高齢になると、患者さん自身がお金の管理が難しくなります。その割には、高齢者自身でお金を引き出したり、振り込んだりする機会は結構あるものです。そのため認知症専門外来では高齢者の通帳管理についての質問もよくされます。実際に、ネットなどで検索しても、「代理人カードが有効」、「家族信託がお薦め」、「成年後見人が必要」などの情報が飛び交っています。今回の記事では、FP資格をもつ認知症専門医が高齢者の通帳管理についてご紹介します。
目次
1.最も大事なことは家族関係
いろいろな情報がありますが、大事なことは家族関係です。
1-1.配偶者がいれば配偶者が管理
配偶者がいて、配偶者が心身ともに元気であれば、問題はありません。配偶者が以下で紹介する手法を使いながら管理をしていきましょう。しかし、配偶者にも問題がある場合は子供さんが管理する必要があります。
1-2.一人っ子もしくは兄弟関係が良好
一人っ子の方であれば、誰からも文句を言われることはありません。一人っ子の方が都合の良い方法で対応すれば問題ありません。兄弟がいても、常にコミュニケーションが取れていて、信頼関係ができていれば、誰か一人が責任をもって管理をすれば問題はありません。
1-3.兄弟関係が疎遠は注意
兄弟間のコミュニケーションが疎遠であったり、互いに仲が悪いケースは、通帳管理が将来の争族につながり、裁判になることもあるので注意が必要です。以下にいくつかの通帳管理の方法をご紹介しますので適宜選択されることをお勧めします。
2.対策①特に何もしない
家族関係が良好であれば特に何もしなくても大丈夫です。親のカードを子供さんが使って引き出せば問題ありません。ただし、都市銀行はうるさいことをいうことが多いので、小さな金融機関(信用金庫、農協、郵便局)がお薦めです。岐阜県土岐市のような地方では、子供さんが代理で引き出しても「お母さん、お元気ですか?」と金融機関から声をかけてもらえるような「のどかさ」があります。
なお定期預金の解約は、さすがに本人確認必要なことが多いので、少しでも元気なうちにすべて解約して普通預金に入れてキャッシュカードで出金できるようにすると便利です。当院で認知症の診断を受けた帰り道に、定期預金をすべて解約したというご家族もいらっしゃいました。
3.対策②代理人カード・・認知症になると?
最近、マスコミ等でよく言われているのが「代理人カード」です。多くの金融機関では、口座名義人の方と生計を同じくする家族が銀行に出向いて手続きを行えば、家族が預金を引き出すための「代理人カード(家族カード)」を発行してもらうことができます。ただしこれはある程度親の認知機能が維持されている段階のものです。認知症が進行して意思能力が確認できなくなると代理人カードは利用できなくなります。
認知症専門医としては、親のキャッシュカードを黙って子供が使うことと「代理人カード」にはメリットに大きな差はないと思われます。どちらが良いかを議論するよりも、大事なことは家族関係だと思われます。
4.対策③・・家族信託&成年後見人
どうしても家族関係から、法的な手続きが必要な場合は、『家族信託』と「成年後見人」とどちらかを検討します。以下の記事も参考になさってください。
4-1.財産が多い場合は成年後見を
私の個人的意見では、職業後見人(弁護士、司法書士)への支払いの負担が可能なら、成年後見制度が安全な気がします。やはり、毎年の家庭裁判所への報告義務は、負担というより安全のためだと思います。ただし、親が元気なうちから資産を有効活用して欲しい場合などは、積極的に家族信託を使うこともお勧めです。その場合は、家族信託に熟知している専門家を探す必要があります。
4-2.管理する財産が少ない場合は家族信託でも良いかも
逆に、管理する財産が少なければ、被相続人と相続人が話し合ったうえで、費用負担が少なくて済む家族信託が良いかもしれません。もちろん、話し合いにより相続問題を予防することは言うまでもありません。
4-3.どちらにせよ遺言作成が重要
やはり、家族信託と成年後見人のどちらを選ぶにしても遺言作成は必須です。そして、おおよその内容を相続人にも伝えておくことが重要です。以下の記事も参考になさってください。
5.まとめ
- 認知症専門外来では高齢者の通帳管理についての質問もよくされます。
- 対策としては、「代理人カード」、「家族信託」、「成年後見人制度」があります。
- 何よりも大事なことは家族関係です。