エアコン故障で患者が死亡!療養病床の問題点を高齢者専門医が解説

エアコン故障で患者が死亡!療養病床の問題点を高齢者専門医が解説
2018-09-11

岐阜県の病院で短期間に多くの高齢入院患者さんが亡くなられたニュースがありました。エアコンが故障しており、放置されていたために熱中症との関連も指摘されています。

その病院は、区分で言うと療養病床(療養型病床群)でした。ニュースのおかげでこの療養型病床の問題点も同時に指摘されています。現在、ご家族を療養病床に入院させている家族、もしくは入院を検討されているご家族はさぞ心配されていると思われます。

実は、国としては、療養病床は廃止の方向です。日々高齢医療に携わる私もこの流れに賛成です。今回の記事では、在宅医療にとりくみ高齢者医療に詳しい長谷川嘉哉が、療養病床の問題点について解説します。

目次

1.療養病床とは

「療養病床」とは、病院における入院施設区分の「一般病床」「療養病床」「精神病床」「感染症病床」「結核病床」という5種類の病床群の中の一つです。

1-1.経営母体は?

療養病床は、あくまで医療施設であり、主に医療法人によって運営されています。さらに「療養病床」は、介護保険が適用される「介護療養病床」と医療保険が適用される「医療療養病床」とに分けられます。ちなみにエアコンの故障によって入院患者さんが亡くなられた可能性がある岐阜県のY&M 藤掛第一病院は「介護療養病床」です。

1-2.医療型と介護型の違いは?

大きな差はないといえます。当初、介護保険が適用される「介護療養病床」は、長期的に介護療養が必要な患者さんが対象でした。一方、医療保険が適用される「医療療養病床」は、長期的に医療療養が必要な患者さんが対象という位置づけでした。しかし、国の調査で、『「介護療養病床」と「医療療養病床」の利用者の状況に大きさが見られなかった』という報告がなされました。

1-3.今後は廃止の方向

厚生労働省は当初、2006年の時点で、2011年度末までに「介護療養病床」の廃止とそれにかわる新しい介護保険施設の設置を決定しました。これは医療と介護の役割を明確に分けることを目的としていましたが、「介護療養病床」の新施設への転換が進まなかったことを理由に、2017年度末まで期間が延長されることになりました。(期限は過ぎましたがまだなくなってはいません)

ちなみに、

  • 介護療養病床は約5.9万床。2017年末で廃止されることになりましたが、2024年3月末まで移行期間を設けました。
  • 医療療養病床が現在、約21.6万床のうち、看護師の配置基準が20対1の14.1万床は残りますが、25対1の約7.2万床は廃止される予定です。
  • つまり、2017年末までに介護療養病床の5.9万床と医療療養病床の7.2万床の合計13万床が廃止される予定だったのです。

2.どんな患者さんが入っているか

正直、日々診療をしていると、療養病床の入所基準はとても分かりにくいものです。

2−1.入所するためには

療養型医療施設へ入所するためには、申し込みを施設に行います。担当のケアマネジャーに申込書を書いてもらい、それを施設スタッフや医師、行政担当者などで構成される委員会が、「要介護度」「介護の必要性」「介護者の状況」「待機期間」「資産や収入額」などから、総合的に判断して、入所が決定されます。これが建前ですが、施設側から断られることも結構多いのです。

2−1.誰でも入れるわけでない

健全な経営にこだわる療養病床は以下の医療区分2もしくは3の方しか受け入れてくれません。それ以外の方の場合、施設側が受け取る報酬が減るからです。

  • 医療区分2:神経変性疾患(筋ジストロフィ、多発性硬化症、筋委縮性側索硬化症、パーキンソン類縁疾患(重症度Ⅲ以上)、脊髄損傷、慢性閉塞性肺疾患(重症のみ)、悪性腫瘍(疼痛コントロール必要な場合)、肺炎・尿路感染・脱水・頻回な嘔吐・褥瘡の治療の実施している状態。リハビリが必要な状態(発症後30日以内)、消化管の出血が反復継続、経鼻胃管・胃瘻が行われ、かつ発熱嘔吐が伴う、気管切開、1日8回の吸痰等
  • 医療区分3:中心静脈栄養を実施、気管切開が行われ発熱を伴う状態、人工呼吸器、酸素療法を実施している等

正直、あまりにも細かく、「いったい誰を診るんだ!」と言いたくなる基準です。

2−3.断られるケースの実例

本当に「診る気があるのか?」という基準なのです。実際に私自身が施設に患者さんの入院をお願いしても、頻回に断られています。

  • 悪性腫瘍の患者さん:末期癌により介護施設での介護が困難になったため入院を依頼。しかし疼痛のコントロールができていないという理由でお断り。
  • 吸痰が必要な患者さん:頻回な吸痰が必要になったため依頼。しかし1日に8回も吸痰をするまでもないと言われお断り(回数が多いので、そこまで必要ではないという強引な理屈付けをしたのだと思います)。
  • 気管切開をしている患者さん:気管切開があっても、状態が安定していて発熱を伴わないという理由でお断り。
Young woman suffering from cancer
病院にとって「都合が良い」患者さんはなかなかいません

