検診で、クレアチニンの異常を指摘された方は多いのではないでしょうか? その場合、医療機関への受診を勧められることもあります。受診すると、「様子を見てください」と言われたり、「生活習慣の改善」を厳しく指導されたり、時にはさらに詳しい検査を行われことがあります。
一口に、「クレアチニンが高い」場合でも、対応には差があるのです。今回の記事では、総合内科専門医の長谷川嘉哉が、クレアチニンが高いと言われた場合に、疑われる疾患、対応方法の違いなど7つのポイントをご紹介します。
目次
1.クレアチニンとは?
そもそも、一般の方には聞きなれない「クレアチニン」とは何でしょうか?
1-1.筋肉の老廃物のようなもの
クレアチニンとは、筋肉の老廃物のようなものです。そのような老廃物は、通常は腎臓でろ過されて、尿と一緒に排泄されます。しかし、腎臓の機能が落ちると、ろ過しきれなかったクレアチニンが血液中に残ってしまいます。そのため、血液中のクレアチニン(通常、血清クレアチニン)の値が高くなれば、腎機能が低下していことが疑われるのです。
1-2.クレアチニンの正常値は?
クレアチニンの値は、㎎/㎗という単位で表されます。基準値は、以下のように男女で違います。
男性:基準範囲:1.00以下、要注意:1.01~1.29、異常:1.30以上
女性:基準範囲:0.70以下、要注意:0.71~0.99、異常:1.00以上
2.クレアチニンが高くなる原因は
クレアチニンは以下のような原因で数値が高くなります。
2-1.腎機能の悪化
クレアチニンの数値が高い場合は、腎臓の異常が疑われます。急性腎臓病、慢性腎臓病だけでなく、心不全が原因でも腎臓への血流が悪くなり、クレアチニンの数値が高くなります。
2-2.筋肉量が多い
クレアチニンは筋肉の代謝により生じます。従って、運動選手などそもそもの筋肉量が多い人は、クレアチニンが高くなります。また、男女による筋肉量の違いから、基準値も男性が高くなっているのです。
2-3.肉を食べ過ぎた
検査の前日に、焼き肉などで大量に肉を食べたことで、クレアチニンが高くなることがあります。やはり、クレアチニンだけでなく、他の検査所見も正しい情報を得るためには、検査前日の食事では暴飲暴食は避けましょう。
3.クレアチニンが高いときのさらなる検査
クレアチンの数値が高い場合は、以下の検査で腎機能を精査します。
3-1.尿検査
尿検査は簡単ですが、多くの情報があります。尿中に、タンパク質が漏れていないか、潜血反応が出ていないかを確認することで、腎機能を測ります。
3-2.畜尿によるクレアチニンクリアランス
クレアチニンクリアランスは、腎臓の糸球体が、クレアチニンを含む老廃物を何㎖ろ過できるかを調べる検査です。腎機能が低下すると、糸球体の機能が衰えて、クレアチニンクリアランスの数値も下がってしまいます。クレアチニンクリアランスをもっとも正確に測定するには、24時間尿を貯め、定期的に採血も組み合わせて測定します。
3-3.eGFR
畜尿によるクレアチニンクリアランスの測定は、簡単にはできません。そこで、多くの人のクレアチニンクリアランス検査の結果から作られたものが、eGFR(推算糸球体濾過値(estimated glemerular filtration rate)です。これは、血清クレアチニン値、年齢、性別から推算するものです。完全に正確ではありませんが、多くの医療機関では、腎機能を表す値として最も多く使用されています。
3-4.血清シスタチンC
シスタチンCもクレアチニンと同様に、腎臓の機能が悪化すると値が高くなります。クレアチニンと異なり、筋肉量の影響を受けないため、クレアチニンよりも正確に腎機能が評価できます。但し、通常の保険診療では、クレアチニンに比較して高価(クレアチニン 11点、シスタチンC 118点)であることと、3か月に1回しか検査が認められていないため、通常をクレアチニンでフォローして、必要時にのみシスタチンCを測定します。
4.腎臓が悪くなるとどうなるの?
腎臓は、肝臓や膵臓と同様に、「沈黙の臓器」と呼ばれています。そのため、倦怠感、浮腫み、息切れなどの症状が現れた際には、かなり進行しているのです。
腎臓の機能が低下すると、全身の血管に影響を与え、虚血性心疾患や脳卒中も合併しやすくなります。さらに、人工透析にまで至ると、死亡リスクも上昇します。
5.eGFRで対応方法は異なる
クレアチニンの異常が疑われた場合、eGFRの値でおおよそ以下のように対応します。
- G1:正常または高値(GFR≧90)・・腎臓機能は正常または高値と推定。ただし、タンパク尿を認める場合は、一度は腎臓の専門医を受診しましょう。
- G2:正常または軽度低下(90>GFR≧60)・・腎臓機能は正常または軽度に低下していると推定。G1と同様に、タンパク尿を認める場合は、一度は腎臓の専門医を受診しましょう。
- G3a:軽度~中等度低下(60>GFR≧45)・・腎臓機能は軽度~中等度に低下していると推定。慢性腎臓病(=CKD)が疑われますから、医療機関を受診しましょう。
- G3b:軽度~中等度低下(45>GFR≧30)・・腎臓機能は中等度~高度に低下していると推定。CKDが強く疑われますから、速やかに医療機関を受診しましょう。
- G4:高度低下(30>GFR≧15)・・腎臓機能は高度に低下していると推定。CKDであり、腎臓機能低下によって生じるさまざまな異常(貧血、ミネラル異常、骨の異常など)を合併している可能性が高いので、すぐに医療機関を受診しましょう。透析治療を要する重症な腎不全になる危険性が高いため腎臓専門医による治療が必要です。
- G5:末期腎不全(15>GFR)・・末期腎不全。透析治療などを要する直前の状態ですので、すぐに医療機関を受診しましょう。この段階では、腎臓専門医による治療が必要です。腎臓機能低下によって生じるさまざまな異常(貧血、ミネラル異常、骨の異常など)を合併している場合がほとんどであり、その治療も必要です。
6.腎機能を悪化させないために
腎臓の異常が指摘された場合は、以下のような対応が必要です。
6-1.禁煙
喫煙は、慢性腎臓病のタンパク尿を増加させ、腎機能障害の進行を促進します。1日20本の喫煙者が、末期腎不全になる危険性は、非喫煙者の2倍以上と言われています。禁煙は絶対です。
6-2.生活習慣病のコントロール
生活習慣病のコントロールが重要です。
- 糖尿病では、高血糖状態が長く続いていることにより腎症が引き起こされます。
- 脂質異常症は、中性脂肪と悪玉コレステロール値が高くなることで、全身の動脈硬化性変化が進行し、腎機能が悪化します。
- 高尿酸血症は、血液中に増えすぎた尿酸が、腎臓に蓄積して炎症を引き起こします。これを痛風腎といい、腎臓結石や尿路結石を併発することもあります。
6-3.食事
食事については、G1とG2のステージでは、塩分の取りすぎに注意しましょう。G3からG5のステージでは、腎臓をいたわるために、減塩に、タンパク質制限、十分なエネルギーの補給、カリウム・リン、水分制限も必要となります。
7.まとめ
- 検診で、クレアチニンの高値が指摘されたら、腎機能の精査が必要です。
- 腎機能の異常が指摘された場合は、腎機能のステージごとに対応方法が異なります。
- 腎機能のステージに関わらず、禁煙、生活習慣病のコントロール、減塩は必須です。