検診で、γGTPの異常を指摘された方は多いのではないでしょうか? その場合、医療機関への受診を勧められることもあります。受診すると「様子を見てください」と言われたり、「生活習慣の改善」を厳しく指導されたり、さらに詳しい検査を行われことがあります。一口に、「γGTPが高い」といっても、とるべき対応には差があるのです。今回の記事では、認定内科専門医の長谷川嘉哉が、γGTPが高いと言われた場合に、疑われる疾患、数値ごとの対応方法の違いなど7つのポイントをご紹介します。
目次
1.γGTPとは?
検診等で必ず測定されるγGTPとは何を意味するのでしょうか?
1-1.逸脱酵素のこと
γ-GTPは正式名は、「γグルタミルトランスペプチダーゼ」と言って、肝臓の解毒作用に関係している酵素です。肝臓や胆管の細胞が壊れると血液中にγ-GTPが血液の中に流れ出てくることから、「逸脱酵素」といわれます。 したがって、肝臓および胆道系疾患のスクリーニングとしてよく用いられます。
1-2.数値が高くなっても症状は出にくい
そんなγ-GTPが血液中に多くなっても、それ自体が何か悪い影響をおよぼすことはありません。γ-GTPについては、いくら高くなっても自覚症状はありません。さすがに500以上になって肝臓に障害が出ていれば、倦怠感などの症状が出てきます。しかし、それは進行した後のことで、健康診断で問題となる段階では、自覚症状はありません。ただし、γGTPを指摘された本人には「お酒を飲みすぎたという自覚」がある方が多いようです。
1-3.正常値は男女で違う
検診で測定する主要な項目では男女で正常値が異なるものはそれほどありませんが、γGTPは男女によって差があります。
男性の正常値は、10~50IU/L、女性の正常値は、9~32IU/Lと女性のほうが低くなっています。
1-4.アルコールに敏感に反応する
γ-GTPはアルコールに敏感に反応し、肝障害を起こしていなくても、普段からよくお酒を飲む人では数値が上昇します。医師が「お酒を飲むと上がる項目が高いですよ」という場合は、ほとんどがこのγ-GTPを指しています。また、2週間禁酒をすると値が半減するといわれています。そのため、慣れた人だと検診の前に禁酒して数値を下げる人さえいます。しかし当然ですが、飲酒を開始すれば値が上がります。
2.GOT,GPTとは何が違うの?
同じように検診等で、肝臓の機能を示す指標にGOTやGPTがありますが、γGTPとは何が違うのでしょうか? GOTの正式名称は、グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ、GPTはグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼといいます。GOT、GPTは肝細胞で、γ-GTP は胆管でつくられる酵素で、いずれも肝臓でアミノ酸の代謝にかかわる働きをしています。
GOTやGPTは健康な方の血液中にもみられますが、肝臓に障害が起こって肝細胞が壊れると、血液中に流れる量が増えるため、値が上昇します。心筋や骨格筋、赤血球中などにも多く含まれているGOTと比べて、GPTは主に肝臓中に存在しているため、肝細胞の障害の程度を調べるのに適しています。健康な人ではGPTよりGOTが高値を示しますが、肝障害の場合、GPTの方が高くなります。
3.γGTPが高くなる原因
γGTPが高くなる原因を紹介します。
3-1.アルコールの過剰摂取
胃や小腸から吸収されたアルコールは、門脈を通って肝臓に運ばれ、分解されます。アルコールは肝臓内の酵素などによってアセトアルデヒド、酢酸、そして最終的に二酸化炭素と水に分解されます。過剰な飲酒によって肝臓の細胞がこわれると、γ-GTPやGOT、GPTなどの逸脱酵素が血液に漏れ出てくるのです。
ただし、これにはかなり個人差があります。相当にアルコールを飲む人でもまったくγGTPが正常の方もいらっしゃいますし、逆に少量のアルコールでもγGTPが高くなる方もいます。残念ながら、体質というものはあるようです。
3-2.脂肪肝
脂肪肝とは、食べ過ぎや運動不足のために余った糖質や脂質が中性脂肪に変わり、肝臓に過剰にたまって脂肪が肝臓全体の30%以上を占めるようになった状態をいいます。日本人における軽度の脂肪肝は見た目がスリムな人にもみられれます。たった2~3kg体重が増えただけで肝臓に脂肪がたまる可能性があります。
とくにアルコールを飲む中年男性の場合、飲みすぎによるアルコール性脂肪肝が問題になります。
3-3.薬剤性
一切飲酒をしていない場合でもγGTPは上昇することがあります。たとえば、薬の副作用による肝障害です。肝臓は薬剤の代謝に関わるため、どのような薬でも副作用が出る可能性があります。一見安全に見える漢方やサプリメントでも肝機能障害を起こし、γGTPが上昇することがあります。
