【お薦め本の紹介】『じゃあ、あんたが作ってみろよ』

【お薦め本の紹介】『じゃあ、あんたが作ってみろよ』

谷口菜津子さんの『じゃあ、あんたが作ってみろよ』がドラマ化されました。タイトルだけを見ると挑発的に聞こえるかもしれませんが、実際の作品は「作る」という行為を通して、人が人を理解しようとする温かい物語です。ドラマも非常に見応えがありますが、私はぜひ原作の漫画を読むことをおすすめしたいと思います。なぜなら、漫画版では“多様性”がより丁寧かつ繊細に描かれているからです。

目次

1.料理をめぐる男女の価値観の衝突

物語の中心にあるのは、料理をめぐる男女の価値観の衝突。「女が作るのが当然」「男の料理は特別」――そんな偏見や固定観念が、登場人物たちの言葉や態度の端々ににじみ出ます。ドラマでもその対立はしっかり描かれていますが、漫画ではさらにその先――現代社会が抱える多様な“生き方の不協和音”までを見事に表現しています。

2.男性よりも高い収入を得ている女性の登場

たとえば、男性よりも高い収入を得ている女性の登場。それに戸惑う男性の姿や、プライドと愛情の狭間で揺れる関係性。また、姪っ子が性同一性障害(トランスジェンダー)であるという設定も、決して特別なものとしてではなく、日常の延長線上に自然に描かれています。そこにあるのは「理解できないから排除する」という単純な構図ではなく、「理解しようとしても簡単にはできない」現実の葛藤です。

3.多様性を認められない人たち

そして、作品の周囲には常に“多様性を認められない人たち”が存在します。彼らは悪人ではありません。むしろ、ごく普通の、私たちと同じような人々です。自分の価値観を信じて生きてきたがゆえに、異なる生き方を前にするとどうしても拒絶反応を起こしてしまう。「そんなのはおかしい」「自分の時代にはありえなかった」――そう言いたくなる気持ちは、誰にでも少なからずあるものです。

4.加齢による柔軟性の低下

私自身、医師として多くの人と関わる中で、「年齢を重ねるほど価値観を柔軟に保つことの難しさ」を痛感します。医療の現場では、性別も、家族のかたちも、働き方も、患者さんごとにまったく違います。昔なら“非常識”とされた行動も、今では一つの選択肢として尊重される時代です。
それでも、心のどこかで「自分の正しさ」に固執してしまうことがある。そんな自分に気づくたびに、この漫画の登場人物たちの葛藤と重なり、はっとさせられます。

5.正解を提示しない

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の魅力は、「正解を提示しない」点にもあります。多様性をテーマにした作品は、ともすれば「理解しなければならない」「受け入れなければならない」と説教調になりがちです。しかし谷口さんの筆致はあくまで軽やかで、時にユーモラスです。読者に“考えさせる余白”を残してくれる。だからこそ、読み終えたあとに心の奥で静かに波紋が広がるのです。

多様性とは、ただ「他者を認めること」ではありません。「自分の中の違和感や偏見を、いったん受け止める勇気」を持つことだと思います。理解できないことを否定するのではなく、「わからないけれど、相手には相手の理由がある」と思えること。それが、多様性を“実践する”第一歩なのではないでしょうか。


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6.まとめ

年を重ねるほど、人は自分の経験に裏打ちされた価値観を持ちます。それ自体は尊いことですが、同時に「変化に対して鈍感になる危うさ」も孕んでいます。だからこそ、自分と異なる意見や生き方に出会ったとき、「そんな考え方もあるのか」と一呼吸おく余裕を持ちたい。そして、周囲からも「あの人は違いを受け入れられる人だ」と思ってもらえるような存在でありたい。それは医師としてだけでなく、人としての理想でもあります。

『じゃあ、あんたが作ってみろよ』を読み終えたとき、私は改めて思いました。
人は「わかり合う」ために生きているのかもしれないと。違いに戸惑いながらも、食卓を囲み、話し、笑い合う。その積み重ねの中にこそ、多様性を支える静かな力が宿っているのだと。

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