介護職の給料や年収が、年々アップしていることをご存知ですか?
社会の高齢化に伴い、介護職のニーズは年々高まっています。しかし介護報酬を増やしても、その使い道を事業所に任せていては、すべてが給与に反映されません。少ない給料や待遇が悪いままでは、介護職員はなかなか増えません。そのために、介護職の給料をアップする方法として国が「介護職員処遇改善加算」という制度を作りました。
このおかげで、マスコミでは「介護職員の給与が毎月○万円増えた」と報道してしまいます。しかし、実際の給与明細ではそれほど増えていないことが多いものです。これだと雇い主の事業所がピンハネしていると思われるかもしれません。それが事実なら働くモチベーションも下がってしまうのではないでしょうか。
なぜこのような期待と実態が離れてしまうことが起きるのか。
今回の記事は、医療法人ブレイングループ理事長としてグループホームやデイサービス等を複数経営する長谷川嘉哉がその仕組みをご紹介します。
目次
1.介護職員処遇改善加算とは?
介護職のためにキャリアアップの仕組みを作ったり、職場環境の改善を行った事業所に対して、介護職の賃金を上げるためのお金を支給するという内容の制度です。 介護職員処遇改善加算の流れ は以下の4段階で行われます。
- 介護事業所が、介護職員のキャリアアップの仕組みや、職場環境の改善の計画をたてる
- 計画の実施状況を、都道府県や市町村などの自治体に報告
- その報告をもとに、自治体が介護報酬に「給料の上乗せ費用」を追加して支給
- 支給されたお金を、介護職員へ給料として支給 → 給料アップ!
2.誰がもらえるのか?
同じ介護職場で働いていても、もらえる職種と、もらえない職種があります。
2-1.資格なしでも介護職員ならもらえる可能性
介護職員とは、デイサービス、入所施設などで直接介護にあたっている職員になり、この場合資格の有無は問いません。
2-2.もらえない職種もある
介護職以外の、例えば看護師、栄養士、理学療法士など、他の職種に従事している場合は支給の対象外となります。また、直接介護を行わない管理者やケアマネジャー、サービス提供責任者も支給の対象とはなりません。しかし実際の現場では管理者や相談員・看護師などが介護を兼務している場合があります。その場合は、支給対象となります。
2-3.常勤・非常勤関係なくもらえる
あくまで直接介護を行っている者に対しての支給となり、正規職員やパートなどの雇用形態は関係なく、支給されることになります。ただし、支給の対象職員や、どれだけ給料を増やすかは、介護事業所に任されています。
3.すべての事業所でもらえるわけでない
介護職員処遇改善加算は介護職の給与が直接的に増える制度です。しかし、残念ながらこの制度自体の取得をしていない事業所が存在するのです。2017年4月の介護報酬改定で拡充された「処遇改善加算」は64・9%の事業所しか取得していないのです。つまり3割強の事業所では、処遇改善加算は一円たりとも支給されないのです。
なぜ処遇改善加算の取得のための届け出をしないのか、その理由で最も多いのが「事務作業が煩雑」です。処遇改善手当を支給するには処遇改善計画書や処遇改善実績報告書の作成、職員への処遇改善手当の支給額を算定、など煩雑な作業が伴います。小規模な事業所では、この作業に割く時間と労働力を確保することが難しく、届け出を出すことがなかなかできていないのが現状です。
介護職として働くならば、最低限、「介護職員処遇改善加算」の届け出をしている事業所で働きたいものです。
4.いくらもらえるのか。人によって差があるのはなぜか
介護職員処遇改善加算がもらえる施設であっても、マスコミで報じられる「介護職の給与が毎月〇万円あがった」というニュースと実態は全く異なります。これには以下の理由があります。(データは平成29年4月からのもの)
4-1.処遇改善加算の区分が5段階
そもそも、取得できる要件によって加算が異なります。例えば、グループホーム(認知症対応型共同生活介護)では、加算Ⅰ:11.10%、加算Ⅱ:8.10%、加算Ⅲ:4.50%です。加算Ⅳは「加算Ⅲの90%」、加算Ⅴは「加算Ⅲの80%」。同じグループホームであっても加算される額が異なるのです。
4-2.介護サービス別加算率
そもそも、サービスによって加算率が異なります。同じ加算Ⅰであっても、訪問介護は13.70%なのに対して、訪問入浴介護5.80%、通所介護5.90%、通所リハビリテーション4.70%と差があります。
