インフルエンザの流行が季節を問わないようになってきました。
インフルエンザは風邪とは全く異なります。40度近い高熱、筋肉痛で発症し、肉体的なダメージも強く、仕事や学校も休まざるを得なくなります。そのため適切な時期に医療機関に受診し、診断・治療してもらう必要があります。さらに、自分だけでなく感染を周囲に広げない対策も忘れてはいけません。
そもそもインフルエンザにかからないための予防接種・抗インフルエンザ薬の予防投与も知っておくべきです。そこで今回の記事では総合内科専門医である長谷川嘉哉が、インフルエンザの疑問を解決し、予防法、症状、治療法を詳しく解説したいと思います。
目次
1.インフルエンザとは?
インフルエンザとは、インフルエンザウイルスに感染して起こる感染症です。
1-1.インフルエンザウイルスの種類
インフルエンザウイルスには A型、B型、C型があり、ヒトに流行を起こすのはA型とB型です。A型はヒト以外にもブタ、ウマなどの哺乳類やカモ、ニワトリなどの鳥類などに感染します。一方、B型の流行が確認されているのはヒトだけです。
ウイルス表面から突き出たタンパク質のうち、重要なタンパク質であるヘマグルチニン(H1~H16の16種類)と、ノイラミニダーゼ(N1~N9の9種類)の組み合わせによって、A型インフルエンザウイルスは144通りの亜型に分類されます。例えばA型インフルエンザウイルスであり、ヘマグルチニンがH1で、ノイラミニダーゼがN1であれば、A(H1N1)亜型というように呼ばれます。亜型ごとに感染後に体内の免疫反応を引き起こす抗原としての性質(抗原性)が異なるます。ただし、インフルエンザワクチンのタイプの予想が外れてしまっても、50~60%は予防効果があったと報告されています。効果は薄れますが、それなりの効果は期待できるのです。
1-2.流行する時期
A型・B型インフルエンザの流行には季節性があり、日本国内では例年12月~3月に流行し、短期間で多くの人に感染が拡がります。しかし、近年は外国人が日本に訪れることが増えています。熱帯地方では、一年中インフルエンザが流行していますので、国内でもインフルエンザは年中発生すると考える必要があります。
1-3.症状は風邪とは違う
風邪は様々なウイルスによって起こります。風邪の多くは、のどの痛み、鼻汁、くしゃみや咳等の症状が中心で、全身症状はあまり見られません。発熱もインフルエンザほど高くなく、重症化することはあまりありません。
一方、インフルエンザは、インフルエンザウイルスに感染することによって起こる病気です。38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、全身倦怠感等の症状が比較的急速に現れるのが特徴です。小児では急性脳症を、御高齢の方や免疫力の低下している方では肺炎を伴う等、重症化することがあります。
ちなみに、英語では、風邪を「catch a cold」、インフルエンザは「 flu」と明確に使い分けられています。
2.インフルエンザ診断方法
医療機関の現場では以下のように診断をします。
2-1.一年中発生する可能性がある
先ほどご紹介したように、海外からのインフルエンザの持ち込みにより、年中患者さんが発生します。現実に平成30年は9月の段階で、全国の広範囲で学級閉鎖になっています。突然の発熱の場合、季節にかかわらずインフルエンザを鑑別することが必要なのです。
2-2.症状が大事
最近では、キットにおけるインフルエンザの診断が絶対視されていますが、最も大事なことは症状です。診察においては、症状を詳細に聞き、突然の38℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、全身倦怠感等があればインフルエンザを強く疑います。同時に、周囲における感染状況も重要な手掛かりになります。
ただし、「高熱はすべてインフルエンザではない」ということも気を付けながら診断をする必要があります。
2-3.高齢者において診察前の2つの検査は必須
当院では、高熱の患者さんが受診をした場合は、緊急採血と鼻腔におけるインフルエンザウイルスの検査を行います。高熱の患者さんの場合、その原因がインフルエンザのようなウイルス性か細菌性かの鑑別は必須だからです。
緊急採血では、白血球とCRP(体内で炎症が起こると血液中に流れ出し増加する)を測定します。通常、インフルエンザウイルス感染では、白血球とCRPの数値は正常か軽度の上昇程度です。逆にCRPが5以上(正常は0.5以下)は、細菌感染を強く疑い、抗生剤治療を行います。
インフルエンザ検査は、100%正確ではありません。本当は陽性なのに陰性と出る例(偽陰性)と、陰性にも関わらず陽性に出る例(偽陽性)があるのです。つまり、インフルエンザが陰性であっても、本当はインフルエンザの方もいるのです。
