介護保険サービスを利用しない家族が陥りがちな「介護地獄」を避けるために

介護保険サービスを利用しない家族が陥りがちな「介護地獄」を避けるために

長年、外来で看ている80歳代の認知症患者さんがいらっしゃいます。認知機能は急激に悪化していますが、介護保険サービス利用は断固拒否。そのため、子供さんたちが手分けをして介護を行っていますが、徐々に疲弊してきています。このような状態では、いずれ介護地獄に陥る可能性があります。外来では「このままいくと大変なことになる」とアドバイスをしても、その状態にならないと理解いただけないご家族が居らっしゃいます。今回の記事では、ケアマネ資格をもつ認知症専門医である長谷川嘉哉が、介護地獄という落とし穴にはまらないための方法を解説します。

1.介護地獄とは?

介護地獄という言葉には、明確な言葉の定義があるわけではありません。しかし、認知症専門医としては以下のような状態が重なると介護地獄と考えています。

1-1.特定の介護者に介護が集中

有吉佐和子さんが「恍惚の人」で認知症を描かれた50年前から、介護をする人は変わっていません。相変わらず、配偶者、長男の嫁、子供などの特定の一人に介護者集中しがちです。彼らが、不平を言わずに、一人で介護を抱え込むと、時に「介護うつ」になったり、最悪は「介護殺人」さえ起こすことがあるのです。介護うつについては、以下の記事も参考になさってください。

1-2.介護サービスを利用しない・できない

2000年4月に施行された介護保険制度は、そんな特定の介護者への負担を減らすことが目的です。しかし、要介護者自身が、介護保険サービスの利用を拒絶すると、利用することはできません。逆に、要介護者さんが介護保険サービスを利用しても、暴言・暴力行為などがひどいと、介護事業所から利用を断られます。理由の如何に関わらず、介護保険サービスを利用してもらえないと、介護者にとっては「介護地獄」です。

1-3.周囲の中途半端な手助け

介護をする人的資本を、「介護力」といいます。その介護力が極めて乏しい状態はかえって良いかもしれません。何しろ介護する人がいないのですから、行政や介護サービスを利用するしかありません。中途半端に、介護を助けてくれる身内がいるとかえって厄介です。助けると言っても、「通院に付き合う程度」、「たまに顔を出す程度」。これでは主たる介護者にとっては、救いになりません。かえって、「これ以上自宅での介護は無理」といった本音を伝えることができなくなるのです。

1-4.ケアマネがいない

介護保険サービスを使っていない患者さんを診察することは不安です。その理由は、ケアマネがついていないことです。ケアマネは、介護保険サービスを利用することで、最低でも月1回の自宅への訪問が義務付けられます。そのため、要介護者やご家族の状況に変化が起こった場合は、即座に対応することができます。ケアマネがついていないことは、介護へのリスク対応が遅れがちになる可能性あるのです。

2.介護の流れは予想できる

介護者の変化は突然起こるわけではありません。おおよその流れは予想できるのです。

2-1.認知症介護とMMSE

認知症患者さんに対して、MMSE(Mini Mental State Examination:ミニメンタルステート検査)を定期的に行うことで、介護者への負担がおおよそ把握できます。私は、30点満点で15点を切ってくると、自宅での介護は難しくなると説明しています。

2-2.運動機能

脳血管障害や加齢による廃用性下肢筋力低下で、トイレ等への移動に介護が必要になってくると介護者への負担が重くなります。特に、夜間のトイレが頻回になると、介護者は睡眠不足になり、体調を崩す可能性も高くなります。こうなると、自宅での介護は、限界に近くなっているのです。

2-3.症状はさらに悪化する

気をつけないといけないのは、ご家族は「今の状態が続く」と考えることです。仮に、MMSEが15/30点で介護ができていても、症状はさらに進行するので、さらに介護負担は重くなるのです。現状、ぎりぎり夜間のトイレ介助ができていても、さらに運動機能が悪化したり、夜間の排尿回数が増える可能性が高いのです。


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3.ぎりぎりまで家族介護した場合のリスク

外来で看ている80歳代の認知症患者さんは、MMSEは10点を切っており、認知症介護としても限界を超えています。しかし、実の娘さんたちの中途半端な支援のため、主たる介護者である長男のお嫁さんは限界を口にできません。

娘さんは、「ギリギリまで自宅で看て最後は入所」と言われます。しかし、施設としても、本当に悪くなってからの入所は、対応が大変です。そのため、入所施設側からお断りされることもあります。実際、私の運営するグループホームではMMSEが10点以下の入居は、基本的にはお断りするようにしています。(もちろん、入居後にMMSEは10点以下になった場合は、入所は継続いただけます)

やはり、入所のコツは、少し早いと思われる段階での決断がお薦めです。そうすることで、介護者へ過大な負担を強いることが避けられますし、要介護者本人も環境変化に対応できます。

4.介護地獄に陥らないために

介護地獄に陥らないためには、以下のような対策が重要です。

4-1.介護サービスの利用

とにかく、週1回の訪問介護、デイサービスでもよいので、介護保険サービスを利用しましょう。要介護者さんが拒否をしても、ひるんではいけません。この時こそ、実の子供さんたちが必死に説得してください。ここを乗り切らないと、担当ケアマネさんもつきませんし、特定の介護者に負担がのしかかるのです。

4-2.介護サービス利用の説得を諦めない

説得しても要介護者さんが納得されない場合は、諦めずに最低でも月1回は説得にあたりましょう。私の経験でも、相当介護保険サービスの利用を嫌がっていた患者さんも、半年も説得すれば利用してくれます。それでも利用いただけなければ、施設入所を考えるべきです。

4-3.薬による援護射撃も

介護保険サービスの利用を薦めても、最後は怒りだしてしまうような方は、前頭葉機能の低下もしくは認知機能障害が疑われます。この場合は、主治医の処方薬のによる援護射撃が重要です。その中でも、メマリーは一度は試してみる価値のある薬です。メマリーについては以下の記事も参考になさってください。

5.まとめ

  • 相変わらず特定の介護者に、介護が集中しているご家族が見受けられます。
  • そのような状況で介護保険サービスを利用いただけないと、介護地獄に陥りの可能性が高くなります
  • 介護保険サービスの利用を拒否された時こそ、家族総出で、利用の説得を続けましょう。
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