脳の活動と睡眠の関係性を示す新たな研究結果が明らかになりました。科学学術誌『Science Anvances』に発表された最新研究によると、睡眠不足とアルツハイマー病の関連性が示唆されています。今までも、認知症予防に睡眠が重要であることはわかっていましたが、今回の発表は、睡眠の質と脳脊髄液が脳を清掃する動きを具体的に解明したものでした。今回の記事では、認知症専門医である長谷川嘉哉が、寝ている間に脳が清掃される「認知症にならない睡眠」についてご紹介します。認知症予防に興味がある方はぜひ参考になさってください。
目次
1.脳脊髄液が脳を清掃する、とは
脳と脊髄には無色透明の脳脊髄液とよばれる液体が循環しています。脳脊髄液は脳と脊髄の血管周囲に沿って移動しながら栄養分を分配し、老廃物を取り除きます。
そして、睡眠中には、脳内のグリア細胞の一種であるアストロサイトが縮んで隙間をつくり、その隙間が脳脊髄液の排水溝のような役割を果たすのです。これらの動きにより脳内老廃物を効率よく運び出すのです。
以前から、睡眠不足だったり睡眠の質が低かったりする人ほど、アルツハイマー病の原因のひとつといわれるアミロイドβ濃度が高いという報告がありました。今回の発表では、それらの一因に、脳脊髄液の清掃作業が関与していることが分かったのです。
2.脳脊髄液がもっとも働く環境は
今回の発表では、脳脊髄液の清掃機能と睡眠の質の関連性がはっきりしました。
つまり、深い睡眠状態に特有の、ゆっくりした一定間隔の脳波と心拍数の状態において、脳脊髄液は、老廃物排出を最も促すために、効率的に働くことが明らかになったのです。また実験では、心拍数が低くなるにつれて、清掃効果のある脳脊髄液の流れが大きくなることも確認されています。
3.深い睡眠の目安とは
深い睡眠とは8時間眠ることではありません。時間よりも「質」です。質のよい睡眠とは、目覚めがスッキリとしていて、ぐっすり眠ったという満足感が得られる眠りのことです。つまり、入眠直後の深いノンレム睡眠がしっかりとれ、その後のレム睡眠とノンレム睡眠が交互にリズム良くとれるかどうかなのです。
「寝つけない」「夜中によく目が覚める」「熟睡できない」「早朝に目が覚める」という症状がある場合は、深い睡眠がとれていない可能性が高くなります。
4.深い睡眠をとるには
それでは、深い睡眠をとるにはどうすれば良いのでしょうか?
4-1.目覚めに太陽の光にあたる
朝の太陽光の中に含まれる紫外線は体内時計をリセットし、「やる気ホルモン」と言われるセロトニンの放出を促します。セロトニンは覚醒レベルを上げるとともに、夜に睡眠を誘発する脳内物質のメラトニンの産生を促します
4-2.就寝時は消化管もやすませる
食事は床に就く3時間以上前にすませ、胃腸を休めてから寝るのが理想的です。夕方以降のカフェインは控え、水分はとりすぎないようにすることも深い睡眠のカギになります。アルコールは寝つきをよくする効果はありますが、中途覚醒しやすく睡眠の質が低下するので、夕食時にグラス1杯程度が理想です。
4-3.睡眠前に適度な疲労をとる
適度な疲労は睡眠を助けます。運動は夕食1時間以上後で、床に就く2時間以上前までに行いましょう。寝る直前に運動すると体温が高くなりすぎ、寝付くことが難しくなりますから注意が必要です。
入浴はシャワーですませるのではなく、40度くらいのぬるめのお湯にゆっくりつかるのが効果的です。リラックス効果が得られるだけでなく、高くなった体温を放熱しようと血管が開くことで、副交感神経が優位になります。そして血流のよくなった四肢から熱が逃げていき、体温が下がることで寝付きやすくなるのです。
5.絶対的な時間も必要
確かに、睡眠の質は重要ですが、ある程度の睡眠時間も必要です。意識調査では、ベッドにいる時間が6時間を切ると睡眠不足と感じる人が多いとされています。
健康や長寿に関係する最適な睡眠時間は7時間だという知見が得られています。寿命と睡眠時間の関係を調べた大規模な調査では、睡眠時間が7時間の人が最も死亡率が低く長寿でした。もちろん個人差はありますが、睡眠時間がそれよりも短くても長くても、寿命が短くなるとされています。
6.まとめ
- 脳脊髄液の循環が老廃物を取り除くことで認知症を予防します。
- 深い睡眠の際にに脳脊髄液の循環は最も効率的になります。
- ぐっすり眠ったという満足感が得られる深い睡眠をとるようにしましょう。
参照記事:「脳の老廃物」を除去するには、深い睡眠が必須だった:研究結果(wired.jp)