4.γGTPが100IU/Lを超えたら医療機関受診を
γ-GTPの値が100IU/L以下であれば、節酒あるいは禁酒することですぐに正常値にもどります。γ-GTP値で注意しなくてはいけないのは100以上になった場合です。
4-1.100~200IU/L
脂肪肝が進行している可能性があります。かなりお酒の飲みすぎで、病的状態になっている疑いがあります。節酒か禁酒が必要です。アルコールを飲まない場合は、脂肪肝や薬剤性を疑います。
4-2.200IU/L以上になった場合
アルコール、脂肪肝、薬剤性だけでなく、胆石や胆道がんなどによって胆道がつまっている可能性があるので、くわしい検査が必要です。
4-3.500IU/L以上
γ-GTP値が500IU/L以上になる場合はほとんどありませんが、胆道がつまっておきる黄疸などの場合には、こうした高い値になります。アルコールが原因で500IU/L以上になる場合は、よほどの大量の飲酒、あるいは急性アルコール中毒といったきわめて危険な状態にあります。
5.γGTPが高い場合の検査
通常、γGTPが100を超えている場合は以下の検査を行います。ただし、明らかなアルコールの過剰摂取歴があり、前回に比べ大きな変化がない場合は、様子観察することもあります。
5-1.血液検査
肝機能を評価するほかの血液検査項目(ALP,LDH,ビリルビン、コリンエステラーゼなど)や肝炎ウィルスの検査項目などを追加します。画像検査で、肝硬変や肝がんが疑われる場合は、腫瘍マーカとしてAFP(α-フェトプロテイン)を測定します。。AFPは、健康な成人の血液に含まれず、原発性肝癌の患者の95%の血液に含まれるため、肝癌の腫瘍マーカーとして用いられています。
5-2.腹部エコー
おなかに超音波の探子を当てて、肝臓の様子をモニターに映し出して観察する検査です。痛みもなく、10分前後で終わる簡単な検査です。腹部エコーは、肝臓や胆のう、腎臓などを調べるのに適した検査で超音波がはねかえることによって得られる画像で炎症や出血、腫瘍などがないか判断します。放射線も使用しないため、気軽に行える検査です。
5-3.腹部CT/MRI
検査台の上に横になり、X線(CT)や磁気(MRI)を出すドーム状の機械の中に入ります。肝臓を数ミリきざみで輪切りにした画像が得られます。こちらも痛みはなく、15〜20分程度で検査は終わります。超音波ではわからなかった病気も確認できることもあります。
6.特に気を付けるべき疾患
γGTPの異常値を示すようなアルコール摂取、脂肪肝が継続すると以下の状態に進行することもあります。
6-1.アルコール性肝硬変
アルコール性肝障害の最終段階といえる状態となったものがアルコール性肝硬変です。肝硬変では、腹水や黄疸、また消化管に静脈瘤という病変ができ、出血することで吐血を起こしたりします。また、肝性昏睡といって意識の状態が悪くなることもあります。
日本酒で約5合を毎日20年(女性では12~13年)以上飲み続けた場合、約10~30%の人が肝硬変になるとされています。
6-2.肝がん
アルコール性肝硬変の状態となった肝臓には、肝がんが発生することがあります。肝がんの原因の多くが肝炎ウイルス(B型、C型)によるものですが、アルコールを原因とする肝がんも増加傾向にあり、注意が必要です。
7.生活習慣の改善が大事
γGTPは生活習慣の改善でかなりのケースで正常化します。
7-1.アルコールの節制
アルコールを過剰摂取されている方の理想は、やはり断酒です。断酒によって脂肪肝がアルコール性肝炎や肝硬変に進行するのを防ぐことができます。ただし、いきなりの断酒や、断酒を継続することは容易ではありません。まずは、少しでも減らしていくことを始めましょう。
ちなみに、「節度ある適度な飲酒」は1日平均純アルコールにして約20g程度であるとされています。具体的には、ビールなら500㎖、日本酒なら1合、焼酎0.6合、ワイン180㎖、ウイスキーダブル1杯程度とされています。
7-2.運動・食事療法
適切な体重を維持するためには、適度な運動を行う必要があります。ウォーキングなどの運動を1日に30分以上続けると内臓脂肪が減ることで脂肪肝が改善することがわかっています。
同時に、食事は野菜や魚を中心にして脂っこいものや糖分の多い食事を控えることが大事です。
7-3.不要な薬は中止
抗てんかん薬、抗凝固薬、向精神薬、ステロイド薬、漢方、サプリメントなどの薬物でもγGTPの値は上がるため、そうした薬物の摂取がないかを確認する必要があります。そして、中止できる薬はいったん中止してもらいます。それで肝機能が改善した場合は薬剤性と判断します。
8.まとめ
- γGTPの高値が指摘された場合は、アルコール、脂肪肝、薬剤性を疑います。
- アルコールを適正量にして、運動食事に気を付け、不要な薬剤をやめることが大事です。
- γGTPの数値は100を超える場合は、医療機関受診が必要です。