医師は診断書でも患者さんを救える

医師は診断書でも患者さんを救える

先日、長年診察をさせていただいた患者さんがお亡くなり、ご家族が挨拶に来てくださいました。お亡くなりになっても、挨拶に来ていただくことは、医師冥利につきます。その時のご家族の言葉が、「先生のお蔭で住宅ローンが免除になったことが経済的に本当に助かりました。おかげで、心置きなく介護ができました」というものです。

実は、この患者さんの場合、私の専門医線としての知識と、FP(ファイナンシャルプランナー)としての知識を総動員して対応させていただいたのです。結果、ご家族の経済的負担は軽減できたようです。このように医師は、診断書でも患者さんを救うことができるのです。今回の記事では、脳神経内科専門医でありFP資格を持つ長谷川嘉哉が、診断書によって患者さんを救える方法についてご紹介します。

1.医師は診断書の書き方を知らない

今回の患者さんの場合は、私からご家族に住宅ローン免除の提案をさせていただきました。無事に申請が通った時のご家族の言葉は、「先生以外誰も教えてくれなかった」です。

保険の請求をする際や、各種社会制度の受給を受ける際に医師の診断書は必須です。しかし我々医師は、学生時代さらには医師になってからも一度も診断書の書き方を学ぶことはありません。したがって保険や社会制度についての知識はありません。そのため患者さんやその家族が持ってくる診断書の項目を埋めることしかできません。その診断書の意味することも知りませんので、患者さんに提案することなどは不可能なのです。

その結果が、今回の「先生以外誰も教えてくれなかった」につながったのです。

2.なぜFPの資格を取ったのか?

多くの方から、なぜ先生はそんなに保険や社会制度に詳しいのか聞かれます。実は、これは自分の苦い経験によります。開業間もないころ、若年性アルツハイマーの患者さんがいらっしゃいました。仕事は首になり、社会保険も切れていました。そのうえ住宅ローンを滞納し、自宅は競売。そのうえ、自己破産になり生活保護になってしまいました。その時に、主治医として何のアドバイスもできなかったことがとても悔しくて、FP資格を取るに至ったのです。

正直、今の私の知識であれば最低でも自宅は失わない方法をアドバイスできたと思います。

3.高度障害がポイント

診断書でも患者さんを救えるケースには、いろいろなものがあります。その中でもっとも影響が大きいのが「高度障害」です。高度障害については以下の問題があります。

3-1.保険販売員も理解していない

私は、約1万人の保険販売員にセミナーをしてきました。その中で気が付いたことは、かなりの数の保険販売員が高度障害を正確に理解していないことです。そのため本来は高度障害の適応であってもその知識がないために、お客様にアドバイスさえしていないのです。まさに保険販売員を称して、「保険を売るときは一生懸命だが、そのあとは何もしてくれない」です。


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3-2.高度障害で漏れている3大病態

保険販売員の多くは、高度障害=寝たきりと勘違いしています。高度障害については寝たきり以外にも多くの病態があります。私の経験上で、最も漏れている高度障害は以下の3病態です。

  • 対麻痺もしくは四肢麻痺:パラリンピックの車いすバスケットの選手のように両足に障害がある患者さんを対麻痺と言います。彼らは、頭はクリアで体力もありますが、対麻痺は高度障害になります。同様に、事故などで頸椎の損傷を受けて四肢麻痺を呈する患者さんも対麻痺となります。いずれも、患者さん自身はしゃべることも意思を通じることもできるため、高度障害と認識されないことが多いのです。
  • 胃ろう:脳血管障害の後遺症で嚥下障害が強く、口から食事が摂れない場合、胃に穴をあけて胃ろうを設置します。現在、国の胃瘻造設者数は約26 万人と推計されています。胃ろうを増設されている患者さんは殆ど高度障害となります。
  • 失語:優位半球の片麻痺の患者さん、具体的には右利きで右片麻痺の患者さんの場合、言葉を話せない失語という症状を合併することがあります。その場合の失語状態も高度障害になります。ただし失語がない片麻痺だけの患者さんは、高度障害の適応にならないので注意が必要です。なお高度障害については以下の記事も参考になさってください。

4.高度障害が認定されれば住宅ローンも免除

今回の患者さんもそうだったのですが、現役世代の患者さんは、住宅ローンを抱えてる方が多くいらっしゃいます。高度障害の基準と住宅ローンが免除される基準は同じです。つまり高度障害が認定されれば死亡時と同じ保険金が受け取れるうえに、住宅ローンも免除されるのです。逆に、高度障害が否認されれば、住宅ローンも残ってしまうのです。

そのため患者さんの状態で高度障害の可能性があれば、医師からアドバイスしてあげることは、病気になったという不幸を最小限化させるにも有効なのです。

5.終身保険をもらい忘れていませんか?

訪問診療などで、患者さんに「何か保険に入っていませんか?」と伺うと、ほとんどのご家族が「加入していません」と答えられます。そんな時に、昔加入していた保険証を出してきてもらいます。そうすると、終身保険が残っているケースがかなりあります。

今の高齢者は例えば死亡時3000万円の保障を取る場合に、定期保険2700万円と終身保険300万円という組み合わせで加入されていた方がいらっしゃいます。いずれも払い込みは現役時代に終わっているため、加入者としては保障もなくなっていると思っているのです。確かに定期保険は払い込み終了と同時に保障はなくなっています。しかし、払い込みが終わっても終身保険は効力が名前通り終身で残っているのです。

在宅などで寝たきり患者さんで、この終身保険が残っていると高度障害として生きているうちに保険金が受け取れます。私は、在宅患者さんで相当数の方にもらい忘れていた終身保険で給付を受けてもらっています。そうすると、多くのご家族は「介護に余裕ができた」と感謝いただけます。

6.まとめ

  • 多くの医師は、保険請求・各種社会制度の受給を受ける際に重要な診断書の書き方を学んだことはありません。
  • 特に高度障害の基準を知ることは、多くの家族の不幸を最小限化させます。
  • 高度障害の基準を満たすと、住宅ローンも免除されさらに家族の経済的負担を軽減させます。
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