当院は認知症を専門としています。そのため患者さんも高齢者の方が中心です。そんな毎日の中、本当に本当に本当に困らされる人たちがいます。年齢と性別でいうと、80歳代の男性患者さんが多いようです。私が医師として困る以前に、家族も困り、ケアマネさんも困り、介護現場も困っています。
毎日数人の困った80歳代男性が受診しています。これらの困った現象は、彼らの生まれた時代背景、加齢、病気が複雑に関わりあって形成されています。今回の、記事では毎月1000名の認知症患者を診察している長谷川嘉哉が、80歳代男性によくある「困ったこと」の原因、および対応策についてご紹介します。
目次
1.困った80歳代男性の共通項
困った80歳代男性を一言で表すと、「わがまま」です。正直、同じ男としても呆れるほどです。
1-1.生活が自立していない
このような男性は、食事、着衣、掃除、洗濯、家計など日常生活は全く自立できていません。そのため、配偶者に過剰に依存しています。介護が必要になって、デイサービスを利用する際も、配偶者が付き添わないと利用できない人さえいます。
1-2.配偶者への暴力・暴言
そんなに依存している配偶者であるのにも関わらず、ことある事に暴言を吐きます。時に、物を投げつけたり、暴力を振るうことさえあるのです。本来は、感謝の言葉をかけるべき相手なのですが・・。呆れてしまいます。
1-3.介護が必要でもサービスを拒否
そんな80歳代男性と毎日生活していれば、配偶者は精神的にも、肉体的にもストレスがかかります。そのため、ケアマネや家族は、デイサービスやショートステイなどの介護サービスの利用をお願いします。しかし、そんな依頼も平気で拒否します。それどころか無理に利用してもらうと、今度は施設から介護拒否、帰宅願望、暴言により利用を断られてしまうのです。
2.時代的背景
80歳代男性の我儘には、時代的な背景もあります。
2-1.男尊女卑がしみついている
80歳代男性の育った時代は、「男性を重くみて、女性を軽んじる」男尊女卑の考え方が主流でした。そのため、介護の現場でも女性介護者と、男性介護者で明らに態度を変える方さえいらっしゃいます。
2-2.配偶者も耐えしのぶのが美徳だと感じている
一方で配偶者も、「女性は男性を陰から支え、善き母として子育てし、家事にいそしみ家庭を守る」と教育されています。そのため、どれだけ我儘なご主人でも、耐えるしかないのです。
3.加齢変化も要因
そんなわがままな80歳男性ですが、「昔はここまでではなかった」とも言われます。実は、加齢変化もわがままを加速しているのです。
3-1.前頭葉機能の低下
誰でも50歳を前後に前頭葉機能が低下します。前頭葉機能が低下すると、論理的思考ができなくなり、理性のコントロールができなくなります。つまり、「理屈が通らない上に、急に怒り出す」のです。
3-2.親子断絶しているケース
子供の中でも、息子さんは論理的にものを考えます。例えば、父親のことを心配して、家をバリアフリーにする提案を理屈をつけて説明します。しかし、80歳代男性である父親は、論理的な理解が苦手です。結果、理性のコントロールが効かなくなり、「俺はバリアフリーなんて要らん!」と感情的に怒ってしまいます。結果、親子断絶している家庭も少なくありません。
3-3.高齢離婚にさえも
前頭葉の機能が落ちた方との生活は大変です。そのため、配偶者によっては離婚にまで至ります。今後、女性が耐え忍ばなくなったら、高齢離婚は増加すると予想されます。
4.認知症の進行も影響を洗えているとは
加齢に伴う前頭葉機能だけでなく、認知症の進行によっても我儘な態度はおこります。認知機能がMMSE(ミニメンタルステート検査)で30点満点で15点前後に低下すると、周辺症状が出現します。周辺症状には、幻覚や妄想以外に、攻撃性、介護抵抗、易怒性、暴言・暴力といった症状があります。
つまり、認知症は物忘れだけでなく、一見我儘に見える症状も引き起こすのです。
5.薬により対応も必要
加齢に伴う我儘も、認知症に伴う我儘もあまりにひどい場合は、薬も使用します。
5-1.メマリーの処方
攻撃性や暴言・暴力などが認められる場合はメマリーが第一選択となります。攻撃性、介護抵抗、易怒性、暴言・暴力で疲れ果てたご家族から、「先生、本当に穏やかになりました」と感謝されたことは1,000例以上で経験しています。詳細は以下の記事も参考になさってください。
5-2.漢方薬が奏功する場合も
メマリーほどではありませんが、抑肝散は漢方ですがとてもよく効きます。少し興奮気味の患者さんには特に効果を発揮し、その効果にご家族も驚くほどです。詳細は以下の記事も参考になさってください。
5-3.拒薬されるとなす術がない
このようにメマリーや抑肝散は、我儘な80歳代男性に効果があるのですが、中には服薬を頑なに拒否される患者さんもいらっしゃいます。そうなると、内科医としてはお手上げになります。
6.薄氷を踏む在宅介護
わがままな80歳代男性は、献身的な配偶者によって支えられていると言えます。そのため、配偶者が病気になったり、亡くなれば、在宅生活は破綻します。そうなると、在宅生活は不可能となり、施設入所も止むを得なくなるのです。
同じ男として、配偶者の健康を損ねるまでのわがままな態度は、控えてもらいたい思うのですが…。
7.まとめ
- 介護の現場では、我儘な80歳代男性に困っています。
- 我儘な80歳代男性は、献身的な配偶者によって支えられています。
- そのため、配偶者が病気になったり、亡くなれば、在宅生活は破綻します。