東京オリンピックでは、日本選手が大活躍でした。その中でも、女子200mと400m個人メドレーで金メダルをとった大橋悠依選手と、女子の体操村上茉愛選手の歯の「矯正治療」が、とても目立っていました。医科歯科連携では、命に関わるすべての疾患に歯が関わっていることが分かっています。しかし、命だけでなく、運動機能にも歯科、とくに歯並びは関わっているのです。今回の記事では、クリニックの敷地内に歯科医を誘致して医科歯科連携を実践している長谷川嘉哉が、歯科と運動機能について解説します。
目次
1.歯を大切にするスポーツ選手
一流のアスリートは、一般の方以上に歯を大切にしています。これは、スポーツにおいて歯が重要な関わりがあることを知っているからです。元大リーガーのイチロー選手は、1日に5回も歯を磨くほど、歯を大切にしていたようです。
また、歯並びは、パフォーマンスに影響を与えるようで、今回のメダリスト以外にも、野球では、三度の三冠王を獲得した落合博満さん、大リーグでホームラン王を争う大谷翔平選手、ヤクルトの青木宣親選手、西武の高橋光選手、引退を表明した松坂大輔選手、中日の若手の石川昂弥選手。フィギュアスケートでは、宇野昌麿選手、宮原知子選手、坂本花織選手、キムヨナ選手など。またスピードスケートでは、長野オリンピック金メダリストの清水宏保さん。少し調べるだけでも、ものすごい数のアスリートが歯列矯正をしていることが分かります。
2.歯並びが良いとなぜ運動機能が改善?
なぜ、歯並びと運動機能は関係するのでしょうか?
2-1.姿勢
スポーツにおいて姿勢の保持は重要です。歯のかみ合わせが悪いと頭の重心をずらしてバランスをとろうとします。結果、頭のバランスが崩れることで、肩や腰のバランスも崩れる最大限のパフォーマンスを発揮することができなくなるのです。
2-2.筋力
十分な力を発揮するには、正しい顎の位置で食いしばる必要があります。歯並びや嚙み合わせが悪いと、顎の位置もずれてきます。そうすると、十分に筋力を発揮することができなくなるのです。同様の理由で、一気に最大限の筋力を発揮する瞬発力も低下してしまうのです。
2-3.運動能力
歯並びや嚙み合わせは、運動能力や競技力にも影響を及ぼします。歯並びや嚙み合わせが悪いと、頭頚部から足腰におよぶ身体全体のバランスが崩れ、集中力・持久力が低下。結果として、最良のパフォーマンスが発揮できなくなります。
3.スポーツ選手だけではない。一般人への効果とは
歯が、身体の動きに及ぼす影響はアスリートだけでなく、特に高齢者に見られます。
3-1.やる気の低下や頭痛・肩こりの原因に
歯並びや嚙み合わせが悪いと、身体全体のバランスが悪くなり、頭痛や肩こりなのど不定愁訴が起こりやすくなります。ただでさえ、年齢を減ると前頭葉の機能低下で意欲が低下しがちになります。歯の不具合が、それをさらに加速させ、認知症の発症につながる可能性すらあるのです。
3-2.運動機能低下による転倒
歯並びや嚙み合わせが悪いと、身体全体のバランスが悪くなり、歩行機能が低下し、運動の機会が減ることで、さらに運動機能が低下する悪循環になります。また、とっさの際に噛みしめることができないと、転倒もしやくもなるのです。結果、骨折、長期安静になると、やはり認知症発症の一因となるのです。
3-3.栄養状態が悪化が免疫力の低下へ
歯並びや嚙み合わせが悪いと、噛む回数が減り、消化不良を起こしがちです。さらに、硬いものが食べられないため、柔らかいもの、つまり炭水化物に偏り、高齢者に必須のタンパク質の摂取量が減ってしまいます。結果、全身の栄養状態が悪化し、免疫力の低下にまでつながるのです。
4.歯並びや嚙み合わせを整えることは、究極の予防治療
日本人は、平均寿命は延びていますが、「健康上の問題で日常生活が制限されずに生活できる健康寿命」との差は、男性で約 9 年、女性で 12 年程度の長くなっています。つまり、それだけの期間は生活が制限され、他人の介助を要するのです。
歯並びや嚙み合わせを整えることは、アスリートがパフォーマンスを発揮するだけでなく、一般の方の、健康寿命を延ばすことにつながり、究極の予防治療になるのです。
5.まとめ
- 一流アスリートは歯を大事にし、時に歯列矯正治療も行っています。
- アスリートだけでなく、高齢者は歯を整えることが、認知症予防、運動機能の低下を予防します。
- 歯並びや嚙み合わせを整えることは、健康寿命を延ばすことにつながり、究極の予防治療になるのです。