一般の方と話していると、糖尿病になると「尿が泡立つんですよね」という話を良くされます。そもそも、多くの方は、「糖尿病とは、尿に糖が出て泡立つ病気」と思われています。その考え方は危険ですし、糖尿病の早期発見を遅らせてしまいます。現在、糖尿病患者さんは、前段階の方も含めると2000万人いると言われるほどの疾患です。今回の記事では、総合内科専門医の長谷川嘉哉が、「糖尿病は尿に泡がでる」と意味と正しい知識についてご紹介します。
目次
1.尿に泡立つとは?
誰でもですが、勢いよくトイレの中に水に排尿すれば泡立ちます。しかし、それは一瞬で消えてしまいます。これは、ペットボトルに水を入れて振ると泡ができますがすぐに消えることと同じです。
しかし、液体に海面活性(表面活性)物質が含まれると、できた泡はなかなか消えません。つまり、尿の中に海面活性(表面活性)物質が含まれると、いわゆる「尿が泡立つ」状態となるのです。
2.尿が泡立つとは?
尿が泡立つ、つまり海面活性(表面活性)物質が含まれた状態とは以下の状態です。
2-1.タンパクが含まれている
尿中に含まれるタンパクも界面活性作用があり、尿タンパクが現れると泡立ちやすくなります。尿タンパクが出る疾患には糸球体腎炎、膠原病腎障害、ネフローゼ症候群などがあります。また糖尿病が進行して、糖尿病腎症を発症すると尿タンパクが出現します。
2-2.糖が含まれている
血糖値が高く、尿の中に糖が出現すると粘稠度が高くなり泡立ちやすくなります。糖尿病の場合、尿中の糖だけでなく、糖尿病性腎症を合併すると、糖とタンパクが混じってしまうためより泡立ちやすくなるのです。
2-3.細菌が含まれている
膀胱炎などを起こすと、尿中に細菌が混じるだけでなく、タンパクが混じり、さらに尿が濃縮されるため泡立ちやすくなります。
3.尿に糖が含まれていない糖尿病も
確かに尿に糖が混じると尿は泡立ちやすくなります。しかし、糖尿病はあくまで血液中の血糖値が慢性的に高いことで、全身の血管の動脈硬化性変化が起こることが問題です。血糖値が上がれば、尿中に糖が出やすくなりますが、絶対ではありません。尿中に糖が混じらなくても糖尿病であることはあるのです。
確かに、不特定多数の中から糖尿病患者さんをみつけるためには、集団検診の尿検査で尿糖を見つけることは有用です。しかし、一人の患者さんの尿中に糖が認められなくても糖尿病は否定されません。あくまで血液検査で、血糖値やHbA1cを測定する必要があるのです。
*HbA1cとは:赤血球中に含まれるヘモグロビンにブドウ糖がくっついたものをHbA1cと呼びます。検査直前の飲食に左右されず、過去1~2か月の平均的な血糖の状態を調べることができるため、糖尿病の診断や血糖値の状態の確認に役立ちます。
4.糖尿病では尿蛋白だけ見ていてはいけない
すべての糖尿病患者さんの尿中にタンパクが出現するわけではありません。糖尿病が進行して腎臓に障害が起きると尿中にタンパクが漏れ出るのです。したがって医師としては、糖尿病患者さんの血糖をコントロールして、腎症にならないようにすることが大事なのです。
さらに尿中にたんぱく質が出現してはすでに遅すぎますので、それ以前の尿中微量アルブミンを測定する必要があります。しかし残念ながら、内科のトレーニングされていない先生方の多くはそこまでの対応はされていないことが多いようです。尿中微量アルブミンについては以下の記事も参考になさってください。
5.尿の泡立ちが気になったら「本当の内科」受診を
以上ご紹介したように、「尿の泡立ち」だけでは病気の有無も、診断もできません。しかし、あまりに泡立ちが気になるようであれば、一度内科の受診をお薦めします。その際は、血液検査と尿検査も必ず行ってもらってください。世の中には、「内科」が標榜されていても、内科のトレーニングをされていない医療機関がたくさんあります。内科の標榜については以下の記事も参考になさってください。
6.まとめ
- 尿が泡立つ病気は糖尿だけではありません。腎臓の病気や膀胱炎などもあります。
- 尿が泡立たないからと言って糖尿病が否定されるわけではありません。糖尿病の診断はあくまで血液検査です。
- 糖尿病患者さんの尿が、泡立つことのないような治療こそが医師に求められます