危篤で救急車を呼ばないで・・在宅医療専門医が提言

危篤で救急車を呼ばないで・・在宅医療専門医が提言

先日、知り合いの方が、介護していた母親が突然意識が低下し思わず救急車を呼んでしまったそうです。救急隊は蘇生処置を行いながら医療機関に到着、その後死亡確認となったそうです。ご家族は、自宅での安らかな看取りを希望しており、お医者さんにも往診に来てもらっていたようです。

しかし、いざとなったとき連絡方法がわからず、やむを得ず救急車を呼んでしまったようです。ご家族としては、救急隊による蘇生処置が患者さんに苦痛を与えたようで、とても後悔をしているようでした。なぜこのような事態になってしまったのでしょうか? 今回の記事では、年間50〜60件の看取りを実施している在宅診療医である長谷川嘉哉が、人生の最期において慌てず救急車を呼ばないための情報をご紹介します。

1.救急車を呼ぶことの意味

そもそも救急車を呼ぶということの意味を分かっている方は少ないのではないでしょうか?救急車を呼ぶということは、「心臓や呼吸が停止している場合は、蘇生処置をしてください」という意思表示なのです。なぜなら、救急隊には、救急救命処置を行う法的な義務が課せられているからです。蘇生措置を行わなかった場合、ときに警察に連絡をされて、事情聴取や現場検証が行われることさえあるのです。

したがって家族が、無用な蘇生(いわゆる延命)を希望せずに、患者さんに穏やかな最期を迎えさせたいと思うならば、基本的には救急車は呼んではいけないのです。

 2.呼んでしまった場合の経過

もしも救急車を呼んでしまった場合は、以下のような対応となります。

2-1.到着時に明らかに死んでいる場合

明らかに死んでいる場合、時には死後硬直まで始まっている場合は、救急隊は医療起案に搬送することはなく、警察に連絡されて家族への事情聴取や遺体の検視が行われます。警察は、まずは事件性を否定するため悲しみに暮れるご家族に「患者さんが死んだら生命保険はいくら入るの?」といった質問を平気でします。そのための遺族に精神的ストレスが増加してしまいます。

 2-2.息があれば蘇生をして救急搬送

少しでも呼吸をしている、僅かでも心臓が動いていれば、救急隊は蘇生行為をしながら医療機関に搬送してくれます。蘇生行為とは気道を確保して、心臓マッサージ等を行うことですが、患者さんには負担になります。

2-3.医療機関到着後、死亡確認

蘇生行為をしながら医療機関に到着してからは、ご家族の希望をきいて、さらなる延命処置をするか否かを医師から問われます。高齢者の場合、さらなる延命処置を希望されることは少ないため、延命処置を中止し死亡を確認されることになります。

2-4.到着後、救命

病院到着後、延命処置を中止しても救命されることもあります。もちろん、以前の状態に戻ればとても良いことです。しかし、さらに状態が悪化して今まで以上に介護や医療行為が必要な状態になることもあります。そうなると、「あのまま静かに亡くならせてあげれば・・」と後悔することも結構あるのです。

3.自宅で看取る場合の準備

自宅での看取りを決断された場合は、以下のような準備が必要です。

3-1.訪問してくれる医師を決める

在宅での看取りを決断した場合は、訪問診療をしてくれる主治医を探すことが必須です。いくら自宅でも看取りを決断されても主治医がいなければ、死亡確認をして、死亡診断書を書いてもらえません。亡くなってから医師に連絡されても、経過が分からないため、医師は警察に連絡をするしかないのです。

3-2.在宅で頼りになるのは、訪問看護

在宅での看取りをする際には、医師だけでなく訪問看護師さんも必要です。急変した際も、まずは訪問看護師に連絡をして相談することがお薦めです。そして必要であれば訪問看護師から主治医に連絡をしてもらうことになります。


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3-3.訪問診療医への連絡方法の確認

急変時には、ご家族も動揺するものです。そのためブレイングループでは、連絡先を印刷したものをお渡ししてベッドサイドに貼っておいてもらいます。この連絡先は、24時間、365日、常に連絡がつく体制になっています。

今回の救急車を呼んでしまったケースは、医師が往診をしておきながら、いざとなった際の連絡先方法の伝え方が悪かったことも一因と思われます。

4.在宅医療における主治医選び

満足のいく人生の最期を迎えるためには主治医の選び方が重要です。

4-1.強化型在宅支援診療所を選ぶ

看取りをお願いするには、強化型在宅支援診療所を選びましょう。強化型在宅支援診療所は、地域において在宅医療を支える24時間の窓口として、病院等と連携を図りながら24時間往診、訪問看護等を提供します。複数の医師が在籍し、緊急往診と看取りの実績が必要となります。ブレイングループの土岐内科クリニックももちろん強化型在宅支援診療所です。

4-2.なんちゃって在宅医を選ばない

先日も、近所で新規で開業した先生が挨拶に来院されました。その際に、「いずれ在宅医療も始めたいと思っています」と言われました。挨拶にこられた先生は、医師が一人で訪問看護師もいません。正直、そんな先生に中途半端な訪問診療をされても患者さんが迷惑です。状態の良いうちだけ往診して、何かあれば病院に送ってしまう「なんちゃって在宅医」を選んではいけないのです。

4-3.訪問診療は一朝一夕ではできません

訪問診療を積極的に行っている強化型在宅支援診療所の多くは、グループ内で多職種が存在し互いに連携しています。ブレイングループも、強化型在宅支援診療所である土岐内科クリニックを中心に、訪問看護ステーション、訪問リハビリ、ケアマネ、デイケア、デイサービス、グループホームが互いに連携して在宅生活を支えています。本当に患者さんのためになる訪問診療は一朝一夕ではできないものなのです。

5.こんな時は、救急車を呼ぶ

ただし、訪問診療の患者さんでも救急車を呼んでいただくこともあります。それは、とてもお元気で意識もよく食事もとれているような患者さんが、突然意識レベルが低下したり、苦しみ始めた場合は医師や看護師が駆けつけるよりも先に救急車で医療機関に受診をしてもらいます。このようなケースでは、何らかの急性期疾患であることが多いため、在宅での継続診療が困難なことが多いからです。

もちろん、このような状態でもまずは緊急の連絡先に電話をして、指示を仰がれることがお薦めです。

6.まとめ

  • 自宅での看取りを決断されたら、できるだけ救急車を呼ばないことがお薦めです。
  • 救急隊には、救急救命処置を行う法的な義務が課せられているため蘇生も行います。
  • 自宅での穏やかな最期を迎えるためには、主治医として強化型在宅支援診療所を選ぶことが重要です。
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