褥瘡(じょくそう・床ずれ)を防ぐための全知識【在宅専門医が解説】

褥瘡(じょくそう・床ずれ)を防ぐための全知識【在宅専門医が解説】

寝たきり状態が続く高齢者にとって気になるのが、褥瘡(じょくそう)です。褥瘡は、病気やケガで長くベッドから起きられないことで、背中やお尻の皮膚がすりむけて炎症を起こしたり、深くえぐれた状態になることです。放っておくと、悪化して皮膚に穴が開き、骨に到達して骨が露出してしまいます。ここまで悪化すると完治しづらくなり、大変厄介です。

褥瘡は「予防よりも治療が困難」といわれる病気です。なによりも予防しておくことが大事です。今回の記事では、在宅医療の専門医である長谷川嘉哉が、褥瘡を予防するための医療・看護・介護のポイントを紹介します。

目次

1.褥瘡とは?

PRESSUREsore
褥瘡ができやすい場所

褥瘡とは、寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうことです。一般的に床ずれともいわれています。

日本褥瘡学会では、褥瘡を次のように定義しています(日本褥瘡学会,2005)。「身体に加わった外力は骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下、あるいは停止させる。この状況が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り褥瘡となる。」

2.褥瘡はなぜできる?

 

Stages of Pressure Sores
じゅくそうの段階

正常な方は、無意識のうちに眠っている間は寝返りをうったり、長時間椅子に座っているときはお尻を浮かせるなどして、同じ部位に長い時間の圧迫が加わらないようにしています。このような動作を「体位変換」といいます。しかし自分で体位変換できない方は、体重で長い時間圧迫された皮膚の細胞に十分な酸素や栄養が行き渡らなくなります。これが「褥瘡」の原因となります。

特に、自分で体位変換ができず長期間寝たきりで、栄養状態が悪かったり、皮膚が弱くなっている方に褥瘡ができやすくなります。具体的には、高齢者、排泄物や汗により皮膚が湿っている、むくみが強い、抗がん剤やステロイドなど薬の副作用で免疫力が低くなっている人が、褥瘡になりやすいといえます。

3.褥瘡は治療より予防

褥瘡は、できるときは一晩でできてしまうことさえあります。しかし、治療自体にはとても時間がかかります。そのため褥瘡は、「治療より予防が大事」と言われます。

3-1.最近は、自宅より入院での褥瘡が多い

昔は、自宅で介護をしていると褥瘡ができたものでした。しかし、介護保険が施行されてからは、予防的に福祉用具を使用することができるため、自宅での褥瘡は減っています。逆に、病院などには、古いタイプの使い古された予防マットしかないため、入院を機に褥瘡ができ、治らないまま退院される方が増えています。

3-2.介護保険の福祉用具

褥瘡は、体の一部に体圧が集中することが一因です。そのため、体圧を分散するためのマットをレンタルすることになります。通常は、月額300〜800円程度と安価に借りることができます。少しでも褥瘡の可能性がある場合は、予防的に使用することが大事です。

選択にあたっては、自力で寝返りや移動ができるかできないかがポイントとなります。寝返りや移動ができる状態であれば「マットレスタイプの製品」が、自力で寝返りができない状態であれば「体圧分散効果の高いエアマット」が適しています。エアマットの場合は、自力で寝返りや移動ができる患者さんの場合は、ベッドから落ちてしまう危険性があるからです。

3-2.訪問看護の利用

褥瘡ができてしまった場合は、褥瘡の処置のために医療保険を使った訪問看護が利用できます。しかし、やはりできてしまってからでなく、褥瘡のリスクのある患者さんの場合は、予防的に介護保険を使った訪問看護を利用することをお勧めします。


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4.褥瘡に最も効果的なものは栄養

実は、褥瘡予防、および改善に最も効果的なものは栄養状態です。

4-1.低アルブミンに注意

褥瘡予防のための、そして褥瘡発生後の栄養管理の基本は、低栄養の改善です。栄養状態の把握には、血清アルブミンを指標とします。血清アルブミンは、血液中のタンパク質の一種で、総たんぱくの約6割を占め、栄養・代謝物質の運搬、浸透圧の維持などの働きを行います。栄養状態を評価する際、低栄養に陥っていないかどうかを調べる指標となるものです。血清アルブミン値は、3.5g/dL以下では褥瘡発生リスクが高いとされています。

4-2.たんぱく質が重要

褥瘡を修復するためには、アルブミンをはじめとするたんぱく質の摂取が必要です。タンパク質は、褥瘡を修復するための材料になります。いかなる福祉用具を作っても、優れた薬を使っても、材料がなければ修復はされません。そのためには、卵、肉、魚、大豆といったたんぱく質を意識して摂取することが必要です。

