高齢者の中には、「30分歩くと足や腰が痛くなって歩けなくなる」ことを訴える患者さんが結構います。しかし、休憩すると不思議と歩き始めることができるのです。しかし、再度30分も歩くと痛みのため歩けなくなる。これは、医学的には、間欠性跛行(かんけつせいはこう)という症状です。
この間欠性跛行の原因には、大きく2種類があります。そして、それぞれの対処方法が異なるため診断がとても重要です。今回の記事では、脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が、間欠性跛行の原因と鑑別、そして対応方法についてご紹介します。
目次
1.間欠性跛行(かんけつせいはこう)とは?
間欠性跛行の跛行とは、「はこう」と読みます。そして、医学用語である間欠性跛行とは、「ある一定の時間歩くと、足が痛くなったり、痺れてしまって歩けなくなる」、しかし、「いったん休憩すると歩けるようになる」という症状を言います。
患者さんは、足が痛くなったり、痺れたりするため足の筋肉や骨に原因があると考えがちです。しかし、間欠性跛行の原因は、脊髄や血管に原因であることが大部分です。間欠性跛行は、原因によって対処方法や治療法が異なるため原因の見極めが重要です。
2.間欠性跛行を引き起こす2つの疾患
間欠性跛行を引き起こす疾患は、以下の2つのいずれか、もしくは合併です。
2-1.腰部脊柱管狭窄症
足の痛みや痺れの原因が、遠く離れた腰部にあるケースです。高齢になって、腰椎が変形したり、靭帯が厚くなると、脊髄が通る脊柱管が曲がったり、狭くなってしまいます。まさに、腰の脊柱菅が狭窄してしまった状態が、腰部脊柱管狭窄症なのです。その結果、腰髄や馬尾神経を圧迫することで、腰痛や足の痺れが起こるのです。
2-2.閉塞性動脈硬化症
足の痛みや痺れの原因が、足の血管であるケースです。人間の血液は、心臓を起点として、全身に流れます。その際に、最も大きな血管である大動脈は、胸部~腹部大動脈と名前を変え、その後左右に分かれて足に血流を送ります。閉塞性動脈硬化症は、足の血管の動脈硬化がすすみ、血管が細くなったり、詰まることで血流が維持できなくなる病気です。その結果、ある一定時間歩行すると足が冷えたり、痛みを感じます。以下の記事も参考になさってください。
3.2つの疾患の鑑別は?
2つの疾患は、鑑別が重要です。
3-1.腰痛や生活習慣病の有無
鑑別においては、患者さんからの情報収集が大事です。腰部脊柱管狭窄症の患者さんは、安静時にも腰痛や痺れを伴ったり、歩行の際に「つっかかる」ことを自覚されていることが多いようです。また、安静時に前かがみになると、足の痛みが治まる特徴があります。
一方で、閉塞性動脈硬化症の患者さんは、糖尿病の合併が多く、既往歴として血管病変である脳梗塞や心筋梗塞を起こしていたことが多いものです。症状として、冷感を訴えることが多く、冬場に症状が悪化します。
3-2.腰のMRIとハンマーも有効
腰部脊柱管狭窄症の診断には、腰部MRI撮影で診断が確定します。ただし、MRIを撮らなくても脳神経内科医はハンマーで診断がついてしまいます。膝蓋腱反射が、腰部脊柱管狭窄症では、両側で亢進します。一方、閉塞性動脈硬化症の場合は、反射は正常もしくは低下します。ハンマーを使うことで、安価で短時間に鑑別が可能なのです。以下の記事も参考になさってください。
3-3.脈波
閉塞性動脈硬化症の診断の確定診断には、血管の造影検査が必要です。しかし、診療所レベルにも設置されている脈波の測定も有効です。この検査では、同時に四肢の血圧を測定します。正常では腕の血圧に比べ、足の血圧が高くなります。逆に、足の血圧が低くなる場合に、閉塞性動脈硬化症を疑います。
4.何科に受診?
間欠性跛行の症状が出た場合は、何科に受診すべきでしょうか?
理想は、腰の病変も血管病変も専門である脳神経内科医がお勧めです。脳神経内科医であれば、患者さんの訴えとハンマーによる反射を見るだけでおおよその診断が可能です。その上で、症状に合わせて、腰部のMRIもしくは血管造影などの検査の手配が可能です。
ただし、脳神経内科医が近所の病院にいない場合は、腰痛などの症状があれば整形外科、生活習慣病がある場合は、一般内科でまずは相談をされることをお薦めします。
5.治療薬の違い
腰部脊柱管狭窄症と閉塞性動脈硬化症は、保険適応されている治療薬も異なります。
5-1.腰部脊柱管狭窄症
治療薬としては、経口プロスタグランジンE(商品名:オパルモン)を使用します。この薬は、血小板の凝集を抑え、血管を拡張させる作用によって、症状を改善します。この薬に漢方薬として、牛車腎気丸を併用することもあります。
5-2.閉塞性動脈硬化症
薬物療法として、血を固まりにくくする抗血小板療法を行います。具体的にはプロスタグランジンI2製剤(商品名:プロサイリン)を使ったり、アスピリン(商品名バイアスピリン)、クロピドグレル(商品名:プラビックス)、シロスタゾール(商品名:プレタール)などを使用します。
6.患者さんができる日々の対応方法は
腰部脊柱管狭窄症と閉塞性動脈硬化症は対応方法も異なります。
6-1.腰部脊柱管狭窄症
腰痛に対して、腰の負担を軽くするコルセットを使用します。同時に、患部を暖める温熱療法、ストレッチや筋肉増強目的の運動療法も行います。日常生活に支障をきたすほどの症状の場合は、腰椎の狭窄の原因となっている骨の変形を切除する手術を行う場合もあります。
6-2.閉塞性動脈硬化症
足を暖めることで、血管が拡張して血流が良くなります。そのため、靴下、電気毛布、入浴での保温が大事です。夏場でも靴下の着用が有効です。傷が治りにくくなるので爪を切る際の深爪には要注意です。感染もしやすいので、水虫も早い段階で、軟膏で処置が必要です。
7.まとめ
- 間欠性跛行の原因は「腰部脊柱管狭窄症」と「閉塞性動脈硬化症」です。
- 両者の鑑別診断は、医師が複数の検査結果をもとに診断します。
- 2つの疾患は治療法や対応方法が異なるため注意が必要です。