3.療養病床のメリット

どんな人を診るの?と思われるような療養病床ですがメリットもあります。

3-1.安い

療養病床は、初期費用の必要はなく、月額利用料のみ負担すればいいのです。月額利用料は、居室の設備、世帯収入や課税状況によって差があるものの、おおよそ9万~17万円程度です。


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3-2.施設によっては誰でも入れてくれる

きちんと経営している医療機関は、医療区分2と3を厳守します。そのため、治療が終了して医療区分の基準を満たさなくなれば退院となります。しかしなかには、経営がいい加減で、空けておくよりはいいと、誰でも入院させてくれる医療機関も存在します。ニーズがある以上「必要悪」とも言えるものですが、そんな医療機関は大半が劣悪な施設です。その理由を次章で解説します。

4.療養病床の環境が劣悪になってしまう理由

療養病床は、一般病床に比べ劣悪なことが多いものです。実際、私の患者さんのご家族も、見学に行ったもののあまりの劣悪な環境にお断りされた方もいらっしゃいます。悪い評判は口コミでも広まりますし、ケアマネさんもケアプラン作成の際に選択肢に入らないことになります。

4-1.優秀な人材が集まらない

一般病床に比べ、保険請求上の報酬は低く抑えられています。そのため、優秀な医師を雇用することはできません。多くは、経営者である医師一人と、非常勤の医師で支えられています。さらに、引く手あまたの看護師さんにとっても、多くの選択肢があるなかで、優秀な人材が療養病床を選択することは極めて稀だと思われます。

4-2.制度上の問題もある

療養病床は20対1の体制が多いようです、この体制は、日勤帯(昼間の時間帯)が入院患者様20人に対して看護職員1人以上を配置し、看護補助者1人以上配置していればいいというルールです。夜勤帯(夜間の時間帯)では、病棟管理で、1病棟ごと1名の看護職員・看護補助者の配置がルールとされています。

経営側とすれば、この人数を確保さえすれば認められるのです。この体制で、十分な医療介護が提供できるわけがありません。

4-3.ベッドが埋まらず、報酬も低いので環境に投資できない

はっきり言えば、療養型病床の経営は厳しいのです。その上、問題となった岐阜の病院のように、誰でも診る、ベッドの回転率もいい加減(報道では5〜6割しか入ってなかったと言います)。これでは相当経営は厳しかったと予想されます。そのうえ、療養型病床は近い将来廃止の方向。これでは、施設にお金をかけることはできません。ニュースになった病院もエアコンをすべて新品に入れ替える発想も資金もなかったと予想されます。

Breathing Exercise in Hospital
胃ろう、点滴、透析、床ずれ防止、オムツ替えなど多くの手間が必要になり、20人に1人の看護師と介護士では無理があります。当然、リハビリなどには手が回りません

5.医療度が高い患者さんを抱えた家族はどうするのがよいか

医療度が高くても、基準を満たさないと療養病床は断られる。仮に入所させてくれる療養病床があっても多くは劣悪な環境。家族はどうすればよいのでしょうか?

5-1.介護施設で看取りをお願いする

国の方針では、在宅での看取りを勧めています。多くの方が、「自宅で親を看取るなんて無理」と感じませんか? 実は国がいう「在宅」には、グループホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅も含まれるのです。

最近では、これらの3施設でも医療ケアの手厚さを重視するところが増えています。施設選択の際に、看護・医療体制が充実した施設を探すことも大事です。実際、私が理事長を務めるブレイングループでは、5カ所の有料老人ホーム、7カ所のグループホーム、2カ所のサービス付高齢者住宅で積極的に、医学的治療から看取りまでを行っています。

以前に、グループホームの選択で最も重要なことが「看取り」であることを書いた記事をご紹介しておきます。

5-2.老健(老人保健施設)を検討する

特養に入所できれば良いのですが、介護度3以上に限定されます。そのうえ、入所までの待機期間が2〜3年かかる場合もあります。そんな時は、老健も検討しましょう。ただし、この場合は終の棲家にすることは難しいため、定期的な退所、もしくは施設を変えていくことはやむを得なくなります。

老健の利用については以下の記事も参考になさってください。

6.そもそも医療的な処置を希望しない選択肢も

療養病床の問題を考える際に、そもそもどこまで医療的処置を希望するのかを考えることも大事です。以下の選択を家族がしなければ、自然な死を迎え、療養病床を検討することさえなくなります。ちなみに、昭和30年代の日本では、誰もが複雑な医療的処置をせずに自宅で自然に看取っていたことをぜひ知っておいてください。

  • 高齢で食事がとれなくなくなるのは当たり前です。そこで、中心静脈栄養、胃瘻、経鼻経管栄養などは、導入しない権利もあるのです。
  • 痰が出せなくなって窒息・肺炎になることは、生命体として弱っていることです。そのために気管切開をすることは、患者さん自身を苦しめます。
  • 高齢で透析が必要になった場合は、透析をしない選択もあるのです。

高齢者や認知症患者さんの人工透析については以下の記事も参考になさってください。

7.まとめ

  • 現在の療養病床の多くは劣悪な環境であり、廃止もやむを得ません。
  • 現在、医療・介護を積極的に取り組む介護施設が増えています。
  • そもそも高齢になれば療養病床が必要になるような医療的処置を選択しないことが大事です。
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