テレビ番組で「芸能人の豪邸特集」や「成功者の夢の家」を見るたびに、私はつい職業柄、別の視点で考えてしまいます。10億円を超えるような大豪邸に住むというのは、単純に「お金持ち」という話ではありません。むしろ、「税金をどう処理しているのか?」という視点から見ないと、その生活は理解できないのです。
目次
1.個人で豪邸は、納税後のお金で買う
まず基本を整理してみましょう。仮に10億円の自宅を個人で購入するとします。その支払いには、当然ながら「税引後の所得」が必要です。最高税率55%(所得税+住民税)を考えれば、10億円の家を買うためには、少なくとも20億円近い所得を得なければなりません。
つまり、豪邸を個人資産で買うというのは、莫大な税金を納めたうえでなお巨額の手元資金がある人だけに許される行為です。この構造を理解してしまうと、「なぜそんなに目立つことをするのか?」とすら思ってしまいます。
2.実際は「法人」で購入しているケースが多い
現実には、多くの富裕層が「法人名義」で不動産を所有しています。法人の税率は約30%前後と、個人に比べて格段に低く、経費として処理できる範囲も広い。たとえば社宅扱いにして、代表者や役員が居住するケースも珍しくありません。
しかしここで重要なのは「経費の妥当性」です。豪華絢爛な邸宅を“社宅”と称して法人の経費で処理していても、税務署は黙っていません。社宅としての相場からかけ離れた部分は「役員への給与」とみなされ、課税対象になります。特にプールやワインセラー付きの豪邸を「福利厚生」と言い張るのは、さすがに無理があります。実際、税務調査では「経費計上の妥当性」「居住実態」「法人の事業目的との関連性」が厳しく問われるのです。
3.相続のとき、資金の出所が必ず問われる
さらに見逃せないのが「相続時」です。たとえ生前に贅沢な暮らしをしていても、相続財産として残れば、税務署は徹底的に調べます。特に豪邸や美術品、高級車などの“見える資産”は、評価額が高く、調査対象になりやすい。
しかも、購入時の資金の出所が不明確だと「贈与」「名義預金」「仮装譲渡」として課税されることもあります。つまり、“見栄のための豪邸”は、次世代にとっては“リスク資産”になることすらあるのです。
4.賢い富裕層は「見えない資産」に投資する
私がこれまで接してきた本当の意味での成功者たちは、驚くほど控えめです。派手な車にも乗らず、高級住宅地の中でも目立たない場所を選び、むしろ「質素」に見える暮らしをしています。
しかしその一方で、内部留保や資産運用、保険設計、海外投資口座など、見えない部分の設計は驚くほど綿密です。彼らが重視しているのは、「使うこと」よりも「守ること」「継ぐこと」。見せるための資産ではなく、家族と法人を守るための資産形成を徹底しています。
5.「見栄の消費」と「戦略的支出」はまったく違う
同じ10億円を使うにしても、
・テレビで豪邸を披露して自己満足に終わる人
・法人で事業投資を行い、将来の所得と雇用を生み出す人
この差は、時間が経つほどに広がります。前者は老後や相続で困り、後者はますます安定していきます。“お金を持っている”ことと、“お金に強い”ことは、まったくの別物です。
6.「静かな富裕層」こそが、最も賢い生き方
本当に賢いお金持ちは、決してテレビに出ません。彼らは世間に見せるより、税理士やFP、弁護士とともに“見えない戦略”を練っています。税制改正や国際的な資産ルールを読み解き、時に複数法人や海外拠点を使いながら、静かに最適化を進めている。
一見地味ですが、これこそが「継続可能な富のあり方」です。
私自身、医療や介護、認知症の現場で「老後の不安」を数え切れないほど見てきました。どんなに高級住宅に住んでいても、資金繰りに追われるようでは意味がありません。本当の豊かさとは、静かに、そして確実に続く安心なのです。

認知症専門医として毎月1,000人の患者さんを外来診療する長谷川嘉哉。長年の経験と知識、最新の研究結果を元にした「認知症予防」のレポートPDFを無料で差し上げています。