介護うつ・専門医が伝える原因&対策9つの知恵で心身ともに健康に

介護うつ・専門医が伝える原因&対策9つの知恵で心身ともに健康に

「介護うつ」という言葉を聞いたことはありますか?

介護生活は、介護者に対して肉体的な労力を使うだけでなく、精神面での緊張も強いられます。特に家族が在宅で介護するケースでは、介護者の身心の負担が大きくなり、疲れが蓄積してうつ病になることがあります。

これが、介護うつです。介護者のうち、4人に1人が介護うつを患っているという報告もあります。

パートナーを介護なさる方は、そのあり方について真剣に考えないと、ご自身が心の病に陥って取り返しがつかないことになる可能性が高いのです。

今回の記事では、認知症専門医の長谷川が介護うつの原因と対策についてご紹介します。現在介護をしている人、これから身内の介護を始める人はぜひご一読ください。

目次

1.介護うつとは?

介護うつは、介護者がうつ病を発症することです。「介護うつ」という病名があるわけではありませんが、れっきとした病気であり、治療が必要になる場合もあります。

うつ病の代表的な初期症状は「無気力感」「何をしても面白くない」「何に対しても興味がわかない」ですが、思うように身体が動かなくなるというようなこともあります。

一般的に、うつ病の初期は本人も周囲の人も気付きにくく、知らないうちに病状が進行してしまうことが多いため、注意が必要です。介護に関するストレスのなかでもっとも大きいのは、「先が見えないこと」であり、全体の29%近くの介護者がこれをあげています。

「心身の疲労」よりも、「出口のない、終わりの見えない介護」に人は疲れてしまいます。そのため、施設への入居などを考えることは、決して悪いことではありません。それでも「預けることを考えたら家でみる方が精神的に楽」「経済的に難しい」などのような多くの事情があります。

介護保険によって負担は大きく抑えられます。まったくゼロではありませんが、イメージよりは安く済む場合も少なくありません。

Woman Using Seasonal Affective Disorder (SAD) Light
介護者自身が、心身に大きな変調をきたすようになります

2.介護うつチェックリスト

初期の方に代表的な症状があります。この傾向があるか調べることでチェックになります。

以下のうち、2項目以上が2週間以上、ほとんど毎日続いている方は要注意です。そのためにつらい気持ちになったり、毎日の生活に支障が出たりしている場合は、介護うつ病の可能性がありますので医療機関、ケアマネ、地域包括支援センターなどに相談してください。

毎日の生活に充実感がない

これまで楽しんでやれていたことが、楽しめなくなった

以前は楽にできていたことが、今ではおっくうに感じられる

自分が役に立つ人間だとは思えない

わけもなく疲れた感じがする

3.介護うつになりやすい人

介護うつになりやすい人には、いくつかの特徴があります。

・責任感が強く、自責心も強い

・真面目な気質である

・周囲に相談せずに、自分自身で解決しようとする といったものです。具体的なケースをご紹介します。

3−1.介護サービスを使わず、毎日つきっきりで介護している

患者さんが介護サービスの利用を拒否する場合は、介護うつのリスクが高まります。

そのため、焦らずに説得しましょう。私の患者さんでも、不思議と半年から一年も説得すると利用してくれるものです。何よりも、介護サービスを使わないケースでは、早い段階で在宅生活に限界がきます。患者さん自身がいつまでも自宅での生活を送るためには、介護サービスの利用が必須なのです。患者さん自身のためにも心を鬼にして、介護サービスを利用してもらいましょう。

3−2.介護をきっかけに仕事を辞めた

私は、できるだけ介護を理由に仕事は止めないように指導します。仕事を止めると、社会との交流がなくなり、孤立して介護うつのリスクが高まるからです。昔は、長男のお嫁さんなどが、全人生を介護に捧げたものですが、今は時代が違います。誰かが介護のために仕事を止めることがないように、2000年4月に介護保険制度が作られたのです。

