最近、リフィル処方箋という言葉がマスコミをにぎわしています。その論調は、あたかもリフィル処方箋をださない医師は「悪」とまで言わんばかりです。正直、本当に患者さんのことを考えると、良心的な医師ほど「リフィル処方箋」には躊躇してしまいます。今回の記事では、医師が外来で何を考えて診察をしているのかを知っていただくことで、「リフィル処方箋」をお薦めしない理由をご紹介します。
目次
1.リフィル処方箋とは?
リフィル処方箋とは、症状が安定していて診察なしで投薬を続けても問題ないと医師が判断した患者さんに発行が認められる処方箋です。「リフィル可」という欄にチェックされた処方箋を調剤薬局に持って行けば、指示された期間内で最大3回まで薬の受け取りが可能になります。
同じ薬を服用し続けている患者さんには、医師の診察を受けなくても薬局で薬を手に入れられるようになります。マスコミの論調では、「薬をもらうためだけに診察を受けるケースが減るため医療の効率化にもつながる」とされています、
2.医師法第20条「無診察治療等の禁止」
そもそも、医師として33年働いてきて「リフィル処方箋」に対して気になるのが、医師法第20条です。そこには、「自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方箋を交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。」とされています。つまり、「リフィル処方箋」自体が医師法に触れているのです。
今回の診療 報酬改定においては、あくまで財政上の問題から厚生労働大臣と財務大臣両大臣の合意でリフィル処方箋の導入が 決まったことに違和感を感じます。
3.診察は、薬をもらうためだけのものでない
そもそも診察とは、「問診,視診,触診,聴診その他手段の如何を問わないが,現代医学から見て,疾病に対して一応の診断を下し得る程度のもの」とされています。
前回と同じ処方をした場合は、診察をしたうえで「処方内容を変える必要がない」と判断したのです。何も、毎回、すべての患者さんにおいて同じ処方を繰り返しているわけではないのです。
そのために、バイタル(血圧・脈拍・体温)を測り、適宜検査を行っているのです。決して、薬をもらうための儀式ではないのです。
4.リフィル処方箋で心配すること
リフィル処方箋で以下のことが心配です。
4-1.無診療による弊害
我々医師は、いろいろなことを考えて患者さんを診察します。患者さんの顔色、浮腫から病気が見つかることもあります。急激に体重が減っていることでさらなる検査が必要になることもあります。血圧・血糖のコントロールが不良になっていることもあります。そもそも、きちんと服薬ができていないこともあります。これらもすべて実際に診察をすることで予防することができるのです。
4-2.見落とし
やはり、リフィル処方箋においては、病気の見落としが気になります。私の経験上、こういった制度をすぐに希望される患者さんほど、何かあった際には、医師への責任を追及する傾向があります。医師とすれば、だからこそ直接診察をする必要があると考えるのです。何しろ、医師法でも無診察診療は禁止されているのですから。
5.リフィル処方箋を機に医師も反省を
今回のリフィル処方箋を機に医師も反省をする必要があります。
5-1.診察を丁寧に
患者さんに、「医師は薬だけ処方している」と思われない必要があります。丁寧、時間をかけて「診察をしたうえで、前回と同じ処方をしている」ことを伝える必要があります。
5-2.長期処方
現在、麻薬及び向精神薬、1年以内の新薬など特定の薬剤を除き、薬剤投与期間の日数制限がありません。そのため、医師の判断で長期処方は可能です。確かに、患者さんの状態によっては28日でなくても、それ以上の長期処方でも問題ない方もいらっしゃいます。そのような場合はリフィル処方箋でなく、長期処方で対応すべきです。実際、私もてんかん患者さんの例では90日処方も普通に行っています。ただし、症状が不安定な患者さんの場合は、仮に希望されても長期処方をお断りしています。
5-3.いずれオンライン診療
時代の流れとして、従来の外来診療だけでは対応できなくなる時代が来ているのだと思います。その一つの手段がリフィル処方箋なのかもしれません。その流れの中では、オンライン診療も普及していくと思われます。
6.まとめ
- リフィル処方箋は、医師法20条の無診察診療の禁止に反すると思われます。
- 医師は、診察をしたうえで前回と同じ処方箋を交付するという判断をしています。
- 医師にも、ただ同じ薬を出していると思われない丁寧な診察が要望されます。