したがって、検査で細菌感染とインフルエンザが否定された場合でも、症状が明らかにインフルエンザの場合、インフルエンザの治療を行うことはあるのです。
3.治療方法
インフルエンザの治療は、以下の治療薬が認可されています。
3-1.抗インフルエンザウイルス薬(経口薬)
抗インフルエンザウイルス薬の服用を適切な時期(発症から48時間以内)に開始すると、発熱期間は通常1~2日間短縮され、鼻やのどからのウイルス排出量も減少します。なお、症状が出てから2日(48時間)以降に服用を開始した場合、十分な効果は期待できません。効果的な使用のためには用法、用量、期間(服用する日数)を守ることが重要です。
- オセルタミビルリン酸塩(商品名:タミフル):A型インフルエンザおよびB型インフルエンザ両方に効果があります。粉薬とカプセルがあり、生後2週目の小児から服用できます。一時、異常行動の副作用の疑いがあり10歳代への投与が原則禁止されていました。2018年度からは、10歳代の患者への使用が約10年ぶりに処方可能になります。
- ザナミビル水和物(商品名:リレンザ):A型インフルエンザおよびB型インフルエンザ両方に効果があります。1日2回吸入する抗インフルエンザ薬です。正しく吸えないと効果が出ません。そのため、高齢者や上手に吸入ができない子供には使われないことが多いです。インフルエンザウイルスが増殖する気道にピンポイントで作用するため効果が速く、全身への影響も少なく、副作用の発生も比較的少ないです。
- ラニナミビルオクタン酸エステル水和物(商品名:イナビル):A型インフルエンザおよびB型インフルエンザ両方に効果があります。長時間効果があるので、1回の吸入でインフルエンザの治療が終了します。
- バロキサビル マルボキシル酸(商品名:ゾフルーサ):1回の経口投与で効果があります。まさに従来の抗インフルエンザウイルス薬の「吸入しにくい」、「5日間継続」といった問題点を克服した薬と言えます。
ゾフルーザについては以下の記事で詳細に解説しています。
3-2.抗インフルエンザウイルス薬(点滴)
昨年、抗インフルエンザウイルス薬の点滴が効果をあげています。製品名は「ラピアクタ」。1回15分~30分ほどの点滴で、タミフル2錠×5日分と同じ効果を得られると言われています。さらに、タミフルとラピアクタの解熱効果を比較したところ、ラピアクタの方が、早く効果が出たという報告も発表されています
通常、経口薬の場合は、服薬後消化管から吸収されてから全身に効果を発現します。しかし、点滴の場合は、開始してすぐに効果を発現します。実際に患者さんたちも、点滴後短時間で解熱、身体が楽になったと言われます。
3-3.麻黄湯
漢方薬の麻黄湯は、インフルエンザに保険適応があります。。抗ウイルス薬とは異なり、抗ウイルス作用に加えて宿主側の免疫応答を調整することでも効果を発揮すると報告されています。以下のような報告例もあります。(The efficacy of ma-huang-tang (maoto) against influenza(Saita M, Naito T, et al. Health 3,2011;300-303)
(1)麻黄湯のインフルエンザ感染後の解熱作用は、抗ウイルス薬と同等だった。
(2)麻黄湯は、インフルエンザ感染後の頭痛、筋肉痛、咳、倦怠感の自覚症状において、抗ウイルス薬と同等の効果が認められた。
(3)関節痛に関しては、タミフル単独群よりも有意な改善効果が認められた。
私の外来でも、抗インフルエンザウイルス薬と一緒に処方することで効果をあげています。
麻黄湯には以下のような製品があります。Amazon広告でご紹介します。
4.診断と治療上の注意
インフルエンザには、以下の点に注意してください。
4-1.やはり発熱後6時間までは受診を控えよう
最近の検査キットは、発熱から約3時間でインフルエンザの判定を行うことができ、早期の診断が可能なものも出てきました。しかし、だからといって、熱が出たからといってすぐに受診する必要はありません。人間は、発熱によって病原菌を撃退する仕組みができているため、熱が出ても、数時間で解熱される方もたくさんいます。
やはり、従来通り、最低でも発熱後6時間は様子を見てもらいたいものです。
4-2.解熱鎮痛剤は原則使わない
体にインフルエンザウイルスが侵入すると、体温を上げることでウイルスに対抗しているため、無理に熱を下げることはウイルスへの対抗力を下げることにもつながります。さらに副作用としてインフルエンザ脳症の予後の悪化やライ症候群を引き起こす可能性が高くなることがわかっており、子供だけではなく大人も使用を控えた方が良いとされています。
4-3.いつまで休む?
