あなたの糖尿病治療薬は大丈夫?肥満、糖尿病の根本原因である高インスリン血症について専門医が解説

あなたの糖尿病治療薬は大丈夫?肥満、糖尿病の根本原因である高インスリン血症について専門医が解説

高インスリン血症という言葉をご存知でしょうか? インスリンは血糖を下げるホルモンで、糖尿病の治療に使われることは良く知られています。しかし、そんなインスリンが血液中で高い状態が続くと、肥満を引き起こし、糖尿病をさらに悪化させてしまいます。最近の研究では、高インスリン血症はがんのリスクまで高めることが分かっています。そのため、高インスリン血症を予防することは、健康を維持することに重要なのです。今回の記事では、認定内科専門医である長谷川嘉哉が、高インスリン血症について解説し、予防方法をご紹介します。

1.高インスリン血症とは?

インスリンは膵臓から分泌されるホルモンです。食事によって血糖が上昇すると、インスリンが分泌され、肝臓に運ばれたブドウ糖が細胞内に取り込まれます。その結果、上昇した血糖値は、数時間で食前の値まで下がります。インスリンは体内で唯一、血糖を下げることの出来る大切なホルモンなのです。

しかし、Ⅱ型糖尿病になったり、肥満、運動不足、ストレスが加わると、インスリンが分泌されても血糖が下がりにくい状態となり、これをインスリン抵抗性と言います。

このようなインスリン抵抗性の状態が続くと、すい臓は血糖値を下げようとするため、インスリンをたくさん分泌しようとします。その結果として、血液中のインスリン濃度が上昇し、高インスリン血症となるのです。

2.高インスリン血症による死の四重奏

高インスリン血症は単にインスリンの血中濃度が高くなるだけでなく、身体に多くの悪影響を及ぼします。高インスリン血症は、内臓肥満、高血圧、高中性脂肪血症のリスクも高め、これら4つが合併するとsyndrome Xと呼ばれます。これは、動脈硬化や心臓発作などの危険性が特に高いため、別名、死の四重奏(deadly quartet)と呼ばれています。

2-1.内臓肥満

インスリンは肝臓に、「余ったグルコースからトリグリセライド分子というかたちの新しい脂肪を作れ」という信号を送ります。つまり高インスリン血症状態が「脂肪肝」を引き起こすのです。なお、脂肪肝は、 さらに「インスリン抵抗性」を発現させ、さらに「高インスリン血症」となる悪循環となります。

2-2.高血圧

インスリンが高い状態が続くと、交感神経が緊張し、腎臓でナトリウムが排泄されにくくなり、血管が広がりにくくなり、循環血液量も増えることで血圧が高くなってしまいます。

2-3.高中性脂肪血症

血糖値が高くなると、 肝臓は余分な糖を利用して、 中性脂肪をつくります。 また、インスリンには、 血糖値を一定に保つ作用に加え、 脂肪を分解する働きもあります。 そのため、高中性脂肪血症になると、 インスリンの効きが悪くなるため、 血糖値が上がります。 高中性脂肪血症が 糖尿病の悪化の原因にもなるのです。 糖尿病でインスリンがうまく分泌されなくなれば、 中性脂肪も分解されず、 さらに血液中の脂質が 増えるのです。

3.発がんの一因の可能性

2013年、日本癌学会と日本糖尿病学会の合同委員会は、「糖尿病患者さんは、癌を発症する危険性が高い」と報告しました。糖尿病でない方の発症リスクを1とした場合、糖尿病の方は、肝臓がんで1.97倍、すい臓がんで1.85倍、結腸癌は1.4倍とがん発症のリスクが高まっていました。

糖尿病による、がん発症リスクの上昇についての明確な答えは出ていませんが、高インスリン血症も一因と考えられています。

4.間違った糖尿病治療で高インスリン血症になっていることも

the large consumption of medicines
薬の選択ミスが症状を悪化させている可能性があります

間違った糖尿病治療により高インスリン血症が助長されていることがあります。以下の2種類の治療は、体重をさらに増やしてしまい、最終的に心血管系の病気を引き起こす危険性さえあるのです。

