多くの人が、年とともに、記憶力が悪くなった、物忘れがひどくなったと言われます。しかし、その実態は「思い出せない」だけの場合が多いのです。年を取って衰えるのは新しいことを「覚える力」ではなく、過去の記憶を「引き出す力」なのです。そのことを理解したうえでの対処方法が大事です。
- 話し上手になるために必要な能力のひとつが、「記憶力」
- 状況に応じて適切な話題を提供できるのは、さまざまな話題が記憶の引き出しの中にコレクションされていると同時に、上手く引き出すことができるから
- 記憶は自在に引き出せて初めて活かすことができる
- 覚えたし、忘れてはいないけれど、「思い出せない」だけの場合が多いのです
- 多くの人は「覚えられない」ことも「思い出せない」ことも一緒くたにして「記憶力が悪くなった」と考えがち
- 記憶を引き出せないことが原因なのに、一生懸命暗記ドリルを頑張っても、悩みは解決しません
- 思い出せないときに脳の中で起こっていることを、大胆に5つに分類してみまし ①そもそも記憶を作ることができなかった ②情動が動かず、重要な記憶と見なされなかった ③睡眠不足で記憶が整理されなかった ④抑制が働いて記憶を引き出せなかった ⑤長い間使わなかったために、記憶が劣化した
- 記憶の種類によっては、海馬を損傷してもあまり影響を受けないものもあります。序章の脳トレの話で登場した、運動能力や楽器演奏など、練習することで上達する「手続き記憶」
- 手続き記憶の形成は、海馬ではなく、主に「小脳」や「大脳基底核」という脳部位が担っている
- しっかりと取っておきたい記憶は、情報を長期的に保管する保管室である「大脳新皮質」に送られますが、その前に、必要な記憶を取捨選択し、整理しておく必要があります。その役割を担うのも海馬です。大脳辺縁系で行われた重みづけをもとに、どの記憶を保管室にしまうのかを判断
- アルツハイマー型認知症では、昔のことは覚えているのに、新しいことが覚えられないという症状が出ることが特徴です。この症状は、海馬のダメージが大きく、記憶の保管庫である大脳新皮質はまだ無事である状態
- 記憶も、思い出すたびにネットワークが強化され、忘れにくくなっていく
- ワーキングメモリを担当しているのは海馬ではなく大脳新皮質の「前頭前野」
- 不快な情動を司る扁桃体に対して、快の情動を司るのが側坐核
- 扁桃体や側坐核と海馬の距離が近いことが分かります。情動と記憶は隣の部署なのです。よって情動と記憶のやりとりは頻繁です。扁桃体や側坐核の活動は海馬に大きく影響
- その人と話したことや、どんな顔だったかということや、感じがよかったなという印象は思い出せても、名前だけが思い出せないのは、名前が意味記憶で、意味記憶が生存に必須ではない記憶だから、情動が動かず、脳にとって思い出しにくい
- 起きているときよりもむしろ、睡眠時に活動が上がる脳の部位がありました。=大脳辺縁系
- 夢が支離滅裂で論理的におかしい内容が多いのは、思考を担う前頭前野が休んでいるため
- ミクログリアは脳や脊髄の免疫を担当しています。身体の中を守っている免疫細胞は脳や脊髄の中には入れません。その代わりにミクログリアが頑張っている
- 記憶の劣化は、大きく2種類に分けることができます。保管している記憶そのものの劣化と、それらを呼び出すインデックスの劣化
- 忘れるというのは、私たちが長い人生を生きていくために不可欠な働きです。 辛い思いをしても、いつかはその記憶も薄れていきます