今回は、医療や認知症予防の視点からぜひ知っておいていただきたい一冊、
科学的に証明されたすごい習慣(著:堀田秀吾)の内容をもとに、「脳を守る習慣」について紹介します。
認知症というと、「年のせい」「遺伝だから仕方ない」と思われがちです。しかし近年の研究では、生活習慣や行動の工夫によって、認知機能の低下を遅らせることは十分可能であることが分かってきました。
本書の価値は、根性論や精神論ではなく、科学的エビデンスに基づいた“誰でも実行できる習慣”を紹介している点にあります。
これは、認知症予防を考えるうえで極めて重要な視点です。
記憶は「脳」だけで作られているわけではありません
多くの方は、「物忘れ=脳の問題」と考えます。しかし医療の現場では、記憶は脳だけでなく、身体全体との連動で形成されていると捉えます。
本書の中で紹介されている印象的な研究の一つが、
「何かを握りながら覚えると、記憶が定着しやすくなる」
というものです。
これは非常に示唆的で、認知症予防の観点からも重要なヒントを含んでいます。
なぜ「握る」だけで記憶が強化されるのか
手を使う、特に「握る」という行為は、脳にとって強い刺激になります。
手指は感覚野・運動野の中でも非常に広い領域を占めており、手を動かすこと自体が脳の活性化につながるからです。
研究では、
- ボールやハンドグリップを軽く握りながら学習する
- 触覚刺激を与えながら話を聞く
といった行動によって、注意力が高まり、記憶の保持率が向上することが示されています。
重要なのは、強く握る必要はないという点です。
軽く、意識が向く程度で十分です。
認知症の初期に共通する「見えにくい変化」
認知症の初期症状は、「物忘れ」だけではありません。
- 集中力が続かない
- 話を聞いても頭に入らない
- ぼんやりしている時間が増える
こうした変化は、注意機能の低下が背景にあることが多いのです。
「握る」という行為は、この注意機能を“今ここ”に引き戻す効果があります。
つまり、記憶そのものだけでなく、記憶の入口である注意力を支える習慣なのです。
高齢者ほど「ながら」は工夫次第で武器になります
一般的に「ながら作業」は悪いものとされがちです。
しかし、医療の現場では一概にそうとは言えません。
スマホを見ながら話を聞くのは確かに逆効果ですが、
- 何かを握りながら話を聞く
- 指を動かしながら思い出す
- 姿勢を正し、足裏に体重をかける
こうした身体感覚を伴う行為は、認知機能を保つうえで有効です。
特に高齢者の場合、じっと座って「集中しなさい」と言われる方が、かえって注意力が落ちることも少なくありません。
認知症予防は「努力」ではなく「設計」です
本書が一貫して伝えているのは、
人は意志の力では変われない
という現実です。
これは認知症予防にもそのまま当てはまります。
- 覚えようと頑張る
- 気合で集中する
- 自分を叱咤する
こうした方法は長続きしませんし、脳にも優しくありません。
それよりも、
- 机に握れる物を置いておく
- 話を聞くときは必ず何かを手に持つ
- 思い出すときの姿勢や動作を固定する
といった環境と行動のセット化が、最も現実的で安全な方法です。
科学は「歳を重ねた脳」にも希望を与えます
『科学的に証明されたすごい習慣』は、若い人だけの本ではありません。
むしろ、年齢を重ね、記憶力に不安を感じ始めた方にこそ読んでいただきたい内容です。
覚えられないのは能力のせいではありません。
続かないのは性格のせいでもありません。
方法と環境を変えれば、脳は何歳からでも応えてくれます。
「握る」という、あまりに小さな行動が、
認知症予防という大きなテーマにつながっている——
その事実を、科学は静かに、しかし確実に示しています。
今日からぜひ、
“覚えるときは、何かを握る”
そんな小さな習慣を取り入れてみてください。


認知症専門医として毎月1,000人の患者さんを外来診療する長谷川嘉哉。長年の経験と知識、最新の研究結果を元にした「認知症予防」のレポートPDFを無料で差し上げています。