糖尿病性腎症の早期発見と治療方法を知る7つの知識【専門医が解説】

糖尿病性腎症の早期発見と治療方法を知る7つの知識【専門医が解説】

糖尿病患者数は生活習慣と社会環境の変化に伴って急速に増加しています。なんと日本人の糖尿病人口は予備軍を含めて1,000万人を超えているのです。糖尿病は何より合併症が怖く、糖尿病の3大合併症として「糖尿病神経障害」、「糖尿病網膜症」、「糖尿病腎症」が知られています。その中でも、糖尿病腎症は人工透析導入の原疾患の第一位です。透析の導入とは、週3回の人工透析を受けることを意味します。

そのため糖尿病と診断されれば、糖尿病性腎症の早期発見、早期対策が重要です。今回の記事では、認定内科専門医かつ高齢者医療に詳しい長谷川嘉哉が、糖尿病性腎症の早期発見のための知識、つまり尿中微量アルブミン測定の重要性についてご紹介します。

目次

1.糖尿病性腎症とは?

糖尿病は、尿に糖が混じるから身体に悪いわけではありません。あくまで、血液中のブドウ糖の濃度(=血糖値)が高くなった「高血糖状態」が続くことが身体に悪いのです。

1-1.慢性的な高血糖状態は、全身の血管にダメージ

腎臓は糸球体という細い血管の集合体です。糸球体では、血液中の老廃物や余分な水分がろ過されます。ろ過された老廃物や余分な水分は、尿として体外に排泄されます。一方で、身体に必要なタンパク質は、糸球体でほとんどろ過されません。長い間、高血糖状態が続くと、糸球体の血管の壁が傷つき、通常はろ過されないタンパク質が尿中に漏れ出し、逆にろ過されるべき老廃物や余分な水分が十分にろ過されなくなります。このようにして、腎臓の機能が徐々に低下していきます。また、糖尿病患者さんは、高血圧や脂質異常症などの生活習慣病を合併している場合が多く、それらの疾患も腎機能の低下を早めます。

Human kidney cross section
一度失った腎臓の機能を取り戻すことは困難です

1-2.症状はなく確実に寿命を縮める

糖尿病性腎症の初期は、自覚症状はほとんどありません。しかし、尿中に漏れ出すタンパク質が増えてくるとむくみや息切れなどの自覚症状があらわれます。そして、透析を受けるほどの腎不全になると、5年生存率が約50%と生命的危険も高くなる怖い病気なのです。

1-3.糖尿病腎症は透析導入第一位

ちなみに、厚生労働省の患者調査(2014年)によると、糖尿病の患者数は316万6,000人で、過去最高となりました。糖尿病の主な合併症の1つである糖尿病性腎症は、1998年以降、透析導入の原因として最も多い疾患となっています。さらに人工透析は医療費年間総額1.57兆円を要するため、国としてもできるだけ糖尿病性腎症の患者さんを減らすことが急務になっています。

2.糖尿病腎症の病期

糖尿病腎症の病期は5期に分かれていて、タンパク尿と腎機能が病気の指標になります。

2-1.第1期(腎症前期)

糖尿病以外の自覚症状はなく、検査しても腎症であることを診断できない状態です。

2-2.第2期 (早期腎症期)

尿中にアルブミンというタンパク質がわずかに検出されます(=微量アルブミン尿)。症状はほとんどありませんが、血圧が高くなることが多いです。内科専門医としては、糖尿病の患者さんは、出来ればこの段階まででとどめておきたいと考えています。

2-3.第3期(顕性腎症期)

尿中にタンパク質が出てきて、腎機能が低下していきます。タンパク尿が増加するとむくみが出てきます。

2-4.第4期(腎不全期)

腎臓の糸球体で血液がろ過されず、老廃物が血液中にたまり尿毒症の症状が出てきます。また、低血糖を起こしやすくなります。むくみに加え、体がだるい、皮膚がかゆい、夜間手足が痛い、貧血など尿毒症の症状が出てきます。

2-5.第5期(透析療法期)

腎臓の機能がほぼなくなり、慢性透析療法が導入される時期をいいます。予後はよくなく、5年後の生存率は約50%といわれています。人工透析は通常週3回行います。人工透析でも症状が改善しない場合、腎移植や膵腎移植という選択肢もあります。

Diabetes mellitus
暴飲暴食や不規則な食生活が糖尿病の原因となります

3.早期発見のためには

糖尿病腎症にならないためには、糖尿病と診断されたら定期的な腎機能の検査が必要になります。実は開業医の場合、内科専門医でなくても、外科医でも、泌尿器科医でも皮膚科医でも、「内科」を標ぼうすることは可能です。そのため、思いのほかきちんと糖尿病を診ている医師は少ないのです。

3-1.定期的な採血

採血は痛みを伴うため、患者さんにとっては苦痛です。しかし、糖尿病のコントロールを見るためには、最低でも3か月に1回、コントロールが悪ければ毎月の採血が必須です。採血項目は、血糖だけでなく、HbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)といって過去1~2ヶ月前の血糖値を反映する数値をみてコントロールの指標とします。従来の血糖値と違い、当日の食事や運動など短期間の血糖値の影響を受けない点が、HbA1cの優れたところです。

3-2.検尿は最低限必須

定期的な採血はもちろん必須ですが、その際に尿検査をすることも必須です。ある意味、採血だけで尿検査をしない医師は、糖尿病コントロールのトレーニングを受けていないと考えられます。

