実習中に意識を失って倒れる迷走神経反射・・診断・鑑別・対応について専門医が解説

実習中に意識を失って倒れる迷走神経反射・・診断・鑑別・対応について専門医が解説

先日、次女が学生実習中に、意識を失って倒れてしまいました。幸い病院内であったため、救急外来にて各種検査をおこなって、迷走神経反射と診断されました。皆さんも、自分自身、もしくは周囲で突然意識を失って倒れてしまうことを経験された方が多いと思われます。今回の記事では、脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が迷走神経反射について、診断、鑑別、対応について解説します。

目次

1.迷走神経反射とは?

そもそも迷走神経反射とは何でしょうか?

1―1.失神のひとつ

迷走神経反射とは、失神のひとつです。というか「失神」という言葉もあまり聞きなれないかもしれません。失神とは、「血圧が急激に低下するなどの理由で、脳全体の血流が一時的に低下することで意識消失をおこすこと」をいいます。通常、数秒から数分以内に後遺症なく回復します。迷走神経反射は、失神全体の約20%を占めています。

1-2.迷走神経反射の原因

迷走神経とは、脳神経の一つで、運動神経と感覚神経と副交感神経があわさった神経です。その中でも、副交感神経が迷走神経反射に関与します。何らかの理由で、迷走神経に過剰な刺激が与えられると、心拍数が低下したり、血圧が低下することで意識を失ってしまうのです。

1-3.よくある症状の例

最初に、なんとなくフラフラする、汗が出る、視野がぼやける、頭痛、吐き気、寒気などの前兆があることが多いです。その後、意識喪失をおこしますが、横になることですぐに意識は回復します。但し、前兆がなくいきなり意識消失を起こすケースも1/3程度あります。

2.どんな時に起こるの?

血管迷走神経反射は、以下のような状況で誘発されます。

2-1.長時間、立っているとき

長時間の立位としては、小中学校の朝礼が代表的です。その他にも、実習などの見学でも同様なことが起こります。私も、学生時代の長時間に及ぶ手術見学などは、苦痛であったものです。何も分からないものを、ただ見ているということは、肉体的にも精神的にもストレスなのです。

Commuters at Shinjuku Station
学校の朝礼や、通勤時の電車内など長時間立ちっぱなしの際に起こることが多いです

2-2.排便・排尿後

思いのほか知られていないのが、排便や排便後の迷走神経反射です。尿意を我慢していて一気に排尿した後や、長期間の便秘の末に、大量の排便をした際におこります。この場合、倒れることで頭の位置が低くなると、意識はすぐに戻ります。しかし、トイレの個室のように狭い空間では、倒れることができないため、数分程度意識消失が続くこともあります。

2-3.ストレス(緊張、痛み、恐怖、空腹)

迷走神経のなかの副交感神経は、緊張・痛み・恐怖・空腹でなどで影響を良く受けます。ブレイングループでは、訪問看護ステーションにおいて定期的に学生実習を受け入れているのですが、ときどき迷走神経反射で倒れてしまう学生さんがいます。慣れない訪問看護の実習で、患者さんの家までの移動、さらに緊張を保ったまま患者さんの家での見学など、迷走神経反射を起こしやすい環境が揃っているのです。


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3.治療方法は?

治療は、とにかく頭の位置を低くすることです。そのため、多くの場合は、意識消失によって横になってしまうので、すぐに意識は回復します。壁などによりかかった状態では、ゆっくりと頭を打たないように、横にしてあげてください。意識が回復したといっても、いきなり起き上がると再び意識を失うので、1時間程度は安静が必要です。その際には、脱水・空腹などがある場合は、点滴で補液を行います。

4.鑑別すべき疾患は?

基本的に、臥床で意識が戻れば、迷走神経反射の可能性が大です。しかし、意識の戻りが悪いような場合は、以下の鑑別も行います。

4-1.頭蓋内病変

年齢に関わらず、脳梗塞・脳出血・脳腫瘍のなどの病変がないかを検査します。この場合は、頭部CT検査を行います。意識消失とともに、一過性の麻痺などを認めた場合は、さらに頭部のMRIやMRA検査を行います。一過性の麻痺については以下の記事も参考になさってください。

4-2.不整脈

意識を失うと、頭の病変を疑うことが多いのですが、心臓の不整脈が原因の事もあります。そのため、迷走神経反射が疑われても、最低限心電図は撮ります。その際は、2分程度は心電図を測定し、不整脈が認められる場合は、24時間心電図も行います。

4-3.てんかん

てんかんの患者さんは、通常痙攣を伴って意識を消失します。しかし、痙攣を伴わない意識消失もあるため注意が必要です。ただし、てんかんに伴う意識消失は、しばらく意識混濁が残ることが特徴です。成人の場合は、てんかんの既往の有無の確認が重要になります。てんかんについては、以下の記事も参考になさってください。

5.頻度が増えたら精査を

迷走神経反射は、それほど頻回におこるものではありません。そのため、月に1回以上の意識消失発作を繰り返す場合は、精密検査が必要です。その場合、何科に受診するかは重要です。手前味噌になりますが、脳神経内科がお薦めです。脳血管障害、脳腫瘍、てんかん、さらに不整脈まで全般を鑑別するには、最も適しています。

6.まとめ

  • 迷走神経反射は、一時的に意識を失って、臥床ですぐに回復する失神の一つです。
  • 迷走神経は、運動神経と感覚神経と副交感神経があわさった神経で、その中の副交感神経が迷走神経反射に関与します。
  • 月に1回以上の意識消失発作を繰り返す場合は、精密検査が必要です。
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