グループホームとは、地域密着型サービスの一つで、認知症高齢者を対象に少人数で共同生活をする施設です。
格好良く言えば、高齢者のシェアハウスと言えます。
1990年代後半に国のモデル事業として始まり、2000年の介護保険制度開始を機に年々増え、2015年の時点では、全国の事業所数は12,983カ所あります(厚生労働省平成27年介護サービス施設・事業所調査)。
グループホームに入居するには、65歳以上かつ、要支援2または要介護1以上の認知症患者である必要があります。また、地域密着型サービスであることから、施設と同一地域内の住居と住民票があることが求められます。
その利用のためには、初期費用としての入居一時金・保証金、月々の居住費の他、日常生活費がかかります。
皆さんの疑問に思われる部分が「同じようなグループホームなのに費用がまったく違う」「費用が違うのはなぜ? 安いのはダメなの?」という点かと思います。
私自身、認知症専門医として外来・訪問診療をしながら、グループホームを経営する医療法人の理事長も務めています。今回の記事では、専門医および経営者の視点から、グループホームの費用について解説いたします。良いグループホームを見極めたいとお考えの方はぜひ参考になさってください。
目次
1.入居時の費用
入居時にかかかる費用です。施設によって、無料から100万円以上まで幅があります。
1-1.入居一時金
グループホームを利用する権利を得るために支払う費用です。
施設によって償却期間や償却率があらかじめ決められていて、一定期間内に退居した際にはこのルールに基づいて返還金が返還されます。償却期間・償却率は国によって定められた規定がないため、施設によって2年のところもあれば10年以上のところもあります。
なお、市町村によっては入居金の償却をみとめないケースもあります。しかし、私の経験では、市町村の担当者レベルで意見が異なったり、明確な指導がないようです。
グループホームの入居者さんは、入居期間が長期に及ぶことが少なくありません。できれば、償却期間が長いほうが退所時に戻ってくる額は多くなります。
1-2.保証金
貸住宅入居する際にかかる敷金にあたるもので、退居をする際の修繕費や清掃費、家賃を滞納したときの補填金として預けるものです。基本的に退居時に返却されます。
ただし、契約内容によっては返却がない場合もあります。どういった場合にどのくらい返ってくるのかを事前に確認しておきましょう。後々、退居時のトラブルにも繋がりかねないので、注意が必要です。
ただし、経営者の立場から申し上げると、利用者さんが亡くなった場合、相続等が確定されないと誰からも支払いをしていただけないことがあります。その際には保証金から充当することで、スムーズに対応できるのです。
2.月々の支出 その内訳とは
月々支払う費用は、以下のような内訳になっています。一般的には、これらを合わせて月20万円前後ほどかかるもの、と考えてください。具体的な数字として岐阜県土岐市の私の施設の金額を紹介します。私の施設は、やはり田舎のためか総額で15万円程度になります(2019年12月現在の参考費用)。
2-1.賃料
家賃相当額にあたります。そのため、地域により差が大きいものです。都会で部屋を借りるのか? 田舎で部屋を借りるのか?の違いになります。ちなみに、岐阜県土岐市の私の施設では、65,000円。都会だと、もっと高くなります。
2-2.水道光熱費
水道代、電気代、ガス代など。数千円程度のことが多く、、施設によっては管理費に含まれることもあります。
2-3.日常生活費
食費代および食事を作る設備費用もここに含まれます。食事代は、施設によって差があります。比較する場合、気にしてチェックしましょう。食事代を含めて、岐阜県土岐市の私の施設では、25,000円です。
2-4.管理費・共益費
介護職員の人件費や施設の管理費にあたります。岐阜県土岐市の私の施設では、38,000円です。
2-5.介護保険の自己負担額
グループホームサービス費と、サービス加算に関しては、1割負担が必要です(所得により2割)。要介護状態によって1日の単位が決められているため、介護度と照らし合わせて確認が必要です。1単位あたりの単価は住んでいる地域によって変わってくるので、介護保険・地域別単位加算表と照らし合わせて計算する必要があります。
私の施設では、30日で介護度1が22,410円、介護度2が23,460円、介護度3が24,180円、介護度4が24,660円、介護度5が25,140円となっています(平成29年12年の介護報酬表による)。おおよその参考になさってください。
2-6.医療費
これは施設に支払う費用ではありません。しかし、最近ではグループホームでも半数以上で看取りを実施しています。そのため、協力医療機関が定期的に訪問診療に入っています。この医療機関および薬局に支払う費用も必要になります。おおよそ、診察料・薬代を含めて1割負担であれば5,000円前後になります。
3.グループホーム入所に適した人とは
認知症高齢者が住み慣れた地域で生活を続けられるようにすることがグループホームの目的です。最も入所に適する条件を紹介します。
3-1.介護度が1〜2レベルの認知症の方
グループホームは、要支援2または要介護1以上の認知症患者が入居可能です。しかし、要介護3以上でいきなりグループホーム人所では混乱されることが多くなります。できれば、比較的軽度の介護度1-2レベルでの入所がお勧めです。入所後に進行する場合は、利用者さんも施設に慣れているので、比較的対応は容易です。
3-2.運動機能が自立できているアルツハイマー型認知症の方
グループホームは小規模であるために、運動機能が維持されているアルツハイマー型認知症を想定した設備設計となっています。そのため、お風呂・排泄・歩行いずれも運動機能が低下した場合には対応が困難となります。したがって、血管性認知症やレビー小体型認知症の方は、運動機能が低下した場合の次の施設も確保しておくことが大事です。
3-3.MMSEが10点台
