治る認知症…慢性硬膜下血腫について。専門医でもCTを撮らないと分からない、とは

治る認知症…慢性硬膜下血腫について。専門医でもCTを撮らないと分からない、とは

認知症の外来では、「認知症が1~2か月で進行した」といって受診されるご家族がいらっしゃいます。しかし、認知症が1~2か月で進行することは、殆どありません。認知症という病名は、あくまで症候群であり、その中に100を超える原因疾患が含まれます。そして原因疾患の中には治る認知症も含まれています。特に、認知症が1~2か月で進行した場合は、治る認知症の範疇であることが多いのです。今回の記事では、治る認知症の代表疾患の一つ、慢性硬膜下血腫についてご紹介します。

目次

1.慢性硬膜下血種とは?

慢性硬膜下血腫とは、脳を覆っている硬い膜と脳の間に血液が溜まる病気です。転んだり、何かの拍子に頭を打ったことで発症します。厄介な点は、頭を打った直後には症状は出ないことです。おおよそ2週間から3か月かけて徐々に出血して、症状が現れます。

その症状も、物忘れ、歩行障害、尿失禁、動作緩慢、元気がないなど高齢ならやむを得ないような症状が徐々に起こるため見過ごされることも多いのです。

もともと元気だった80〜90歳代の高齢者が、「1~2か月の間に認知症になった?」と感じるときには、疑う必要がある疾患です。

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赤い部分が慢性硬膜下血腫(出典:日本脳神経外科学会

2.慢性硬膜下血種が見逃されやすい理由

慢性硬膜下血腫が見逃されやすいことには、理由があります。

2-1.本人に頭を打った記憶がない

慢性硬膜下血腫は、頭部の外傷によって引き起こされます。ですから頭を打ったことを、本人や家族が知っていれば診断は容易です。しかし、私の印象では、患者さんの半数程度は、患者さん自身が頭を打ったことを自覚していません。いくら確認をしても、覚えていないことが多いのです。

2-2.頭部CTを取らないとわからない

我々専門医でも、頭部CTがなければ、症状と所見だけでは慢性硬膜下出血の診断はできません。そのため、CTの施設のない医療機関では、診断をつけることができません。CTを撮らないまま「年齢だからしょうがない」と診断されている例もあると思います。

慢性硬膜下血腫のCT画像(出典:日本脳神経外科学会

2-3.症状が起こらないことも

慢性硬膜下血腫は症状も出ないこともあります。そもそも、脳の萎縮が強い患者さんの場合、頭蓋内に空間的余裕があるため、出血が起こっても症状が起こりません。また、両側に出血がある場合も、左右両方から圧力がかかるため、症状が出ないことがあるのです。さすがに症状がなければ、診断は困難となります。

3.外傷直後と、1か月後にも忘れずに頭部CTを

慢性硬膜下血腫を見逃さずに、的確に診断するには、とにかく頭を打った訴えがあったり、数か月単位で「何かがおかしい」と思われた場合は、頭部CTを撮影しましょう。当院の知症専門外来でも、初診で慢性硬膜下血腫が見つかって、そのまま脳外科に紹介するケースが1%前後はあります。

頭部を打撲した訴えを聞いたらすぐに頭部CTを撮影することも大事ですが、1か月先の診察時にも頭部CTを撮影することが大事です。慢性硬膜下血腫は、2週から3か月かけてジワリジワリ出血するため、頭部打撲から1ヶ月経過後も忘れずに頭部CTを行うことが重要です。


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4.治療方法

治療は以下になります。

4-1.緊急で手術が必要な場合

症状がゆっくりと現れることが大部分の慢性硬膜下血腫ですが、以下の場合は至急で手術をおこないます。

  • 意識レベルが下がっている場合
  • 脳の圧迫が強く、片麻痺が出現している場合
  • 頭部CT上、片側の出血で反対側が圧迫されている場合。この状態を頭部CT上、midline shift(=正中変異)と呼びます。

4-2.緊急でないが、手術が行える場合

穿頭血腫除去術という方法を用います。手術は、頭蓋骨に直径1㎝程度の穴をあけて、硬膜と血腫の膜を切開し、貯まった血の中に細い管をいれて血腫を排出します。局所麻酔でも可能で、手術時間20~30分です。管は留置し、頭部CTで血腫の量を確認してから抜去します。

4-2.漢方薬「五苓散」も

高齢であり手術に耐えられないケース、出血をしてから時間が経ちすぎているケース、症状が殆どないケースは、手術をせずに様子観察をします。経過を見ることで、自然に血腫が小さくなったり、消失することもあります。その際に、漢方薬の「五苓散」を処方すると、血腫の吸収が早まるとの報告もあります。そのため、私自身も手術をしないケースでは、五苓散を処方しています。

5.常に治る認知症を念頭に

「認知症は、一度なったら治らない。だから病院にかかってもしょうがない」と思われている方もいらっしゃいます。しかし、今回ご紹介した慢性硬膜下血腫のように、脳外科的には簡単な手術で治癒する疾患もあるのです。

そのために、「何か、おかしい」と感じたら、一度は専門医を受診して、頭部CTや血液検査を行うことをお薦めします。慢性硬膜血腫を含めて、治る認知症については以下の記事も参考になさってください。

6.まとめ

  • 慢性硬膜下血腫は、頭部外傷後、2週間から2か月経ってから症状が出現します。
  • 患者さんもご家族も、頭を打った記憶がないケースも半分程度あるので注意が必要です。
  • 数か月単位で、「何かおかしい」と感じたら、最低でも頭部CTを撮影しましょう。
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