最近、当院では糖尿病の患者さんに、眼科や歯科への受診をお勧めし、診療情報提供書(紹介状)を作成する機会が増えています。患者さんからすると、不思議に思われるかもしれません。「血糖値を診てもらいに来たのに、なぜ眼科まで行く必要があるの?」「歯は痛くないのに、どうして歯医者さんに行かなければならないの?」
実は、これには医学的な理由と、2026年6月から始まった診療報酬制度の変更という、二つの背景があります。私は以前から、糖尿病は単に血糖値を下げればよい病気ではないと考えてきました。目や腎臓、神経、血管など、全身を守ることが重要です。そして今回の制度改定によって、そうした診療が医療機関の評価にも反映されるようになったのです。今回は、少し専門的な診療報酬の仕組みも含め、内科の開業医が眼科や歯科と連携する理由についてお話しします。
目次
1.これまでの「外来データ提出加算」は50点だった
日本の医療機関では、診療行為ごとに点数が決められています。原則として1点が10円に相当し、その一部を患者さんが自己負担します。当院では以前から、「外来データ提出加算」という制度に取り組んできました。これは、医療機関が患者さんの診療データを国の定める形式で提出することで評価される制度です。
従来は、生活習慣病管理料を算定している患者さんについて、月1回50点が加算されていました。ただし、この加算を算定するためのハードルは決して低くありませんでした。患者さんの検査データや診療内容を決められた形式で整理し、継続的に提出する必要があります。当然、医師だけでなく事務スタッフにも相当の負担がかかります。
その一方で、データを提出しているというだけでは、実際に質の高い診療を行っているかどうかまでは十分に評価できません。そこで2026年6月の診療報酬改定で、この仕組みが大きく見直されました。新しく設けられたのが「充実管理加算」です。
点数は、次の3段階です。
- 充実管理加算1:30点
- 充実管理加算2:20点
- 充実管理加算3:10点
従来の50点と比べると、最高でも30点に減額されています。しかし、単純な減額だけではありません。大きく変わったのは、データを提出することに加え、どのような診療を実際に行っているかが評価されるようになったことです。最も高い30点の評価を受けるには、原則として全国の届出医療機関の上位20%に入る実績が必要です。つまり、医療機関には、より質の高い生活習慣病診療が求められるようになったのです。
2.なぜ糖尿病の患者さんを眼科・歯科へ紹介するのか?
今回の改定で、私が特に注目したのが、糖尿病患者さんにおける眼科・歯科との連携です。充実管理加算では、糖尿病の診療について、HbA1cなどの検査や継続的な通院に加え、眼科・歯科との連携実績も評価項目に含まれました。なぜ、内科以外の診療科との連携が重要なのでしょうか。
まず、眼科です。糖尿病の代表的な合併症に「糖尿病網膜症」があります。高血糖によって網膜の細い血管が傷つき、進行すると視力低下や失明につながることもあります。怖いのは、初期には自覚症状がほとんどないことです。「よく見えているから大丈夫」と思っていても、眼底では病気が進んでいることがあります。内科でHbA1cが良好でも、それだけで網膜症がないとは判断できません。だからこそ、眼科で定期的に眼底検査を受ける必要があるのです。
では、歯科はどうでしょうか。実は糖尿病と歯周病には、深い関係があります。糖尿病があると、免疫機能の変化などにより歯周病が悪化しやすくなります。逆に、歯周病による慢性的な炎症が血糖コントロールを悪化させることも知られています。つまり、糖尿病と歯周病は、互いに悪影響を及ぼす関係なのです。歯周病を適切に治療することで、血糖コントロールの改善につながる場合もあります。患者さんの中には、「歯医者は歯が痛くなったら行くところ」と考えている方も少なくありません。しかし糖尿病の患者さんにとって、歯科は虫歯を治すだけの場所ではありません。歯と歯ぐきの健康を守ることが、糖尿病の治療にもつながるのです。
3.紹介状を書くだけでは終わらない。これからの医療は「連携」が重要
今回の診療報酬改定では、さらに興味深い仕組みが新設されました。「眼科医療機関連携強化加算」と「歯科医療機関連携強化加算」です。それぞれ60点で、所定の条件を満たす場合に、患者さん1人につき年1回算定できます。ここで大切なのは、単に「眼科に行ってください」「歯医者さんに行ってください」と声をかけるだけでは不十分だという点です。
患者さんの同意を得て、必要性を説明し、紹介先に診療状況を文書で伝えます。そして、次回の診察時に実際に受診されたかどうかを確認し、診療録に記録することが求められています。つまり、紹介状を書いて終わりではなく、患者さんが必要な医療を受けたところまで確認するという考え方です。
私は、これは非常に重要な変化だと思っています。これまでの医療では、内科医は血糖値を診る、眼科医は目を診る、歯科医は歯を診るというように、それぞれの専門分野で治療する傾向がありました。
もちろん、専門性は欠かせません。しかし、患者さんの体は一つです。内科では血糖値が改善していても、眼科を何年も受診しておらず、網膜症が進行しているかもしれません。歯周病が悪化しているのに、内科ではその状況を把握していないかもしれません。そうした見落としを防ぐためには、診療科を超えた連携が必要です。
もちろん、診療報酬の点数を取るために、医学的な必要性のない紹介を増やすべきではありません。ただ、適切な医療連携を行うことが、診療報酬でも評価されるようになったことには、大きな意味があると思います。
おわりに
今回の診療報酬改定によって、当院でも糖尿病患者さんに対する眼科・歯科との連携を、これまで以上に意識するようになりました。医療機関としては、紹介状の作成や受診状況の確認など、確かに仕事は増えます。
しかも、従来50点だった加算は、最高でも30点になりました。経営面だけを考えれば、必ずしも歓迎できる変更ではありません。しかし、私は今回の改定には評価できる部分もあると考えています。
それは、医療の評価が、単に診察や検査を行ったということから、患者さんを継続的に診て、必要な専門医療へつなげているかという方向へ変わってきたことです。私たち内科の開業医の役割は、血糖値や血圧を管理することだけではありません。患者さんの目を守り、歯を守り、腎臓を守り、将来の脳卒中や心筋梗塞を防ぐことです。そのためには、自分たちだけで診療を完結させようとせず、地域の眼科医、歯科医と協力することが欠かせません。
患者さんには、ぜひ理解していただきたいことがあります。「内科から眼科や歯科への紹介状が出たら、それは余分な受診ではありません。将来の健康を守るための大切な受診なのです」今回の診療報酬改定が、単なる点数の変更で終わるのではなく、患者さんの健康寿命を延ばすきっかけになることを期待しています。

認知症専門医として毎月1,000人の患者さんを外来診療する長谷川嘉哉。長年の経験と知識、最新の研究結果を元にした「認知症予防」のレポートPDFを無料で差し上げています。