認知症の側頭葉の機能を評価する、MMSE検査(ミニメンタルステート検査、Mini Mental State Examination、MMSE)で10点台の方がお勧めです。それ以下の方ですと、入居しても対応ができずに退所になったり、慣れるのに数か月かかることがあるからです。
4.費用の差がある理由
ご家族からすれば、できるだけ安くて素晴らしい施設を希望したいのですが、理屈上はそんな施設はありません。それなりのレベルの施設を望めば、それなりの費用が必須です。
4-1.土地代
以前に私の患者さんの一人娘さんが、嫁ぎ先の神戸市にするか、患者さんの住む岐阜県土岐市にするかでグループホームを迷われた方がいらっしゃいました。結論は、月額の費用負担が5万円違うことから、土岐市を選択されました。本当は、嫁ぎ先の神戸市が希望であったのですが、月額5万円の違いは大きかったようです。
経営者の立場からすれば、建築費や人件費は神戸市と土岐市でも大きな違いはありません。グループホームの運営には、土地を借りる、もしくは購入するにせよ土地代が大きく影響するのです。
したがって、最初にグループホームの月額自己負担が20万円前後かかると紹介しましたが、田舎なら15万円程度、大都会なら25万円以上かかることもあるのです。つまり、これらは土地のコストが大きな原因なのです。
4-2.現場職員の給与
それなりの介護経験があるスタッフの給与は当然ですが高くなります。
国が決めた人員配置もあくまで最低の基準であり、手厚くすれば人数も余分に必要になります。従って、質の良いサービスを手厚く提供しようとすれば、間違いなく給与負担は重くなります。
私は、現在協力医として8カ所に入っています。その中でも、値段の安さを売りにするグループホームの職員の質は相当低いものです。
4-3.大手は間接人員の人件費が現場にしわ寄せされがち
一般的な生産業は事業を拡大するほど、製品のコストは安くなります。しかし、介護業界は事業を拡大してもコストは安くなりません。逆に、利益を生まない間接人員が必要となり、現場職員にコスト負担がかかります。そのため、全国展開したり、株式上場している大手のグループホームの方が職員の給与は低くなります。
5.費用の補助制度は
認知症グループホームは介護保険法上、特別養護老人ホームや老人保健施設などに入所した場合の収入等による居住費・食費の軽減制度がありません。低所得者の方は、高額な費用を負担することが困難となり、入所をあきらめている場合もあります。
5-1.家賃等助成事業
市町村によっては、認知症対応型共同生活介護事業所家賃等助成事業を実施することにより、認知症グループホームへの入所が必要な低所得者に家賃等を助成し、経済的負担の軽減を図ることがあります。あくまで全国の市町村レベルの判断なので、皆さん各自で問合せてみてください。
5-2.生活保護の住宅扶助以内の家賃設定の確認を
生活保護の場合は、施設の家賃(住宅扶助)というのは、市町村により上限が決められています。そのため、グループホームの家賃が上限を超えると入所ができません。しかし、多くの施設では、別で生活保護の住宅扶助の上限以内の家賃を設定している場合があります。各グループホームに問合わせてみてください。
5-3.将来を見越して、老健・特養の予約を
多くの家族は、できれば家庭的なグループホームで最後の看取りまでを希望されます。しかし、月々の費用負担が年金額を超える場合は、貯金の取り崩し、もしくは子供さんたちの負担となります。
このようなケースでは、早い段階で老健(介護老人保健施設)や特養(特別養護老人ホーム)の予約をお勧めします。通常、入所が決まるまで1〜2年は待つ必要があります。その間だけは費用負担を貯金や子供が負担します。負担が限界に近づいたころに、老健・特養の入所が決まり費用負担がなくなるのです。
最近では、本当はグループホームでの看取りまでを希望されながら、費用負担のために対処して特養・老健に変えられる方が増えてきました。
6.負担を減らす裏ワザとは
ご家族がグループホームに入居されている方にこそ忘れてほしくない情報をご紹介します。
6-1.介護認定で障害者控除
確定申告時の障害者控除は介護認定でも認められます。介護保険の認定で「要支援から要介護2までの方」は障害者控除(27万円)を、それ以上の「要介護3からの方」は特別障害者の控除(40万円)が受けられます。
6-2.特別障害者手当も検討する
精神又は身体に著しく重度の障害を有するため、日常生活において常時特別の介護を必要とする状態にある在宅の20歳以上の者に支給されます。この場合の「在宅」ですが、介護保険上、グループホームは在宅扱いになりますから、対象になります。ただし、全員が対象になるわけではありません。おおよそですが要介護で4~5の認定を受けているようでは主治医と相談してみてください。
7.退去時の現状復帰は
原状回復の費用負担については、「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」において、『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』(平成10 年3 月建設省住宅局・(財)不動産適正取引推進機構)を参考にしてください。
このガイドラインでは、「原状回復義務」については、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」(*平成23年改訂版)と、定義しています。簡単にいえば、「入居者は、ふつうの使い方以上にひどい使い方をしたときに復旧する義務がある」ということです。
8.まとめ
- グループホームには、入居時の負担と毎月かかる負担があります。
- 入居時の負担は、無料から100万円以上と差があり、毎月の負担も15万円から25万円と、地域・施設によって差があります。
- できるだけ安くて素晴らしい施設を希望したいのですが、それなりのレベルの施設を望めば、それに応じた費用が必須です。