急激な超高齢化社会になり、介護が必要な人が急増しています。それに伴って、介護をする人も増加しています。その結果、介護離職(介護のために仕事をやめること)をしなければいけない人も増えています。介護は子育てとは異なり、終わりが見えません。そのため、介護離職は経済的、精神的、肉体的負担を強いるため、介護者の人生に大きな影響を与えてしまいます。
これからの少子高齢化時代は、多くの人が働き続ける必要があります。そのため介護は個々の問題でなく社会全体で支える必要があるのです。そのため安易な介護離職は避けるべきです。今回の記事では、FP資格をもつ認知症専門医の長谷川嘉哉が、介護離職を防ぐためのポイントをご紹介します。
目次
1.介護離職者する人の数は
介護離職とは、家族を介護するために仕事を辞めることを言います。日本は、超高齢化時代を迎えており、要介護者の数は増加していきます。それに伴い、仕事をもちながら、介護をしなければいけない人もさらに増えていくと思われます。
介護・看護のために過去1年間に前職を離職した人の「数」の推移は、
- 2007年 … 約14万5,000人 (男2万6,000人/女11万9,000人)
- 2012年 … 約10万1,000人 (男2万人/女8万1,000人)
- 2017年 … 約9万9,000人 (男2万4,000人/女7万5,000人)
介護保険サービスの増加に伴い、介護離職者数は減少傾向にありますが、年間10万人前後の方が介護離職しているのが現実です。さらに、女性の割合が男性の3倍である点も注目で、男女平等の時代にはマッチしていないと思います。
2.介護離職は避けるべき理由
介護離職は、介護をする家族へ以下のような負担がかかります。
2-1.経済的損失
介護離職をすると、介護者自身が収入がなくなってしまいます。それに伴い、将来の介護者自身の年金受給額も減ることが予想されます。つまり、目先の収入減少だけでなく、介護者自身の老後の経済的困難につながるのです。その上、今の時代では、介護が終わったといっても、いきなり復職することも困難です。
2-2.精神的負担
仕事を失うことは、社会からも孤立してしまいます。その上、介護はいつ終わるともしれないストレスを伴います。その結果、精神的負担が過大となり、時に、介護うつの状態になるとさえあるのです。介護うつについては、以下の記事も参照になさって下さい。
2-3.肉体的負担
いつ終わると知れない介護を続けるということは、肉体的にもストレスを受け続けることになります。「自分は身体は丈夫」と思っていても、徐々に健康を蝕んでしまうのです。そもそも、介護をされる方も50歳台から60歳台の方が多く、癌の好発年齢でもあります。その上、ある日突然、脳血管障害や虚血性心疾患で亡くなる方さえいらっしゃるのです。
3.辞める前に介護保険制度を熟知しよう
そもそも、「なぜ介護保険制度が作られたか?」を知ってください。昔の日本では、親の介護は、子どもや家族が行うものとされていたものです。しかし、介護を必要とする高齢者の増加や核家族化の進行、介護離職が社会問題となりました。こうした中、家族の負担を軽減し、介護を社会全体で支えることを目的に、2000年に創設されたものが介護保険制度です。
3-1.プロに相談するまえに自ら勉強
まずは、介護のプロに相談しましょう。といっても、いきなり市町村窓口やケアマネに相談をしても、その担当者がすべて経験豊かで親切な方ではありません。そのため、最低限介護保険の仕組み程度は理解して、介護申請は自ら行うことをお勧めします。
介護申請を行うと、主治医の意見書を記載してもらうために主治医を選ぶ必要があります。主治医選択の際は、医療以外にも介護保険サービスも提供しているような医療機関を選択すると安心です。もちろん、自らネットや知り合いからの評判で選ぶことも有効です。いずれにせよ、最初からすべてお役所から教えてもらうという姿勢では、介護で苦労してしまいます。以下の記事も参考なさって下さい。
3-2.優秀なケアマネを選ぼう
介護度が付いたら、ケアマネを選ぶ必要があります。この選択で、ご家族の今後の介護負担が決まるといっても過言ではありません。
しかし、市町村の窓口で「優秀なケアマネを教えてください」と言っても教えてくれません。可能なら、介護経験のあるご家族から評判の良いケアマネを紹介してもらうとベストです。どうしても探せない場合は、ネットか役所の窓口で「特定事業所加算算定事業所であるケアマネ事業所」を教えてもらいましょう。
通常のケアマネ事業所は、営業時間以外に連絡が取れなくても罰則はありません。しかし、特定事業所加算を取っている事業所は、『24時間連絡体制を確保し、必要に応じて利用者などからの相談に対応できること』が加算要件になっているため安心なのです。詳しくは、以下の記事も参照になさって下さい。
3-3.介護サービスの積極的利用・・時には施設入所も検討
介護が付いたら、デイサービス、ショート、訪問介護、訪問看護など、何でもよいので介護サービスを利用してもらいましょう。
多くの要介護者は、介護サービスの利用を嫌がります。しかし、介護サービスを利用されないことが、介護離職につながるのです。主治医やケアマネとも相談して、介護サービス利用を促しましょう。そして、それでも介護離職をしなければいけない場合は、施設入所も考えるべきです。
これからの少子高齢化の時代は、働ける人は一人でも仕事に従事することは社会の要請です。そんな時代に、介護を個人の犠牲で行ってはいけないのです。以下の記事も参考になさってください。
4.使えるものは使う
介護離職をする前に、以下のような制度を使いましょう。
4-1.介護休暇制度
介護休暇とは、要介護状態となった家族を介護する労働者に対して与えられる休暇のことです。介護休暇制度は、「育児・介護休業法」で定められており、1年度で最大5日間、有給休暇とは別の休暇として定められています。なお、時間単位または半日単位での休暇取得が可能です。
4-2.介護休業
介護休業とは、常時介護が必要な対象家族を介護するための休業を指します。介護休暇と同様に育児・介護休業法により定められた労働者の権利です。対象家族1人につき、通算して93日に達するまで3回を上限として分割取得可能です。
4-3.介護休業給付金制度
介護給付金制度とは、1回の介護休業につき支給される雇用保険の一つです。介護休業を分割して取得している場合は、支給額を分割して支給されます。支給額は原則以下の計算式が使われます。
休業開始時賃金日額×支給日数×67%
5.まとめ
- 介護を社会で支える現代において、一人の介護者が介護を抱え込む時代ではありません。
- 少子高齢化の時代、働ける人は一人でも仕事に従事することは社会の要請ですので、介護離職は避けるべきです。
- 介護離職を避けるためにも、「育児・介護休業法」も有効に利用しましょう。