エーザイ製薬が、新薬「レカネマブ」が2023年1月7日米当局から医薬品としての使用を許可する迅速承認を得たと発表されました。米国に続き日本や欧州、中国でも申請する方針で、23年度中の承認取得を目指すとのことです。私自身は認知症専門医として「レカネマブ」についてはいくつもの疑問を持っています。今回の記事では迅速承認された新薬「レカネマブ」について、認知症専門医として紹介します。
目次
1.「レカネマブ」の対象は?
認知症とは総称であってその原因疾患には100種類以上あります。今回の「レカネマブ」は、そのうちのアルツハイマー型認知症に限定されます。血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉型認知症は適応外となります。そのうえ、アルツハイマー型認知症のなかでも早期に限定されます。幻覚・妄想・易怒性・徘徊などの本当に家族が困る状態では遅すぎます。家族が「ちょっと変」と感じても、生活自体は何とか自立しており、家族が困っていない状態での受診が望まれます。
2.診断できる医療機関は限定
「レカネマブ」の適応患者さんの診断は専門医に限定されると思われます。従来のように、頭部画像診断や質問形式の検査もせずに、「物忘れがある」という訴えだけで薬を処方することはあり得ません。
最低限、頭部CTや血液検査でアルツハイマー型認知症以外の認知症を否定する必要があります。そして側頭葉機能を評価するMMSE(Mini-Mental State Examination(ミニメンタルステート検査)も最低限行う必要があります。正直この検査一つとっても、ある程度熟練が必要になります。なお早期のアルツハイマーであればMMSEは20~23点/30点は必要だと思います。
3.PET検査は必須?
当クリニックではエーザイ製薬と、前回承認を得られなかった「アデュヘルム」についても、承認された場合の準備はしていました。患者さんの診断から治療については以下の流れでした。
まずは外来で、「早期のアルツハイマー型認知症」と診断した場合、PET検査ができる医療機関に紹介。そこで脳内へのアミロイドβの蓄積が認められれば、治療を開始するというものです。
この流れは、診断治療については理想的です。アミロイドβの蓄積が認められた患者さんに限定して、アミロイドβを除去する薬を投与する。これならばきっと効果があると思います。ただし、実際には20万円以上かかるPET検査の費用を保険適応するのか? 症状を100%抑制するのではなく27%の抑制に意味があるのか? などの疑問が残ります。
4.費用
費用については年間薬剤費は2万6500ドル(約350万円)と、アデュカヌマブの当初価格の半分以下に抑えられています。米公的医療保険の適用対象になれば患者自己負担は1日14.5ドルと推定されるそうです。保険を使っても1ドル140円として、1日2030円、年間74万円の自己負担が生じます。
世界の認知症患者は5000万人強とされ、2030年に約8000万人まで増えるとされています。エーザイは、中国やインドなどを含め、30年に世界で250万人の患者が対象になると予想しています。これを計算すると2万6500ドル×250万人=662億$≒10兆円。一種類の薬だけで世界で10兆円は高すぎるのではないでしょうか?
5.効果?
今回の対象の患者さんは、ご家族も殆ど困っていないレベルの認知症患者さんです。その患者さんに対して、保険適応しても年間70万円程度の負担が個人でできるのか? それ以上に、国が医療費を負担できるかが疑問です。何しろ5~700万人はいる認知症患者さんのうち10万人に処方するだけで、4000億円程度の負担が生じるのです。もし100万人であれば4兆円。健康保険はこれだけで破綻してしまいます。
6.若年性アルツハイマーの方に優先してほしい
個人的には、対象を相当絞り込む必要があると思います。特に65歳未満に発症する若年性アルツハイマー型認知症の患者さんは、専門医としても何とかしてあげたいと強く願います。1日でも早く受診いただき、1日でも早く治療を開始できればと思います。若年性アルツハイマーの患者さんは約3万人程度とされています。この程度の数であれば健康保険で対応しても皆さんの同意を得られると思います。何しろ、誰でも若年性アルツハイマーになる可能性があるのですから。
7.まとめ
- エーザイの新薬「レカネマブ」が2023年1月7日米当局から医薬品としての使用を許可する迅速承認を得ました。
- 但し対象は、アルツハイマー型認知症の初期に限定されます。
- 費用は年間350万かかるため、個人・健康保険で負担できるがが疑問です。