私は、字が下手なことがコンプレックスでした。幸い、医師の世界は、なぜか字が下手な方が多いため、気になることも少なかったのですが、出版して講演後などにサインを求められると、とても恥ずかしいのです。書いても書いても、明らかに下手。
といって、改めて書道教室に通う時間もありませんし、今更通いたくもありません。そんな時に、テレビのニュースで知ったのが「己書」です。ドキドキしながら、最初のお試しに行ってみたら、初日からそれなりに書けるのです。それが楽しくて楽しくて、今では暇があると筆ペンで字を書いているほどです。その心地良さは、まさに脳の扁桃核が、快・快・快です。
認知症を予防する基本は、「心地良さ」です。今回の記事では、月に1000人の認知症患者さんを診る脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が、下手な字をみるみる蘇らせる己書による脳の蘇らせ方をご紹介します。
目次
1.己書とは?
まさしく字の通りで、「自分だけの書」という意味です。「おのれしょ」と読みます。日本己書道場は2012年より、日本己書道場総師範・快晴軒天晴(かいせいけんあっぱれ)/本名 杉浦正さんにより開設されました。2017年12月現在18期生までの師範の数は300人を超えています。
私も、月に2回程度、1回90分、会費は僅かに2000円ばかりで参加しています。
2.初日からそれなりに書ける
己書の不思議なことは、初日からそれなりに書けることです。最初に、己書を書く簡単なコツを教えていただきますが、絶対的なルールはありません。書き方、大きさ、書き順も自由です。習字ではあり得ない、途中で塗ることも可能です。
ルールがないのですから、上手い・下手もありません。初めてでもコツを掴めば描くことができるのです。字にコンプレックスを抱いていた人でも、いつの間にか味のある絵が描けてしまうのです。
3.心地よさのスパイラル
人間、コンプレックスがなくなると、人生がとても明るくなります。今まで、サインを頼まれることが苦手だったのが、今では喜んでサインもします。筆ペンで、サイン以外に言葉までサラサラ書くと、相手も喜んでくれます。相手が喜んでくれると、こちらまで嬉しくなります。
そうなると、さらに上手になりたくなるので、時間を惜しんで、己書を練習してしまいます。まさに、心地良さのスパイラルです。
4.心地良さが認知症を予防する
心地良さは、脳にはとても大切です。認知症患者さんの脳は、記憶を司る海馬より、感情を司る扁桃核が先に委縮することが知られています。ですので、「物忘れ」よりも「意欲の低下」や「表情の喪失」が認知症の初期段階としては発現されていることが多いのです。
それを避けるには、五感すべてに刺激を入れ、感情豊かな生活を送り扁桃核に刺激を与え続けることなのです。講演などの際に私がお話しするのは、「自分自身にとって心地よいか否かが大事」ということです。
最近の風潮は、医学的エビデンスにこだわりすぎているように思えます。何よりも「心地よさ」で考えれば、脳にはとても良いと思われます。医学的エビデンスにこだわりすぎずに、感情に素直になって「自分にとって心地よいか否か」で判断されることをお勧めします。
5.まとめ
- 字が下手でも、己書では最初からそれなり書けてしまいます。
- お陰で求められても、喜んでサインが書けます。
- 下手な字が蘇る己書は、脳をもみるみる蘇らせるのです