一般的に、インフルエンザ発症前日から発症後3~7日間は鼻やのどからウイルスを排出するといわれています。そのためにウイルスを排出している間は、外出を控える必要があります。排出されるウイルス量は解熱とともに減少しますが、解熱後もウイルスを排出するといわれています。
排出期間の長さには個人差がありますが、咳やくしゃみ等の症状が続いている場合には、不織布製マスクを着用する等、周りの方へうつさないよう配慮しましょう。
現在、学校保健安全法(昭和33年法律第56号)では「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を経過するまで」をインフルエンザによる出席停止期間としています。
いずれにせよ、インフルエンザは感染力が強いため、無理に会社や学校に出てこられると大変迷惑です。「風邪ぐらいで会社を休むな、インフルエンザでは会社に来るな」です。
5.合併症
インフルエンザは重い合併症を引き起こすことで知られています。
5-1.二次性肺炎
インフルエンザウイルス自身が肺炎を引き起こすことは多くありませんが、インフルエンザに引き続いて発症する肺炎(二次感染)が危険です。二次感染の肺炎は、インフルエンザが治癒したと思えたころに発症します。二次感染は重症化しやすく、インフルエンザで死亡する人のほとんどが肺炎によるものです。かつてスペインかぜにより、全世界で約4000万人の命が奪われました。その死亡例の多くは、二次感染による肺炎といわれています。
5-2.インフルエンザ脳症
インフルエンザ脳症は、突然の高熱の後、幻覚や言動の異常、意識障害などの中枢神経障害を引き起こします。厚生労働省の調査では、毎年50~200人のインフルエンザ脳症患者が報告されており、その致死率は10%といわれています。インフルエンザ脳症になると、「意識がおぼろげになる」、「意味不明な発言をする」などのサインが現れます。これらの症状が出た場合、すぐに医療機関を受診してください。
6.インフルエンザにかからないために
インフルエンザにはできるだけかかりたくないものです。そのためには、以下の予防が大事です。
6-1.ワクチンを接種する
毎年、インフルエンザワクチンに対しては、正しくない情報が溢れます。はっきり言えることは、「インフルエンザワクチンには効果があり、接種を毎年受けた方がいい」ということは、厚生労働省やアメリカの疾病対策センター(CDC)で報告されています。WHOも発症や重症化を防ぐには「インフルエンザワクチンの摂取が最も効果的」と実証しています。
ちなみに統計において個人の経験は何のエビデンスにはなりません。「個人がワクチンを接種したが発症したという話」は、コマーシャル等で良く見られる「これは個人の感想です」と同レベルの話なのです。
インフルエンザワクチンについては以下の記事も参考にしてください。
6-2.ワクチンで発症することはない
インフルエンザワクチンは不活化ワクチンです。不活化ワクチンとは、インフルエンザウイルスの感染性を失わせ、免疫をつくるのに必要な成分を取り出して作ったものです。したがって、ウイルスとしての働きはないので、ワクチン接種によってインフルエンザを発症することはありません。
6-3.生活の中での注意点
- 人混みや繁華街への外出を控える:インフルエンザの主な感染経路は咳やくしゃみの際に口から発生される小さな水滴(飛沫)による飛沫感染です。したがって、飛沫を浴びないようにすればインフルエンザに感染する機会は大きく減少します。そのため、インフルエンザが流行してきたら、人混みや繁華街への外出を控えましょう。やむを得ず外出して人混みに入る可能性がある場合には、ある程度、飛沫感染等を防ぐことができる不織布製マスクを着用することは一つの防御策と考えられます。
