認知症になったら・世論調査からみる不安。解決策とは【専門医が解説】

認知症になったら・世論調査からみる不安。解決策とは【専門医が解説】

認知症はとても身近な病気です。何しろ65歳以上の認知症高齢者数は、2012年に462万人ですが、2025年には約700万人(同約20%)にまで増加すると予想されています。そのため認知症患者さんと接しない人の方が少数です。そうなると、「自分自身が認知症になる不安」を持たれる方も多いのではないでしょうか? 内閣府が2020131日に発表した「認知症に関する世論調査」でも、人々の認知症に対する考え方が浮き彫りになっています。

今回の記事では、皆さんの考え方を紹介しながら、月に1,000名の認知症患者さんを診察している専門医長谷川嘉哉自身の考えもご紹介したいと思います。

1.浮き彫りになった「認知症は珍しくないという結果」とは

内閣府の調査結果をご紹介します。

2019年12月時点の全国の18歳以上の日本国籍を有する1,632人からの回答を集計したもので、2015年9月に続いて行われた。その結果、「今までに認知症の人と接したことがある」と回答したのは61.1%(2015年9月調査では56.4%)。認知症の人と接した状況(複数回答)については、「家族の中に認知症の人がいる(いた)」が最も多く47.7%(同43.5%)、次いで、「親戚の中に認知症の人がいる(いた)」が35.8%(同37.2%)(出典:J-CASTニュース「認知症」はいまや身近な病気 あなたが罹ったら、どうしますか?(鷲尾香一)

認知症の患者数が増えることで、周囲や身内にも普通に存在する「身近な病気」になっているようです。

Confused Senior Man With Dementia Looking At Wall Calendar
認知症患者さんと接する機会が誰にも起こるようになってきました

2.認知症になったらどうなるかのイメージは?

認知症のイメージは、以下のようなイメージを持たれているようです。

「身の回りのことができなくなり、介護施設に入ってサポートを利用することが必要になる」との回答が40.0%(同35.9%)と最も多く、「医療・介護などのサポートを利用しながら、今まで暮らしてきた地域で生活していける」の32.6%(同33.5%)

自宅で看られない患者さんをイメージする方と、自宅でも生活できる方をイメージされる方に分かれるようです。現実の統計では、認知症患者さんの50%は自宅で生活をしています。しかし、残りは、10%がグループホームなどの居住系の施設、30%が特養などの介護施設、10%が医療機関にいます。つまり、半数は自宅、半数は自宅以外で生活をしているので、皆さんのイメージが分かれることも現実を反映しているようです。

3.負のイメージも根強い

認知症患者さんの「易怒性」など周辺症状に困るケースがあります

認知症には、以下のような負のイメージを持たれているようです。

回答には、「暴言、暴力など周りの人に迷惑をかけてしまう ので、今まで暮らしてきた地域で生活することが難しくなる」との回答も8.0%(同7.6%)

きっとこの回答をされたご家族は、患者さんの周辺症状で困ったのだと思います。認知症は、記憶障害を中心とする中核症状を経た後、幻覚・妄想・暴言・介護抵抗といった周辺症状が出現します。この場合、どうしてもコントロールできないと自宅での介護が不可能となり、介護施設や精神科病棟に入ることが多いものでした。しかし現在は、ブレーキ系の抗認知症薬であるメマリーが周辺症状に効果を示します。その結果、当院だけでなく海外でも、メマリーの使用で自宅で看れなくなる率が下がっていることが報告されています。詳しくは、以下の記事も参照になさって下さい。


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4.認知症になったらどう過ごしたいか。その結果は?

自分自身が認知症になった場合には、以下のような希望があるようです。

「医療・介護などのサポートを利用しながら、今まで暮らしてきた地域で生活していきたい」が28 .9%(同30.3%)と最も多く、「周りの人に迷惑をかけてしまうので、 介護施設で必要なサポートを利用しながら暮らしたい」の27.7%(同27.5%)。

この回答結果は、感情的な考えと理性的な考えがそれぞれ現れています。本音としては、「今まで暮らしている場所での生活を維持したい」と思っていても、家族への負担を考え、「介護施設に入ることは必要」と考えているようです。実際、日々の認知症専門外来でも、自宅で生活できるか否かは、患者さんの状態だけでなく介護力で決まっているのです。

5.認知症になった場合の不安?

認知症になった場合の以下のような不安を持っているようです。

「家族に身体的・精神的負担をかけるのではないか」が73.5%(同74.9%)が最も多く、次いで、「家族以外の周りの人に迷惑をかけてしまうのではないか」が61.9%(同56.5%)、「家族や大切な思い出を忘れてしまうのではないか」57.0%(同55.8%)。

大多数が「家族への負担」や「迷惑をかける」ことを心配しているようです。私は、自身の講演後のアンケートで、「長谷川先生は、患者さんのことをあまり考えていませんね!」という厳しい意見をいただいたことがあります。実は、私自身は認知症患者の元家族です。そのため、どうしても外来や講演でも、患者さん自身よりもご家族の負担を軽減するような話をしがちなのです。しかし、その根底には、「多くの認知症患者さんは、自分のことよりも、家族には迷惑をかけなくない」と考えているからです。まさに、今回の調査結果もそのことを肯定しているのではないでしょうか? 最近では、講演の前には、「本日の講演内容は、認知症の元家族である専門医の一つの意見です」と断ってから、お話をするようにしています。

6.認知症になったら、専門医の私ならどうする

日々、多くの認知症の患者さんや家族と接している自分が認知症になったらどうするかも参考のために紹介させていただきます。

6-1.家族に希望を伝えておく

元気なうちから、家族には希望を伝えておく必要があります。私なら、「認知症になって介護が必要になったら、積極的にデイやショートステイを使うことで自宅で生活をしたい。しかし、それでも介護負担が重くなるなら施設入所も受け入れます。ただし、その時は自分の収入・資産を使ってできるだけ看取りをしてくれる施設を選んでください」とお願いします。

6-2.人生最後に対する意思が大事

実は、認知症に不安になっている多くの方は死ぬ間際のことを心配されていることが多いものです。これは、明確な意思を示しておけば心配はありません。具体的には、「経口摂取ができなくなったら、苦痛を取り除く以外の医学的処置は希望しない」と伝えるか、文章として残しておきましょう。人間は、食事がとれなくなった際に、胃ろうや中心静脈栄養を施さなければ、枯れるように脱水で穏やかな最期が迎えられるのです。

6-3.子供と施設に注意

せっかく上記のような希望を持っていてもそれが実現されないことがあります。これは、子供さんたちの感情に流されてしまうと延命をされてしまうことがあります。それを防ぐために、私の患者さんの一人は、「希望しない医学的処置を行った場合は、恨みます」とまで書かれていました。そこまでの意思をしめせば、さすがに延命はされないでしょう。

自宅でなく、施設で生活をする場合は、看取りをしてくれる施設を選択することが大事です。そうでないと、最後の最後は病院に入院させれてしまいます。そのためにも、入所の前には看取りができるか否かの確認が大事です。最近では、半分程度の介護施設は看取りの対応をしてくれます。

7.まとめ

  • 世論調査によると、認知症とかかわりを持つ人が増えています。
  • それに伴い、自分自身が認知症になった際の不安を持たれる方も増えています。
  • 家族のことも考え、看られるうちは自宅で、看られなくなったら看取りもしてくれる施設での入所を希望しておきましょう。
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