2019年6月、「年金2000万円問題」が問題となり、参議院選挙でも一つの争点になりました。「平均的な高齢夫婦無職世帯の家計は公的年金だけでは月約5万円の赤字(30年で2000万円)となる」というものです。野党は「無責任」と反発しています。
しかし、我が国は資本主義です。年金では限界があるのはそもそもわかっていることだったはずです。定年後の生活が年金だけで賄えるなどとは多くの方は思っていません。今回の記事では、「年金制度を最低限利用し、一生仕事を続ける準備をする方法」をファイナンシャルプランナー資格をもつ認知症専門医である長谷川嘉哉がご紹介します。
目次
1.年金の目的は老齢年金だけでない
そもそも、多くの人は年金制度は老齢年金だけだと思ってはいないでしょうか? 私は、脳神経内科を専門としているため50歳代で脳血管障害になる方々を多く診察します。通常、脳血管障害により障害が残った場合は、障害年金が支払われます。さらに不幸にして死亡した場合は、残された家族に遺族年金が支払われるのです。これは、患者さんにとってはとてもありがたい制度です。人生において、障害も残さず、命を落とすこともなく、一定の年齢になって支給されるのが老齢年金なのです。
このように年金制度は、いろいろな事態に備えている優れた制度なのです。
2.そもそも65歳以上年金だけで生活する?
障害年金や遺族年金も含めた年金制度のメリットを享受しておいて、さらに65歳以上になったら老齢年金だけで生活しようなどとは、あまりにも無理があります。日本は社会主義国ではありませんから、老後の生活を政府が全て保障する仕組みになっていません。といって、国民にすべてを任せられないから強制貯蓄として公的年金制度が設けられているのです。
つまり、年金で最低限度を保障して、あとはそれぞれ自助努力することが当然なのです。
3.年金を上手く利用されている例
多くの方々は、すでに上手に老齢年金と仕事を組み合わせています。
3-1.タクシーの運転手さん
タクシー業界は上手に高齢者に働いてもらっています。65歳を過ぎたタクシードライバーは個人事業主として、会社と業務委託契約を結びます。そして、歩合制で月に半分ほど働くことで、10〜15万円程度の収入が得られるそうです。そのうえ、個人事業主ですから老齢年金が全額受給されます。
ちなみに私が聞いた運転手さんは、個人事業主収入で年間180万と老齢年金が200万円程度。住宅ローンもなく子育ても終わり、実働は月に15日ですから、時間もお金もあって優雅なようです。
3-2.仕事をシェア
高齢になる、毎日働くことは大変です。そこで、一人分の仕事を2人でシェアする方も増えています。もちろん、収入は半分になりますが、一定額の老齢年金があれば生活は何とかなります。上手に調整すれば、職場に迷惑をかけることなく休みをまとめてとることも可能です。病気や通院の際にも安心なのです。
3-3.手のふるえが味
当院のある岐阜県土岐市は陶器が盛んです。そのため、80歳を超えても陶器の絵付けの仕事を続けられている方がたくさんいらっしゃいます。中には、手が震えることで、絵に味が出て重宝がられている方さえいます。80歳を超えて、年金額が少なくても働き続けられれば生きがいにもなりますし、経済的にも問題はないのです。
4.高齢になっても働き続けるための準備が必要
高齢になっても働く続けるには、若い時代からの準備が必要です。
4-1.サラリーマンは定年前から準備を
サラリーマンの方の多くは、定年を迎えると何もすることがありません。それが原因で、認知症を発症する方さえあります。しかし、定年は突然訪れるわけではありません。前もって準備をする期間はあるのです。特に最近では、会社によっては兼業・副業も可能です。定年後を見据えて取り組むことも一つです。
*ちなみに、副業と兼業の違いは以下の様です。
兼業は「一般的な企業の就業時間内に午前はA社、午後はB社のように複数で就労する、もしくは平日のうち月・水・金はA社で、火・木はB社で就労する」もので、副業は「企業が休みの土日を使って趣味の延長の活動でちょっとした利益を得る」のようなイメージです。しかし、公的な文書等ではまとめて「収入を得るために本業以外の仕事を行うこと」の意味として兼業・副業と使われています。(出典:carryme.jp 「副業と兼業の違いとは?厚生労働省が副業・兼業促進ガイドラインを発表!」)
4-2.手に職をつける
幾つになっても手に職をつけることはできます。介護事業などは不人気ですが、経験年数が間違いなくスキルにつながります。最近では、大企業が事業開発のために、介護事業所の現場で兼業を行わせるケースさえあります。これなどは、退職後の仕事につなげることができる一例と思われます。
4-3.法人設立はメリットが多い
兼業・副業で始めた仕事を、法人にまでできれば経済的メリットも大きくなります。役員報酬が少ないうちは、老齢年金で補填することが出来ます。もちろん、役員報酬が多く受け取れるようになれば、老齢年金は一部しかもらえなくなりますが、収入が増えることには間違いありません。
何よりも、自分の意思で幾つになっても仕事が続けられることが最大のメリットと言えるでしょう。
5.まとめ
- この国では、老齢年金だけで生活できるとは誰も考えていない。
- 一生働き続けるためには、若い時代からの準備が必要です。
- 手に職をつけたり、法人設立まで持っていければ、自らの意思で一生働くことが可能になります。