、見逃されているケースもかなりあると言われています。今回の記事では、脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が、椎骨動脈解離について解説します。

目次

1.椎骨動脈解離とは?

椎骨動脈解離というと「椎骨動脈?」「解離?」と疑問を持たれるのではないでしょうか?

1-1.椎骨動脈とは?

人間の脳は、大量の血液を必要とします。そのため、心臓・大動脈から、左右の頸動脈と椎骨動脈の4本で血液を送っています。椎骨動脈は首付近から分岐して頸椎の中を通って脳の後ろ側を支配します。血管が頸椎という骨の中を通っているため、年を取って骨が変形すると血流が悪くなり浮遊感やめまいを引き起こします。

1-2.動脈解離とは?

動脈解離とは、動脈の血管壁に亀裂が入り、そこから血液壁の中に血液が流れ込んで、本来の血液の流れとは別の流れ道ができた状態です。この血管壁の裂けた状態を「解離」と言います。この部分が膨らんで「瘤」になった状態を「解離性大動脈瘤」と言います。

1-3.原因

明確な原因は分かっていません。しかし、整体やカイロプラクティックでの首の過度の動き、スポーツや交通事故が原因となったとの報告もあります。やはりある程度の年齢になると、過度な首の動きには注意が必要になります。

2.症状は?

椎骨動脈解離は以下のような症状を引き起こします。

2-1.後頭部痛

血管が裂けるわけですから当然痛みがでます。多くの場合、ある日突然、左右どちらかの後頭部痛が出現します。中年男性が、突然左右に限局した後頭部痛を訴えて受診した場合は、この病気を疑います。この状態で自然に軽快すると、「椎骨動脈解離」とは診断されないで見落とされるのです。

2-2.クモ膜下出血

血管が避けることで出血することがあります。出血すると、いわゆるクモ膜下出血となり、バットで殴られたような人生で経験したことのない頭痛が起きます。同時に、悪心と嘔吐を伴います。さらに悪化すると意識レベルが低下し、死に至ることも稀ではありません。

2-3.脳梗塞

血管が裂けることで血流が悪くなり脳の血管が詰まることがあります。椎骨動脈は、脳の後ろ側にある延髄や小脳の領域を支配しています。そのため、延髄梗塞や小脳梗塞により、浮遊感、回転性のめまい、顔のしびれ、反対側の体の感覚障害、嚥下障害などを引き起こします。


長谷川嘉哉監修の「ブレイングボード®︎」 これ1台で4種類の効果的な運動 詳しくはこちら



当ブログの更新情報を毎週配信 長谷川嘉哉のメールマガジン登録者募集中 詳しくはこちら


なお、報告例からはクモ膜下出血が、脳梗塞の2倍頻度が多いようです。推測するに、ノブさんは後頭部痛の段階で収まったのだと思われます。

3.予後

予後を左右することは、クモ膜下出血や脳梗塞を引き起こすか否かです。特に解離した急性期のリスクが高く24時間以内に発症することが多いとされています。急性期を過ぎると、危険性は徐々に下がり、1か月を過ぎてからは10%以下、2か月を超えるとほとんど心配はなくなります。ノブさんの1か月の安静と休養も極めて理にかなっています。ただし、クモ膜下出血や脳梗塞を合併すると後遺症を残すこともあり、1~2割は死亡すると言われています。

4.何科を受診?

予後のことを考えると、できるだけ的確な診断が望まれます。突然の後頭部痛を自覚して、「椎骨動脈解離」が心配になったら何科を受診すればよいのでしょうか?

4-1.本当に整形外科?

通常、寝違えた?運動をして捻った?などの痛みであれば整形外科に受診をします。しかし整形外科の医師は、「椎骨動脈解離」は専門外です。この疾患を念頭に置くことは少ないと思います。あまりに痛みが激烈で、症状が改善せず、さらに悪化する場合は整形外科疾患ではないと考えるべきです。

4-2.お薦めは脳神経内科か脳神経外科

「椎骨動脈解離」を本当に診断もしくは否定してもらうには脳を専門とする脳神経内科か脳神経外科の受診がお薦めです。ただし、この場合でも頭部CTだけでは診断は難しいため、頭部のMRIさらにはMRAまで撮影する必要があります。

5.まとめ

  • 「椎骨動脈解離」は突然の後頭部痛で発症します。
  • 放置すると、くも膜下出血や脳梗塞を引き起こし生命的危険もあります。
  • 何かおかしいと感じたら、脳神経内科や脳神経外科といった脳の専門医の受診をお薦めします
長谷川嘉哉監修シリーズ