消極的安楽死? 積極的安楽死? 尊厳死? 理想の最期を表す言葉は?

消極的安楽死? 積極的安楽死? 尊厳死? 理想の最期を表す言葉は?

人間誰でも、亡くなることは分かっています。だからこそ、できるだけ苦しむことなく穏やかな最期を迎えたいと思います。そんな最期を表す言葉には、安楽死、尊厳死といった言葉に加え、積極的安楽死、消極的安楽死という言葉まであります。ただでさえ不安な「死」に対する言葉が、わかりにくいと余計不安が増してしまいます。今回の記事では、年間5〜60名の在宅看取りを経験している、在宅専門医の長谷川嘉哉が、人生の最期を表す言葉について解説します。

1.安楽死とは?

安楽死とは、辞書では「人または動物に苦痛を与えずに死に至らせること」ですが、以下の2つに分けられます。

1-1.積極的安楽死

患者の命を終わらせる目的で「何かをする」ことです。日本では、医師自らが手をくだして、患者さんを死に至らしめる「積極的安楽死」は、倫理的には許容されるもではないと考えられています。現在は、モルヒネなどの麻薬も積極的に使用するため、患者さんの苦痛のために積極的安楽死の必要性を感じたことは、個人的にはあまりありません。

1-2.消極的安楽死

患者の命を終わらせる目的で「何か(治療)をしない」ことです。この場合、延命治療は中止したり控えますが、患者さんの苦痛を取り除くような緩和ケアは継続されます。

2.尊厳死とは?

安楽死とよく似た言葉に、「尊厳死」があります。辞書的には、「一個の人格としての尊厳を保って死を迎える、または迎えさせること」とあります。具体的には、延命治療をしないという本人の意思を尊重し、自然な形で死を迎えることを意味します。

なお、1995年の東海大学安楽死判決における横浜地方裁判所の判例以降は、「尊厳死」を、「消極的安楽死」として安楽死の一部とする定義が一般的になっています。

3.在宅医療は、みんな尊厳死

難しい言葉の定義はさておき、自宅で最期を迎える在宅医療は、「何か(治療)をしない」点では、消極的安楽死。つまり尊厳死です。これは、病院では実現することが難しい、在宅でしかできないものです。

3-1.病院で尊厳死は実現しにくい

例えば、高齢な親が、老衰で食事がとれなくなった場合、病院では何もしないことはできません。何しろ、病院は治療するところです。食事の摂れない患者さんに、点滴や胃ろうも作らずに、ただ亡くなることを待つことはできません。したがって、入院を希望すれば、何らかの医療処置を受けざるを得ないのです。

3-2.自宅では「何もしない権利」がある

その点、在宅医療は、病院ではありませんので、「何もしない」ことが選択できます。在宅では、点滴も胃ろうも作らずに、食べられるものだけを食べてもらいます。しかし、いずれは一滴の水分も摂ることができなくなり、死を迎えます。人間は、一滴の水分が取れなくなっても、10日前後は生きるものです。自宅であれば、多くの家族と最後のお別れをすることができるのです。


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3-3.自己満足の点滴はしない

家族の中には、食事の摂れない患者さんに対して、点滴を希望される方がいらっしゃいます。終末期の点滴は、患者さんの苦痛を引き延ばすだけです。さらに、全身の浮腫を誘発しますし、何より針を刺す苦痛を伴います。死の直前の「脱水状態」は、患者さんの最後に与えられた、「麻酔がかかったような心地よさ」と言われています。決して、苦痛ではないのです。家族の自己満足のための点滴は希望されないことをお願いします。

4.積極的安楽死以前にできること

患者さんが食事を摂らなくなったらすぐに最後と考えるのは早急です。以下の病態の場合は、治療することで食欲が改善しますので見逃してはいけません。

4-1.痛みのコントロール

まずは、痛みや倦怠感といった症状が強い場合は、それらを改善する治療も検討します。悪性疾患の場合は、モルヒネ等を使うことで、食欲が改善することもあります。モルヒネについては以下の記事も参考になさってください。

4-2.脱水を防ぐ

最期を迎える患者さんの多くは高齢者です。高齢者は、ちょっとした風邪などの体調変化で食事量が低下し、簡単に脱水になってしまいます。脱水になると、さらに食事・水分量が落ちる悪循環に陥ります。そのため、一度は脱水の治療がお勧めです。人によっては、たった一度、500㎖程度の点滴を行うことで脱水が改善。その後、自身で食事が摂れるようになるケースもあるのです。

4-3.感染症対策

感染症が原因で食欲が低下している場合は、感染症の治療も必要です。高齢者は、知らないうちに肺炎、胆嚢炎、腎盂腎炎といった感染症に罹ります。その際、熱が37度立ち程度と軽度であることが多いので注意が必要です。必ず、緊急の血液検査で、白血球、CRPを測定する必要があります。これらの数値が上がっている場合は、感染症を疑い抗生剤投与を行います。感染症が改善することで、自身で食事が摂れるようになるケースもあるのです。

5.まとめ

  • 人生の最後は、「消極的安楽死イコール尊厳死」がお薦めです。
  • 「消極的安楽死イコール尊厳死」は病院での実現は難しいのですが、自宅では難しくありません。
  • 最低限の痛みのコントロール、脱水の補正、感染症のチェックをしてから、「消極的安楽死イコール尊厳死」を実現しましょう。
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