患者さんが亡くなった後にも介護者の人生は続きます。仕事を続けてそのお金で入所を検討しても良いと思います。

3−3.ひとりっ子等、身近に相談できる人がいない

最近では子供が一人しかいないケースが増えてきました。いわゆる介護力が乏しく、一人の子供さんに両親二人の介護負担がのしかかります。兄弟がいれば、相談したり分担したりすることもあります。一人っ子の方こそ、早い段階でケアマネや地域包括センターに相談をして、多くの人に頼るべきなのです。

4.介護者の命の危険も

介護疲れによる自殺者の数は、統計を取りはじめた2007年の265名から横ばいを続けています。自殺者の総数は2012年に3万人を切ってから減り続けているのにも関わらず、です。つまり、自殺における介護を理由とした人の割合だけが増え続けているのです。

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出典「介護疲れ・子育ての悩みで自殺365人 内閣府分析」asahi.com

介護の過酷さは、自殺だけではありません。調査によると、「昨今、介護疲れによる事件が相次いでいます。ケアマネに対する、「自分が担当していたケースで殺人や心中事件が起きてもおかしくないと感じたことがありますか」という調査では、全体730人のうち、54.8%もの方が「ある」と答えました。

多くのケアマネジャーが、介護疲れによる事件の恐れを危惧しています。殺人や無理心中などが予想しうる現場であるのです。介護の現場はそれだけ過酷でもあり、深刻な状況なのです。

5.男性の介護うつも多い

最近では、男性が奥さんの介護に取り組まれることも増えてきています。その結果、介護うつに苦しまれるご主人が増えています。

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責任感の強い男性が、患者さんよりも先に参ってしまうケースが少なくありません

5−1.男性はまじめ

男性が介護をすると、とてもまじめに取り組まれる傾向があります。毎日きちんと、血圧・体温・排便排尿の回数を記録される方もいらっしゃいます。そのため、いろいろな悩みやトラブルを一人で抱え込まれることもあります。

先ほどは、患者さんが介護サービスを拒否するケースを紹介しましたが、男性は、敢えて介護サービスを使わなケースがあります。自分が介護するからと言って、いっさい介護サービスを使わないのです。そのうえ、子供たちにも迷惑をかけたくないからと言って、相談さえもしない方が結構いらしゃるのです。


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5−2.男性介護者が突然死するケースも

私の外来でも、あまりに一人で抱え込んでしまったために突然死された男性介護者が5人ほどいらっしゃいます。ある程度の年齢になれば介護者自身も病気を持っているものです。そこに、いつ終わるかわからない介護を続けるストレスが突然死を引き起こすのです。

5−3.残された家族はかえって迷惑

実は、一人で介護を抱え込んだ末に突然死されると残された家族にはとても迷惑です。介護サービスを一切使わずにご主人一人で介護されていた患者さんが、新たに訪問の介護サービスを使うことは大変です。結果的に全面的に面倒をみてくれる入所対応になってしまうのです。

6.対策

介護うつを予防するための対策をご紹介します。

6−1.介護者の睡眠と食事が大事

介護者自身の睡眠と食事を確保しましょう。人間は、夜が眠れて、食事がとれていれば何とかなるものです。介護者の睡眠を確保するためにも、患者さんの睡眠を確保する必要があります。ときには薬を使って、夜間に眠ってもらいます。逆に言えば、患者さんが夜間徘徊等で介護者の睡眠が確保できない場合は、入所も検討しなければならないのです。

6−2.介護で感情を出そう

外来で、患者さんへの不満を訴えられる介護者さんは結構いらっしゃいます。医師としては、この段階ではまだ安心しています。介護者自身が世間に対して感情を出すことで、少しはガス抜きができるからです。

患者さん自身に感情をあらわにして厳しく接したり、乱暴に対応することは禁止です。あくまでも優しく接することが基本なのですが、これで感情を誰に対しても押さえ込むようになってしまうと次の段階へ進んでしまいます。

患者さん以外に対しては、自由な感情でいてほしいものです。

6−3.ドクターストップの目安

介護が極限を迎えると感情が現れません。患者さんへの不満を口にすることもなく感情表現が乏しくなります。こうなると、介護者自身が危険です。この段階では、ドクターストップをかけ早急に他の家族・ケアマネを呼んで入所も検討してもらいます。

