「また採血するの?」と言う患者さんほど血糖コントロールが悪い理由

「また採血するの?」と言う患者さんほど血糖コントロールが悪い理由

糖尿病外来を担当していると、診察室で繰り返し耳にする言葉があります。

「また採血するの?」
「先回も採血しましたよね?」

一見、何気ない一言ですが、この言葉の裏にはさまざまな背景が隠れています。実際にカルテを確認すると、「前回は採血していない」というケースも決して少なくありません。それにもかかわらず、患者さんの中では「頻繁に採血されている」という印象が強く残っているのです。

そして臨床の現場で感じるのは、こうした発言をされる患者さんほど、血糖コントロールが良好でない場合が多いという事実です。

目次

第1章:採血はなぜ必要なのか

そもそも糖尿病診療において、採血は非常に重要な役割を担っています。血糖値だけでなく、HbA1c、腎機能、脂質異常、肝機能など、多くの指標を定期的に確認する必要があります。

糖尿病は単に血糖値の問題ではなく、全身の血管や臓器に影響を及ぼす慢性疾患です。合併症を防ぐためには、数値の変化を継続的に追いかけることが欠かせません。そのため、定期的な採血は「やらされる検査」ではなく、「自分の状態を知るための重要な手段」なのです。

医療者としては必要最低限の検査にとどめているつもりでも、患者さんにとっては「またか」と感じられてしまうこともあります。この認識のズレが、ひとつのポイントになります。

第2章:記憶のズレと関心の差

「先回もやりましたよね」という発言の背景には、単なる記憶違い以上の意味があることがあります。診療内容に強い関心を持っている患者さんは、自分がどの検査を受けたかを比較的よく覚えています。一方で、関心が低い場合、診療の詳細は印象に残りにくく、「なんとなく頻繁に検査されている」という感覚だけが残ることがあります。

これは責めるべき問題ではなく、人間の認知として自然な側面もあります。しかし、この“関心の差”はそのまま病気への向き合い方の差にもつながります。結果として、自己管理への意識や生活習慣の改善にも影響し、血糖コントロールの差として表れてくるのです。

第3章:血糖コントロールが良い人の特徴

血糖コントロールが良好な患者さんには、いくつかの共通点があります。まず、自分の検査値に関心を持っています。「前回のHbA1cはいくつだったか」「今回どのように変化したか」を把握し、必要に応じて生活を見直しています。


長谷川嘉哉監修の「ブレイングボード®︎」 これ1台で4種類の効果的な運動 詳しくはこちら



当ブログの更新情報を毎週配信 長谷川嘉哉のメールマガジン登録者募集中 詳しくはこちら


また、採血に対する捉え方も異なります。「嫌だけど必要なもの」として受け入れ、自分の体の状態を知る機会として前向きに活用している方が多い印象です。つまり、採血という行為そのものではなく、それに対する“意味づけ”が大きく異なるのです。

第4章:「また採血?」の裏にあるもの

採血への不満の背景には、いくつかの要因が考えられます。痛みや不快感といった身体的負担はもちろんのこと、時間的な制約や通院のストレスもあります。また、「なぜ必要なのかがよく分からない」という理解不足も大きな要因です。

さらに、過去の医療体験による不信感や、「できれば現実を見たくない」という心理が影響していることもあります。血糖値が高いと分かること自体がストレスになるため、無意識に検査を避けたい気持ちが働くこともあるのです。「また採血ですか?」という言葉は、単なる不満ではなく、こうした複雑な感情の表れとも言えます。

第5章:医療者側に求められる姿勢

この問題を「患者さんの意識の低さ」として片付けてしまうのは簡単ですが、それでは本質的な解決にはなりません。むしろ医療者側には、「なぜこの検査が必要なのか」を繰り返し、分かりやすく説明する責任があります。一度伝えたから理解されているはず、という前提は見直す必要があります。

また、患者さん一人ひとりの背景に目を向けることも重要です。仕事や家庭の事情、性格、不安の程度などによって、医療への向き合い方は大きく異なります。それらを理解した上で関わることで、検査や治療への納得感が高まります。

第6章:糖尿病診療は共同作業

糖尿病の治療は、医療者だけで完結するものではありません。日々の食事、運動、服薬など、患者さん自身の行動が大きく影響します。その意味で、診療は「共同作業」です。採血という一つの行為の中にも、信頼関係や理解度が反映されます。

「また採血するの?」という言葉を、単なるクレームとして受け流すのではなく、その背景にある思いに耳を傾けること。そして、必要性を丁寧に伝え続けること。その積み重ねが、最終的には血糖コントロールの改善につながっていくのではないでしょうか。日々の外来の中で、そうした小さな気づきを大切にしていきたいと感じています。

長谷川嘉哉監修シリーズ