認定内科専門医が解説・・検診でコレステロールの値だけをみてはいけない理由

認定内科専門医が解説・・検診でコレステロールの値だけをみてはいけない理由
2019-02-04

検診で、コレステロール値の異常を指摘された方は多いのではないでしょうか? その場合、医療機関への受診を勧められることもあります。受診すると、生活改善を指導されたり「再検査」を行うよう指導されたり、時にはすぐに薬が処方されることもあります。

実は、コレステロールには、善玉コレステロール(LDL)や悪玉コレステロール(HDL)、最近では超悪玉コレステロールまであります。そのため、医師は、単純にコレステロールの数値だけでなく、既往歴、合併症、LDLとHDLのバランス等を考えて指導治療します。今回の記事では、認定内科専門医の長谷川嘉哉が、コレステロールが高いと言われた場合の対応方法の違いを解説します。

目次

1.コレステロールとは

コレステロールは、細胞の膜を構成したり、腸内での脂肪の消化に役立つ胆汁酸やホルモンの一種でもあるステロイドホルモンの原料となる、体にとって必要な物質です。胆石から抽出された固体がコレステロールであり,ギリシャ語の“chole”(胆汁)と“stereos”(個体)で「コレステロール」と名づけられました。

1−1.総コレステロール

総コレステロールの中には,動脈硬化を促進する悪玉コレステロール動脈硬化を防ぐ善玉コレステロールの2種類があります。この2種類を合わせたのが,総コレステロールです。保険診療では脂質関連の測定は3種類しか認められないため、「LDLコレステロール,HDLコレステロール,中性脂肪」の3種類の脂質が測定されるのが一般的です。そのため、総コレステロールの数値で治療等を判断することはありません。

1−2.HDL-コレステロール

HDL-コレステロールは、血液中の余分なコレステロールを肝臓に運ぶ役割をしています。いわば血液中のコレステロールが増えるのを防いでいます。HDLコレステロールは、その血中濃度が高いほど動脈硬化性疾患にかかりにくいという過去の研究結果から「善玉コレステロール」と呼ばれています。

基準値は男性の場合、1デシリットルの血液のなかに40ミリグラム~86ミリグラム。女性の場合、40ミリグラム~96ミリグラムです。通常、HDLの数値が100を超える人はまれです。私の外来にも、10人程度いらっしゃいますが、話を聞くと「長寿の家系」であることが多いようです。

1−3.LDL-コレステロール

コレステロールを細胞に届けているのがLDL-コレステロールです。細胞に必要以上にコレステロールが増えてしまうと、血管を硬化させ動脈硬化を促進します。このため「善玉」に対しLDLは「悪玉コレステロール」と呼ばれています。

LDLは70~139ミリグラムが基準となっています。

1−4.小型LDL-コレステロール(=超悪玉コレステロール)

LDLコレステロールには、さまざまな大きさのものがあります。心筋梗塞などの心疾患を起こした人のLDLコレステロールを調べると、とくに小型のタイプが多くみられます。小型LDLコレステロールは、小さいだけに血管壁に侵入しやすく、また肝臓に吸収されにくいため血液中に長くとどまって酸化され、動脈硬化の直接的な原因となりやすい性質があります。そのため「超悪玉コレステロール」と呼ばれています。悪玉(LDL)コレステロールが多い人の中でも、超悪玉(小型LDL)コレステロールの量が多い人ほど、心筋梗塞を起こす確率が高くなります

1−5.コレステロールと中性脂肪はどう違うの?

簡単に言うと、コレステロールは細胞やホルモンの材料、中性脂肪はエネルギー源になります。

2.コレステロール値は、LDLとHDLの比(バランス)を重視する、とは

臨床の場では、総コレステロールの数値ではなく、LDLとHDLの比を重視します。

2-1.脂質異常症とは

脂質異常症とは、血液中にふくまれるコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)などの脂質が、一定の基準よりも多い状態のことをいいます。 脂質異常症は以前、高脂血症と呼ばれていました。しかしコレステロールの中でも、善玉のHDLコレステロール値については高いほうがいいことが判明し、現在は多くの病院で脂質異常症という名称になっています。

なお今回は、コレステロールの話を紹介しています。中性脂肪については以下の記事を参考になさってください。

2-2.LH比が3.0は危険領域

LH比とは、「LDLコレステロール値÷HDLコレステロール値で示される比率」のこと。たとえば、LDLコレステロール値が135mg/dlで、HDLコレステロール値が45mg/dlとすると、「135÷45=3」で、LH比は3.0となります。


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例で示したLDLとHDLの数値(135mg/dl、45mg/dl)は、個別にみると、どちらも現在の基準では「正常」の範囲です。治療が必要とされるのは「LDLコレステロール値が140mg/dl以上」、または「HDLコレステロール値が40mg/dl未満」なので、どちらにも該当せず、健康状態ということもできます。ところがLH比でみると3.0というのは、じつは動脈硬化が進んだ「かなり危険」な領域なのです。