7.介護サービスを利用して上手に息抜きを

介護うつの予防は、民間医療や介護サービスの利用が大事です。

Positive joyful man sitting in the wheelchair
患者さん自身もきめ細かいサービスを受けられるようになります

7−1.デイとショートステイを積極的に利用する

介護うつを予防するために最も有効な介護サービスは、デイケア(デイ)とショートステイです。

デイは朝から夕方までの預け施設。患者さんは入浴や軽運動、食事や排泄の面倒を見てもらえます。

ショートステイは、短期入所生活介護とも言われ、泊まり込みでの利用が可能です。ケアマネによってケアプランを作成してもらうことで4日以上の連続サービス利用が可能になります。(急用の場合はその限りではありません)

極端に言えば、一ヶ月のうち二週間はショートステイを利用、残りの二週間も週に5回はデイサービスを利用する。このプランが実行できれば介護うつは、かなり予防できます。

7−2.認知症の周辺症状をコントロールしてもらおう

患者さんが認知症の場合、幻覚・妄想と言った周辺症状が出現してきます。このような周辺症状が出現した場合の介護者への負担は、相当重くなるのはご理解頂けるでしょう。

現在、周辺症状はメマリーや抑肝散、抗精神病薬少量投与等の組み合わせで、ほとんどコントロールが可能です。

主治医が周辺症状への対応をしてくれない場合は、認知症専門医や精神科への受診を検討しましょう。

別記事でアルツハイマー薬の使い分けについて解説していますので、そちらも参考になさってください。

7−3.状況によっては入所の決断も

介護する側の介護力が乏しい場合や、患者さんが介護サービスを利用してくれないケース、介護者が睡眠時間を確保できないような状態では、介護うつのリスクが高くなります。入所(長期間の泊まり込みの利用)を決断しましょう。

8.正しい決断を阻害する人達への対応法

介護うつのリスクが高まり、入所という正しい決断をする際に、これを阻害する要因があります。介護に関わらない子供たち、突然現れて口だけ出す身内、近所の方々の声です。

「お母さんはもっと頑張れないの?」

「負担が大変だ…父親はどこへ行った?という世間体もある」

「自分で面倒みきれないから施設に預けるなんて…」というような声が耳に入ってきます。

そのため、私の外来では家族に対して、「これ以上の自宅での介護は禁止」と伝えてから家族会議を開いてもらいます。

このような方針なしに家族会議を開くと、何も決まらずになし崩しになって、ダラダラと自宅介護が続くことが多いからです。「主治医が自宅介護禁止」と言われた前提で家族会議が始まると、スムーズに話し合いが進み、正しい決断へ導かれるのです。

このようなことを言ってくれる医師でない場合も、介護者の方やもっとも身近な方が方針を決めて臨むことが重要です。

9.入所後のうつ・予防策とは

介護負担を極限に追い詰めてはいけませんが、といって全くゼロにしてもいけないのです。

本当に一生懸命、介護に取り組まれた介護者は患者さんが入所してからも不安や後悔にさいなまれることがあります。

「私は自分で責任をとらずに、全部人任せにしてしまった」

「ほんとうに大変なのは、自分よりもあの人だったのに…」

「最期まで家で暮らしたかっただろうに、その願いをかなえてあげなかった」などです。

私は、介護者の方には「入所しても介護負担がゼロになるわけではありません。入所後も熱が出たり、転んだりすればご家族に連絡が入ります。介護負担はせいぜい半分になるぐらいですよ」とお伝えします。そうすると介護者は不思議とほっとされます。まずは介護者の負担を減らすことが大事です。

10.まとめ

  • チェックリストで介護うつになっていないか確認しましょう
  • 介護うつにならないために、介護者自身の対策・患者さんの介護サービス利用を行いましょう
  • 介護が限界になったらドクターストップです。入所も検討しましょう。
長谷川嘉哉監修シリーズ