“私は自律神経失調症と診断されました”と話される患者さんが結構いらっしゃいます。実はこの病名には注意が必要です。日本心身医学会では「種々の自律神経系の不定愁訴を有し、しかも臨床検査では器質的病変が認められず、かつ顕著な精神障害のないもの」と暫定的に定義されています。しかし、自律神経失調症という病名は、日本では広く認知されていますがDSMといってアメリカ精神医学会による精神障害の分類では定義されていません。したがって、現在も独立した病気として認めていない医師も多いのです。
疾患名ではなく「神経症やうつ病に付随する各種症状を総称したもの」という見解が、一般的な国際的理解です。本当は、この病気はうつ病、パニック障害、過敏性腸症候群、頚性神経筋症候群や身体表現性障害などが原疾患として認められる場合が多いのです。しかし、原疾患を特定できない内科医が“不定愁訴を納得させる目的でつける”、と言う否定的な見解もあるのです。
私は、神経内科医として本当の自律神経障害の患者さんを見ています。横になって測定した収縮期血圧180mmHgが、起き上がった途端80mmHgにまで下がるケースもあります。もちろん意識を消失することもあります。排尿障害も、膀胱にバルーンを留置することもあります。便秘も下剤では、まったく反応せず定期的な摘便も必要となります。これぐらい重篤な起立性低血圧、排尿障害、便秘こそを本当の自律神経障害というのです。
そのような観点からすると、日常生活が自立している、“自律神経失調症”やはり疾患名ではないと考えています。“自律神経失調症”と診断されたときは、先回紹介した鍼灸のほうが効果があることさえあるのです。