「頭が痛いだけだから、大したことはないだろう」そう考えてしまう方は少なくありません。しかし、医師にとって頭痛は、決して軽く扱ってよい症状ではありません。頭痛の中には、単なる肩こりや緊張型頭痛だけでなく、くも膜下出血のように命に関わる病気まで含まれているからです。
私は脳神経内科医として診療していますが、頭痛を訴える患者さんを診る際には、最初から「頭痛ぐらい」と考えることはありません。発症の仕方、痛みの強さ、神経症状の有無を確認し、首の動きや後頚部の硬さなども丁寧に診察します。必要であれば頭部CTを行い、頚部の状態を見るために頚椎X線検査まで行います。
それでも、こうした診察や検査を、まるで“かいくぐる”ように発症する病気があります。その代表の一つが、椎骨動脈解離です。
目次
1.頭痛の中には「命に関わる頭痛」がある
頭痛の多くは、緊張型頭痛や片頭痛など、生命に直接関わらないものです。しかし医師が最も恐れるのは、その中に重大な病気が隠れていることです。代表的なのが、くも膜下出血です。「今まで経験したことのない突然の激しい頭痛」「突然、後頭部を殴られたように痛くなった」こうした症状があれば、誰でも比較的疑いやすいでしょう。
一方で問題なのは、重い病気だからといって、必ずしも激烈な症状が出るとは限らないことです。頭痛はあるけれど会話も普通にできる。手足の麻痺もない。吐き気もそれほど強くない。診察上も大きな異常がない。頭部CTを撮っても異常がない。こうなると、緊張型頭痛や頚部由来の頭痛として経過を見ることは、臨床では十分あり得ます。しかし、そこに潜んでいることがあるのが椎骨動脈解離です。
2.椎骨動脈解離は、初期には症状が軽いこともある
椎骨動脈は、首の後ろ側を通り、脳幹や小脳などへ血液を送っている重要な血管です。椎骨動脈解離とは、この血管の壁の一部が裂ける病気です。典型的には、突然の後頭部痛や首の痛みで発症します。
さらに進行すると、めまい、ふらつき、物が二重に見える、ろれつが回らない、手足が動かしにくいといった症状が出ることもあります。こうした典型的な症状がそろえば、医師も当然、椎骨動脈解離を疑います。その場合には、頭部MRIやMRAなどで脳や血管を詳しく調べます。
難しいのは、すべての患者さんが教科書通りの症状を示すわけではないことです。「後頭部が少し痛い」「首が痛い」「いつもの頭痛とは何となく違う」その程度のこともあります。しかも通常の頭部CTだけでは、血管壁の異常まで十分に評価できないケースがあります。
だからといって、頭痛で受診するすべての人にMRI・MRAを行うことは現実的ではありません。医療資源の面からも、患者さんの負担の面からも、全例にMRI・MRAを行うのは過剰診療になりかねません。だからこそ大切なのは、「一度診てもらって異常がなかったから絶対に大丈夫」と考えないことです。
3.「いつもと違う」「続く」なら、もう一度受診してほしい
では、患者さんはどうすればよいのでしょうか。最も大切なのは、頭痛の経過を見ることです。一度診察を受けて、CTなどで異常がなかったとしても、
「痛みがなかなか治らない」「時間とともに強くなってきた」「いつもの頭痛とは明らかに違う」「首から後頭部にかけて痛みが続く」「めまいやふらつきが加わってきた」
こうした場合は、もう一度医療機関を受診してください。医師側も、頭痛が持続したり、初診時とは違う症状が出てきたりすれば、椎骨動脈解離などを疑うきっかけになります。その際には、「椎骨動脈解離の可能性はありませんか?」と医師に伝えてみてもよいと思います。
もちろん患者さん自身が診断する必要はありません。しかし、病名を一つ知っていることで、医師と情報を共有し、MRIやMRAなど次の検査を検討するきっかけになることがあります。
特に比較的若い方でも油断できません。椎骨動脈解離は、高齢者だけの病気ではありません。若年から中年でも起こります。喫煙、高血圧など血管に負担をかける要因がある方では、より慎重に考える必要があります。また、多量飲酒を続けている方では高血圧や脱水などが重なることもあるため、頭痛を軽視しないことが重要です。
おわりに
医療には限界があります。丁寧に診察をして、頭部CTまで行っても、その時点では診断できない病気があります。椎骨動脈解離は、その一つです。
大切なのは、医師が「最初の診断がすべて」と思わないこと。そして患者さんも「一度検査をして異常がなかったから絶対に大丈夫」と思い込まないことです。
頭痛は、多くの場合は心配のないものです。しかし、いつもと違う頭痛。長く続く頭痛。首や後頭部に集中する頭痛。めまい、ふらつき、ろれつの回りにくさなどを伴う頭痛。こうした場合には、改めて医療機関を受診してください。
そして必要であれば、「椎骨動脈解離という病気は大丈夫でしょうか?」と医師に尋ねてみてください。「頭痛ぐらい」と軽く考えない。一方で、すべての頭痛を必要以上に怖がらない。その間をつなぐのが、症状の変化をよく観察し、必要なときにもう一度診てもらうことだと私は考えています。

認知症専門医として毎月1,000人の患者さんを外来診療する長谷川嘉哉。長年の経験と知識、最新の研究結果を元にした「認知症予防」のレポートPDFを無料で差し上げています。