- 外出後の手洗い等を励行する:流水・石鹸による手洗いは手指など体についたインフルエンザウイルスを物理的に除去するために有効な方法ででです。インフルエンザウイルスにはアルコール製剤による手指衛生も効果があります。
- 適度な湿度の保持:空気が乾燥すると、気道粘膜の防御機能が低下し、インフルエンザにかかりやすくなります。特に乾燥しやすい室内では、加湿器などを使って適切な湿度(50~60%)を保つことも効果的です。
- 十分な休養とバランスのとれた栄養摂取:ワクチン接種をして抗体がついてもインフルエンザにかかる方が見えます。やはり、体の抵抗力を高めるために、十分な休養とバランスのとれた栄養摂取も大事なのです。
7.抗インフルエンザ薬を予防投与することの是非について
インフルエンザの治療に使われる抗インフルエンザ薬のうち、タミフル、リレンザ、イナビルの3種類は、一定の条件を満たせば発症予防にも使うことができます。しかし、これを実際に行うことについては議論の余地があります。
7-1.保険適応外であること
薬代は保険給付されず、全額、自費負担になります。病院等によっても値段は多少変わりますが、薬代のみでおよそ5,000円が必要です。加えて、問診などの診察料も加算されますので、総額8,000〜1万円程度はかかると思ってください。
7-2.対象者
抗インフルエンザ薬の予防投与を受けるには、原則として、以下の条件の方となります
① 同居する家族などがインフルエンザにかかった人
② インフルエンザにかかると重症化しやすい人。具体的には以下の方々です。
- 65歳以上の高齢者
- 気管支喘息など慢性の呼吸器疾患がある
- 心不全など慢性の心臓病がある
- 糖尿病などの代謝性疾患がある
- 腎臓病がある
7-3.投与方法
インフルエンザの治療に使われる抗インフルエンザ薬のうち、経口薬のタミフル(一般名:オセルタミビル)、吸入薬のリレンザ(一般名:ザナミビル)、吸入薬のイナビル(一般名:ラニナミビル)は、インフルエンザの予防に使うことが認められています。タミフル、リレンザ、イナビルを予防に用いる場合は、いずれも原則として、治療に使う量の半分を、倍の期間使用します。
7-4.処方できない「対象外」のケース
以下のケースでは、インフルエンザの予防投与の適応外です。
① 学校や職場でインフルエンザにかかった人と接触した人
② 入学試験や面接など、人生の重要なイベントを控えている人
上記の方は、薬剤の添付文書に記載されていない使い方(適応外処方)となるため、万一、重い副作用が起こっても「医薬品副作用被害救済制度」の対象とはならず、補償が受けられないというデメリットがあります。また、抗インフルエンザ薬を使い過ぎると、薬への耐性を持ったウイルスが出現する恐れがあります。
このため、個別の事情をどう受け止め、適応外処方の可否を判断するかについては、医師によって考えが異なります。当院では、受験生なら対応していますが、職場や学校で流行っているという理由ではお断りしています。なぜなら、それに対応してしまえば、ある意味インフルエンザの流行期間中、薬をお出しし続けることにもなりかねず、本当に必要な人に必要なときに行き渡らない可能性があるからです。
8.まとめ
- インフルエンザは、身体へのダメージも多く、合併症の危険もあります。
- まずは罹らないためにワクチンを打って、規則的な生活を送ることが大事です。
- もしもインフルエンザが疑われた場合は、適切な診断の元、抗ウイルス薬が効果的です。