施設系は、特定施設入居者生活介護8.20%、認知症対応型共同生活介護11.10%、介護老人福祉施設8.30%、介護老人保健施設3.90%。
このように働く事業所が提供するサービスと取得している加算の段階によって、まったく異なるのです。
4-3.分配は事業所まかせ
処遇改善加算の区分と介護サービスに応じて、一定の額が事業所には支給されます。その額をどのように分配するかは事業所判断です。
- 常勤にだけ配分する事業所もあれば、非常勤にも支給する事業所もあります。
- 配分を頭割りする事業所もあれば、勤務年数等で差をつける事業所もあります。
- 月ごとに分配する事業所もあれば、年に数回に分けてまとめて支給する事業所もあります。
ただし、処遇改善加算分はすべて介護職員に配分しなければいけません。
5.加算を受けているはずなのに手取りがあまり上がらないのはなぜか
実は、この制度は相当ややこしいのです。例えば、一人当たりに分配される処遇改善加算が1万円になったとしましょう。ならば、給与明細で1万円増えるわけでは無いのです。
5-1.昇給分も含めることができるから
例えば、年度が変わって2千円昇給したとします。処遇改善加算は定額昇給分に充てることができるので、1万円のうち2千円は昇給分に充てられます。結果、8千円しか処遇改善加算はもらえていないように感じるのです。
5-2.社会保険料も増えるから
月額1万円処遇改善加算が増えると社会保険の負担金も上がります。事業所はこの増額する社会保険料を負担することは難しいです。職員の手取りと社会保険料も含めて1万円ですから、やはり手元に渡る実感としては1万円にはならないのです。
6.ちゃんと払っているか知る方法
毎月の給与明細書の項目に、処遇改善加算という項目が通常あり、支給されているかが明確になっていることが一般的です。稀に、別途支給というケースも有り明細書と合わせて支給されている事もあるようです。なかにはこの項目が無く、”賞与に含まれている”等という事業主もあるようですが、明細書が無い場合は不適切な支給といえます。
全く項目も支給も無い場合は、違法性が高いのか、そもそも処遇改善加算を取得していないのかもしれません。
7.不正受給と不払いの監査方法
処遇改善加算は、使い道が限定されている加算です。加算によって得られた金額以上のお金を、職員の処遇改善に使わなければなりません。もし別のことに使ってしまっていると、それだけで不正請求となります。キャリアパス要件に定められた研修を、「年間を通して全く行っていない」「計画自体が立てられていない」ケースも不正とされてしまいます。
介護サービス事業者における行政処分には、以下のような種類があります。
- 一部効力の停止
- 介護サービス事業者としての指定取り消し
- 介護報酬の返還
介護サービス事業所において、不正に得た介護報酬は返還を求められます。通常、不正に得た金額の4割増の金額が請求されます。この返還金は「公法上の債権」となるため、支払われないと税金と同じく「滞納」の扱いとなります。
8.処遇改善加算は優れた制度
以上紹介したように、処遇改善加算は現実には相当複雑です。当グループの担当者も複雑さと書類の整備に悲鳴を上げています。しかし、私は経営者としては、優れた制度であると考えています。
当初は、介護職員の給与を増やすには、介護報酬全体を増やしていました。しかし、これでは事業所が職員の給与に回さないこともあり得ます。しかし、この制度では国から受け取った処遇改善加算については全額給与に充てることが義務付けられているのです。
デイサービスやグループホームを中心に行っている当グループでも、年収300万程度の職員であれば15〜30万円の年収アップにはつながっています。給与を5〜10%引き上げることは、この制度がなければできないことです。
さらに、この制度のお陰でキャリアアップの仕組ができた事業所も多くあると思います。介護職処遇改善加算を有効利用すれば、給与・教育両面の効果を得ることができるのです。
9.まとめ
- 処遇改善加算は事業所が提供するサービスと取得している加算の段階によって、異なります。
- 加算分には、昇給分と社会保険料の負担も含めることができるので、増えた実感が少ないのです。
- 介護職処遇改善加算を有効利用すれば、給与・教育両面で効果的です。働くなら、処遇改善加算を取得している事業所にしましょう。