2-3.LH比でわかる健康の目安

過去の報告例からから、LH比が2.0を超えると血管内のコレステロールの蓄積が増えて動脈硬化が疑われ、2.5を超えると血栓ができている可能性があり、心筋梗塞のリスクも高いことが指摘されています。その反対にLH比が1.5以下では、血管内がきれいで健康な状態です。

そのためLH比の目安として、「ほかの病気がない場合には2.0以下に」、また「高血圧や糖尿病がある場合、あるいは心筋梗塞などの前歴がある場合には1.5以下に」することが望ましいとされています。

最近は健康診断で、LDLとHDL両方のコレステロール値を計測することが一般的になってきています。LH比(LDL値÷HDL値)は簡単に計算できるので、コレステロールを見直すきっかけにしましょう。

3.冠動脈疾患発症予測モデル

2017年動脈硬化性疾患予防ガイドラインが改訂されました。その中では、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)について、コレステロールだけでなく、年齢、性別、喫煙、血圧、糖尿病もトータルに加味した予測モデルが提示されました。少し、面倒くさいですがよろしければ当てはめてみてください。ちなみに私は38点でしたので今のところは、10年以内の発症確率は1%のようです。

例えば、65歳の男性が、タバコを吸って、血圧をSBP160以上でも放置して、糖尿病があって、LDLが160であれば、合計77点で10年以内の発症確率は28%を超えます。これはすごい数字です。

「脂質異常症の診断基準 2017」の画像検索結果
冠動脈疾患発症予測モデルの計算式

4.コレステロールはなぜ高くなる?

そもそもコレステロールはなぜ高くなるのでしょうか?コレステロールが高くなる原因には、体質(遺伝)、脂肪の多い食事(欧米スタイルの食生活)、運動不足などがあり、男性は40~50歳くらいから、女性は閉経を迎える頃から高くなることが多くみられます。したがって下げるには、薬物治療前に運動食事療法が重要になります。

5.運動療法

運動は、肥満の解消に加えて、内臓のまわりについた脂肪を減らしたり、筋肉を増やして糖や脂肪の代謝をよくします。これによって、高コレステロール血症だけでなく、生活習慣病や年齢とともに現れるさまざまな病気に効果があります。これらの効果は、肥満の人だけでなく、肥満ではない人でも十分に期待できます。

おすすめは「歩く」ことです。運動として「歩く」ためには、少し工夫が必要です。普段歩くよりも速く、少し汗ばむくらいの速さで歩きます。多少息が切れながらも、人と話しながら歩けるペースが目安です。息が苦しく「きつい」と感じるのはペースが速すぎです。歩数や体重を毎日記録すると、運動を続ける励みになります。

6.食事療法

ポイントは腹八分をこころがけ、バランス良く食べることです。

  • 肉類のおかずより魚介類や大豆製品のおかずを心がけましょう 。
  • 卵(魚卵を含む)、レバーなどの内臓系や肉の脂身などコレステロールを多く含む食品に注意しましょう 。
  • アルコール、菓子、間食、甘い飲み物は控えましょう 。
  • 油を使った料理は控えましょう。
  • 野菜、海藻、きのこなど食物繊維の多い食品をしっかり摂りましょう。

7.薬物治療

運動・食事療法でコレステロールが下がらないときは、薬物治療を行います。また、家族性の脂質代謝異常の患者さんは、運動食事ではコントロールできないため積極的に薬物治療を行います。

7-1.副作用は心配ない

コレステロールを下げる薬は、副作用として血液中のCK(クレアチンフォスフォキナーゼ)が上がることがあります。 CKは筋肉のなかにある酵素ですので、この副作用に目を付けて週刊誌が「コレステロールの薬で筋肉が溶ける!」とあおっていました。しかし、筋肉が溶けることはなく、CKが高くなれば薬を中止するだけで回復しますので心配いりません。

7-2.スタチン系薬

もっとも使われている薬です。肝臓におけるコレステロール合成を抑え、主に血液中のLDLコレステロールを低下させ、動脈硬化などを予防します。LDLコレステロール低下の度合いによってスタンダードスタチンとストロングスタチンに分けられます。

  • スタンダードスタチン:メバロチン(一般名:プラバスタチンナトリウム)、リポバス(一般名::シンバスタチン錠)
  • ストロングスタチン:クレストール(一般名:ロスバスタチンカルシウム錠)、リバロ(一般名:ピタバスタチンカルシウム錠)、リピトール(一般名:アトルバスタチンカルシウム水和物錠)

7-3.小腸コレステロールトランスポーター阻害薬

小腸におけるコレステロールの吸収を抑え、血液中のコレステロールを低下させる薬です。スタチン系とは、作用機序が異なるります。そのためスタイン系でコントロールが不十分な場合は、併用することも可能です。遺伝性の脂質代謝異常の患者さんには併用することもよくあります。

  • ゼチーア:一般名エゼチミブ錠

8.まとめ

  • コレステロールは、LDLとHDLの比が重要です。
  • 冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)の発症には、年齢、性別、喫煙、血圧、糖尿病が相互的に関与します。
  • 運動食事でコントロールできない場合は、薬の力も借りましょう。
長谷川嘉哉監修シリーズ