Bottle of Indicator Strips For Blood Glucose Testing
採血に加えて検尿も必須ですが、3期にならないと検出されないデメリットがあります

3-3.微量アルブミンを測定しているか主治医に確認しよう

実は、尿検査だけでも不十分です。尿検査でタンパク尿が出ていれば、すでに糖尿病腎症の3期になっているため発見が遅いと言えます。糖尿病腎症の早期発見のためには、通常の尿検査だけでなく、外注検査による微量アルブミンの確認が必要です。

ただし、主治医が尿中の微量アルブミンを測定しているか否かは、分からないことが多いものです。患者さん自身のためにも、あえて「尿中の微量アルブミンを検査してますか?」と質問することをお勧めします。残念ながら、「尿中の微量アルブミン」自体を理解していない医師がいることも事実です。この場合は主治医の変更をお勧めします。


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4.治療

糖尿病性腎症は、血糖や血圧をしっかりとコントロールすることで、進行を遅らせることができます。早期に治療を行えば、改善も期待できます。

4-1.血糖のコントロール

糖尿病性腎症の合併がない場合、および尿蛋白が出ていない腎症の1期もしくは2期では、カロリー制限を主体とした食事療法と運動療法が基本です。それでも十分に血糖値が下がらない場合は、経口糖尿病薬やインスリンなどの注射薬を用います。

2013年5月、日本糖尿病学会は熊本で開催した学術集会において、新たな治療目標の評価基準を発表しました。この「熊本宣言2013」は、「糖尿病になった方が健康で幸福な寿命を全うするためには、早期から良好な血糖値を維持することが重要」として、HbA1cを7.0%未満に保つことの重要性が提唱されました。

つまり、患者さんに求められるHbA1cの目標は7.0%と明確な目標が示されたのです。HbA1cが7.0%未満については、「合併症予防のための目標」であるとし、HbA1cが6.9%未満であれば、腎症、網膜症、神経症といった細小血管合併症の出現する可能性が少なくなります。

4-2.血圧のコントロール

糖尿病腎症の進行を予防する上で、高血圧の治療は極めて重要です。以前はあまり血圧を下げると、血管がつまる脳梗塞のような合併症が懸念され、血圧の目標値も比較的高く設定されていましたが、最近の降圧薬の進歩により、副作用による合併症が少なくなり、さらに低く設定されるようになりました。

一般にはアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)をまず使用します。アンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬は血圧を下げるだけでなく、糖尿病腎症自体の進行を阻止する効果も認められており、一挙両得です。このため最近では血圧の高くない糖尿病腎症の患者さんにも使われることがあります。アンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬だけで十分に血圧が低下しなければ、カルシウム拮抗薬などの他の種類の降圧薬が併用されます。

ネフロ-ゼ症候群を合併してむくみ(浮腫)の強い患者さんには、体液の過剰が高血圧の原因ですから、降圧薬として利尿剤を投与して体液の過剰を是正します。

4-3.その他の治療

糖尿病の患者さんは、脂質異常症、肥満を合併してることも多いため、これらのコントロールも重要です。もちろん、禁煙も必須です。

Strict diet
それまでの食生活とは異なる、厳格な食事制限を行わなければなりません

5.腎症発生後は、治療が複雑になるとは

糖尿病性腎症を発症してしまうと、さらに対応が複雑になります。正直、腎症にまで進行した患者さんは、服薬、食事、運動といった生活習慣が改善できなかった人が多いものです。ここからさらに対応が複雑になると、さらに生活習慣の改善が追い付かないケースも見られます。

5-1.降圧剤の使用制限

降圧剤の第一選択で腎保護作用のあるアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)ですが、投与開始後血清のクレアチニン値の上昇が30%以上(例えば、1.0の数値が1.3以上に)になったり、またはカリウム値が5.5mEq/L以上となるようであれば薬剤を減量ないし中止し、他の降圧剤に変更する必要があります。

5-2.食事療法の変化

糖尿病性腎症では、糖尿病の食事療法に加え、慢性腎不全の食事療法が加わります。しかし、これらは互いに矛盾する内容が多いので、戸惑う患者さんが多く、実行できない場合が多々あります。

今まで、血糖を上げないために「糖分は制限して同じカロリーの蛋白質を食べなさい」と指導されて来たのに、いきなり蛋白質を制限して糖質や脂質を取りなさいとまったく逆のことを言われても、すぐには実行できません。患者さん自身が、混乱してしまい受診しなくなる事もあります。患者さん自身には病状が変わったため、治療法が変わることを理解いただきたいのです。

5-3.安静

安静度も病期によって変化します。腎症が現れるまでは血糖管理、肥満解消のために、運動療法が推奨され、歩け歩けと指導されます。しかし、蛋白尿が出現すると運動制限が指導されることになります。

ただし、特に高齢の患者さんで、心臓などに高度の合併症が無ければ、厳密な安静はかえって体力を低下するなど、別の合併症につながる可能性があります。安静の程度は患者さんの腎症の程度、年齢や合併症などを考慮して決められることになります。

6.まとめ

  • 糖尿病になったら、定期的に尿中微量アルブミンを測定して糖尿病腎症の早期発見に努めましょう。
  • 糖尿病腎症の予防は、血糖・血圧のコントロールが何より重要となります。
  • 糖尿病性腎症が合併した場合は、使用する降圧剤、食事療法、運動療法も変える必要が出てきます。
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