経口摂取が落ちている場合は、医療機関からラコールエンシュアといった総合栄養食を補食として処方してもらいましょう。これらは、薬剤として医師が処方可能です。

4-3.癌になると褥瘡が治りにくくなる

癌になると褥瘡がなかなか治癒しません。これは、癌悪液質が原因です。癌末期では、炭水化物やタンパク質の代謝変化などを原因とする悪液質の状態になります。この状態では、栄養を摂取しても低たんぱく質が改善しないため、褥瘡が改善するどころか、悪化するのです。

5.洗浄・外科的治療

褥瘡の治療において大事なことのひとつに、褥瘡とその周りをきれいにすることです。褥瘡に汚れや菌がついている状態では、うまく治りません。そのため、きずとその周りの汚れや菌を洗い流してしまうことが大事です。洗い流すにあたっては、『十分な量の生理食塩水または水道水を用いて洗浄する』ことが必要です。

その上で、洗浄・治療だけではとれないような、褥瘡にしっかりくっついている壊死組織(皮膚やその下の組織の死がい)が残る場合は、様子を見ていても決して治りません。早い段階で、メスなどを用いて切り取ってしまうことが大事です。この程度の処置であれば、内科医である私でも在宅で行っています。

6.塗り薬

褥瘡に使える塗り薬(外用剤)には様々なものがあります。ただし、塗り薬よりも福祉用具を使った予防、低栄養の改善が大事なことは言うまでもありません。

6-1. 主に浸出液、感染、壊死組織が起きないようにする薬

  • ゲーベンクリーム:菌が増えないようにするので、感染をしやすい時期に適した薬剤です。使用する場合はできる限り傷口を清潔にし、壊死組織を取り除きます。
  • イソジンシュガーパスタ軟膏:褥瘡面から出る細菌や真菌に対し強い殺菌力を持つため、感染しやすい時期に適した薬剤です。また傷を治すようにする効果があります。ヨウ素に過敏症のある人は使用できません。

6-2. 主に肉芽を作り、傷口を小さくするための薬

  • フィブラストスプレー:傷を治す効果を高め、新しい血管を作り、肉芽を作るのを早めます。本剤の主成分であるヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)は生体内物質の一つで、創傷治癒を促進します。bFGFは線維芽細胞、血管内皮細胞および表皮細胞の増殖を促進する作用を有し、創傷部位における良性肉芽の形成および上皮化を促進することで、治癒期間を短縮させます。効果は抜群ですが、薬価が他と比べて高価となっています。
  • オルセノン軟膏:肉芽を作るのを早める効果が強いです。さらに傷口を治すのを高め、新しい血管を作るのを早めます。
  • アクトシン軟膏:傷口を小さくし治すのを早めます。さらに血流を良くし、新しい血管を作るのを早めます。肉芽や皮膚を作るのを早める効果もあります。
  • プロスタンディン軟膏:皮膚の血流を増加させ、傷口が治るのを早めたり、新しい血管や皮膚を作るのを早めます。

7.おすすめ・ラップ療法も凄い!

在宅においては、いわゆるキッチンラップを使ったラップ療法も効果があります。当院では訪問看護を中心に積極的にラップ療法を取り入れています。

7-1.褥瘡ラップ療法の基本的なやり方

褥瘡部位を、消毒せずに水道水で洗浄します。褥瘡を穴あきポリエチレンないしは食品用ラップでじかに覆います。さらにそのうえをおむつで覆います。外用薬は創の状態に応じて適材適所で使用します。翌日以降、滲出液に応じて洗浄処置を継続。体位変換、体圧分散マットレスなどの除圧対策は継続して行います。

7-2.ラップ療法が効く理由

以前は、褥瘡は乾燥させたほうが早く治るといわれていました。そのため、創部をドライヤーで乾かしたり、「消毒して」→「ガーゼを当てて」→「乾燥させる」という治療法が一般に行われていました。しかし、1950年代くらいから、湿潤状態のほうが褥瘡は早く治るという概念が提唱されてきました。褥瘡の滲出液には各種の細胞増殖因子が豊富に含まれているため、湿潤環境下では、真皮側の線維芽細胞、コラーゲンの増生が起こり良性の肉芽組織が形成されのです。ラップ療法では、褥瘡の滲出液はラップの脇や小孔から漏れ、オムツに吸収されるので、滲出液の制御とともに適度な湿潤状態を保てるのです。

7-3.ラップ療法の利点

処置が簡単なので、短時間に終了するため、毎日の処置に対する家族・スタッフの負担が減ります。また、あらゆるステージの褥瘡に使えます。とくに広範囲のⅢ度以上の深い褥瘡には最適です。そのうえ、経済性に優れているため費用を考えずに頻回に処置ができるのです。

8.まとめ

  • 褥瘡は、治療より予防が大事です。
  • そのためには、介護保険の褥瘡予防マットの使用及び訪問看護の利用が大事です。
  • そして何よりも栄養状態の改善・維持が重要です。
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