医師は、何気なく「内科・外科」という言葉を使っています。しかし、患者さんによっては、「内科・外科」の意味を理解されていない方も結構いらっしゃいます。また、開業医であれば、殆どのクリニックで診療科目に「内科」が標榜されています。しかし、総合内科専門医の立場からすると、内科医としてのトレーニングを受けていない医師の診察は時に患者さんの不利益につながります。今回の記事では、何気なく使われている「内科」という言葉の定義を中心に、総合内科専門医の長谷川嘉哉が解説させていただきます。
目次
1.内科とは?
内科とは、手術ではなく、薬剤を使った治療を行う科を言います。但し、高血圧、糖尿病、脂質代謝異常、高尿酸血症といった生活習慣病に対しては薬物治療だけでなく、食事や運動などの生活指導も加えながら総合的に治療をします。
対して、外科は、手術による治療を専門的に行います。といっても、患者さんは、薬剤で治るのか、手術が必要かはわかりません。したがって、多くの場合は、最初の窓口は内科となります。だからこそ、経験とトレーニングをつんだ内科医を受診することが必要なのです。
2.標榜科に資格はいらない
患者さんには知られていませんが、開業医は、専門であろうがなかろうが好きな科を標榜することができます。そのため、実際にはほとんど経験をしたことがなくても、患者さんを集めるために「内科」を標榜していることがあります。私の地域でも、内科を標榜していても本当は内科医でない先生が半分以上です。
ちなみに、標榜科がむやみに多い開業医も少し心配です。「何でも診れるは、何にも診れない?」になっていることが多いからです。何より、標榜科が多い先生が、厚生労働省の通知を知らない可能性があります。その通知とは、
当該医療機関に勤務する医師一人に対して主たる診療科名を原則2つ以内とし、診療科名の広告に当たっては、主たる診療科名を大きく表示するなど、他の診療科名と区別して表記することが望ましいものとする。
結構、守られていないように思えるのですが・・
3.内科の専門医制度とは
医師になった後にも内科医は、決められた研修期間と経験した症例数のもと、試験を受けて以下の資格を取ります。
3-1.認定内科医
認定内科医の試験は、内科の研修を終了し、さらに1年間以上研修した後に(最短で卒後3年)で初めて受験資格ができます。ただし、受験にあたっては、担当した内科の全ての分野(呼吸器・循環器消化器・血液・内分泌・代謝・神経内科)の患者様の診療要約を50症例分と、外科手術に回った症例および亡くなった症例のサマリー各数例ずつを前もって提出し、審査を受けなければなりません。つまり、本当に内科医として働かないと、そもそも受験するための診療要約を書くことができません。その条件で試験を受けるため、合格率自体は80〜90%です。
3-2.総合内科専門医
私も持っている、総合内科専門医とは、正式には「日本内科学会認定内科専門医」といい、認定内科医に合格してさらに2年以上教育環境の整った認定教育病院で研修して、ようやく専門医の受験資格ができます。その後、日本内科学会が年1回実施する内科専門医試験に合格した医師に与えられる資格です。合格後も、5年に1度の更新制度があり一定の研修を行って診療レベルの維持を図っています。総合内科専門医は内科医の中の内科医と言えるのです。
3-3.今後は、内科専門医に統一
今後、認定内科医と総合内科専門医は、内科専門医に統一されます。総合内科専門医は更新のタイミングで内科専門医にそのまま移行。認定内科医には病歴要約の提出と筆記試験への合格が必要になる予定です。いずれにせよ、本当の内科医は、臨床経験だけでなくその後も、学び続ける必要があります。そんな「内科」という診療科目を、誰でも標榜出来ることには少し不満は残るのですが・・。
4.餅は餅屋のケース
内科医として、トレーニングを受けていない標榜だけの医師の場合、以下の問題があることがあります。
4-1.糖尿病の治療
糖尿病の治療は、日進月歩です。ときに、「まだこの薬を使う?」というケースも見受けられます。尿検査における尿中アルブミンの精査など、早期腎症の精査も行われていないことが多いようです。さらに管理栄養士等も雇用していることが少なく、栄養指導も十分でないことが多いようです。
4-2.血圧のコントロール
血圧もただ下げればよいわけではありません。患者さんを長期に観て、臓器保護の視点も必要です。同時に、心不全の早期発見・治療も必要です。幸い、最近では、血中のBNP測定が有効ですが、積極的に利用されていないことも多いようです。ちなみに、BNPについては以下の記事も参考になさってください。
4-3.何科にかかればよいか分からない場合
特に総合内科専門医は「何科にかかれば良いか分からないような病気を診る」ことを得意としています。「同じ手が震える」という症状があっても、神経難病から、甲状腺ホルモンの異常、薬の副作用など分野にとらわれません。○○の専門という立場を離れて患者さん全体を考えることができます。まさに、かかりつけ医としては、うってつけなのです。
5.院長の本当の専門を知るには
受診を考えた際に、その医療機関の院長の専門が何科かは以下で理解できます。
5-1.内科の次の診療科目も「〇〇内科」の場合は安心
内科を一番に標榜している場合、2番目に書かれている科が本当の専門であることが多いものです。例えば、「内科・脳神経内科・・」、「内科、循環器内科・・」、「内科、消化器内科・・」などです。この場合は、基本は、内科を専門としているため問題はありません。
5-2.内科の次の標榜が内科以外は内科専門医ではないことが多い
例えば、内科を最初に標榜しても、「内科・外科・・」、「内科、泌尿器・・」などは、本当は外科、泌尿器が専門であり、トレーニングを受けた内科医である可能性は低くなります。
5-3.2番目以降が内科は内科医ではない
「皮膚科・内科・・」や「泌尿器・内科・・」などです。これは、内科の専門医ではありませんので、内科の疾患で受診することはお勧めではありません。
6.まとめ
- 開業医の場合、「内科」の標榜は経験・トレーニングを積んでいなくても可能です
- 内科の専門医を取るには、経験だけでなく試験に合格し、その後も定期的な勉強が必要です。
- かかりつけ医には、総合内科専門医がお薦めです。