特別養護老人ホーム(以下特養)は、月々にかかる費用が比較的安く、入所期間の制限がないといった理由で人気があります。そのため、独居や老老介護などの人にとって、入居の選択肢になることが多いものです。平成27年4月から、特養への入所が原則要介護 3 以上の方のみとなりました。 当初は「要介護3以上」という入所制限がかかっても、現在入所している人の平均要介護度は3.9と言われているため、大きな影響はないとされていました。しかし、半年を経て、現場では徐々に影響が出始めています。
・各市町村の認定基準が厳しくなったと感じています。当院では、月に平均60枚ほどの主治医の意見書を作成しています。書きながら、ある程度の介護度は予想できました。しかし、最近は思いもかけない介護度が出ることが続いています。意図的に“介護2と3の間に壁があるのでは?”とさえ感じています。
・介護度が2以下で年金が少ない人の行き場が全くありません。介護力によっては介護度2以下でも在宅生活は困難です。この場合、特養がだめでも、グループホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅(以下サ高住)が適応になります。しかし、これらは田舎でも最低15万円/月はかかります。つまり、『介護度が低くて、自宅で看ることができなく、お金がない人』は、入居場所がないだけでなく、特養への申し込みさえできないのです。
・特養側からすれば、入居待ちの数が減っているようです。そのため、従来は2年以上の待ちが普通であったのに、3か月程度で数か所の特養から入所の連絡がくる患者さんが、続出しています。ある意味、介護度が重い人の取り合いになっているようです。
そんな中で、“安倍首相は、先の自民党総裁選の公約で掲げた「介護離職ゼロ」の実現に向け、特養の大幅な整備に乗り出す方針を固めた。”という記事がありました。どこか現場とかけ離れた政策のような気がします。空きの出た特養が増加して、特養に入れない介護度2以下の在宅患者さんが激増、月額15万円以上かかる民間のグループホーム、有料老人ホーム、サ高住が潰れていく。そんな時代が、明確に予想されてしまいます。