4-1.インスリン製剤

医師は2型糖尿病の患者さんの血糖のコントロールが悪いと、インスリンの注射の治療を勧めることがあります。膵臓のインスリンを出す細胞が壊されてしまう1型糖尿病ではインスリンが全く分泌されないため、治療にインスリン製剤が使われます。一方、生活習慣病の一つである2型糖尿病は、すい臓がめいっぱいインスリンを分泌している「高インスリン血症」の状態です。その両者に対して同じインスリン製剤を使うことは疑問です。2型糖尿病にインスリン製剤を使うことは、高インスリン血症を助長させてしまうのです。

4-2.スルホニル尿素剤

若い先生に、「昔の先生はなぜ、スルホニルウレア系の薬を使うのですか?」と聞かれたことがあります。我々30年目の医師も、この10年は第一選択薬に、スルホニル尿素薬を処方することはありません。スルホニル尿素薬しかなかった時代に処方された患者さんは、血糖のコントロールが良好であれば変更する必要がなかったため継続しているだけなのです。しかし、スルホニル尿素薬は作用機序的に、インスリンの分泌を刺激する作用機序のため、高インスリン血症を助長させてしまいます。血糖のコントロールが良好でも、適切な薬の変更が望まれます。

*スルホニル尿素薬:グリベンクラミド(商品名:ダオニール、オイグルコン)、グリクラジド(商品名:グリミクロン)、グリメピリド(商品名:アマリール)


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5.インスリンを上げない治療薬

出来れば以下の治療薬を中心に糖尿病治療を行うべきです。これらの薬は、血糖値だけでなくインスリン値も下げるために体重も減少します。

5-1.αグルコシダーゼ阻害薬

αグルコシダーゼ阻害薬は、αグルコシターゼの働きを阻害することで、ブドウ糖への分解を遅らせて食後の急激な血糖値上昇を抑える効果があります。体内に吸収される糖質を抑制するため、「低炭水化物ダイエット」をしたかのように食物が脂肪になりにくくなりダイエット効果が期待できます。臨床的には、血糖値を下げる働きは比較的弱いのですが、「心血管イベントを 49%も減少させ、高血圧を 34%も減少させる」という報告もあります。

*αグルコシダーゼ阻害薬:アカルボース(商品名:グルコバイ)、ミグリトール(商品名:セイブル)、ボグリボース(商品名:ベイスン)

5-2.SGLT2阻害薬

SGLT2阻害薬はグルコースを体の外へ排出させることでインスリンを低く抑える働きをします。その結果、 血糖値だけでなく、体重、血圧も下がり、動脈壁硬化を表す数値も低くなります。そのため、2型糖尿病患者の心血管と死亡率に与える影響の試験では、 SGLT2阻害薬は死亡率を 38%も改善させるという結果が出ています。

*SGLT2阻害薬:ダパグリフロジンプロピレングリコール(商品名:フォシーガ)、カナグリフロジン(商品名:カナグル)、イプラグリフロジンL-プロリン (商品名:スーグラ)

5-3.GLP-1アナログ製剤

GLP-1は血糖値の上昇に伴って分泌されインスリンの分泌を促すホルモンです。GLP-1そのものは、身体の中ですぐに分解されてしまうので、その構造に少し手を加え、長時間作用するように工夫したのがGLP-1アナログ製剤(アナログとは「類似の」という意味)です。血糖値が上昇した時だけインスリンが分泌されるので高インスリン血症への影響は少なく、血糖値を下げるだけでなく、体重を減らしたり、膵臓のインスリン分泌能力を長持ちさせる作用も確認されています。

6.最も効果があるのは食事療法

現在、糖尿に伴う高インスリン血症に対しては多くの治療薬が開発されていますが、最も効果的なものは、食事療法です。以下にご紹介します。

6-1.精製された炭水化物を減らす

食物に元来含まれている食物繊維、脂質、たんぱく質を取り除くと、「自然界には存在しない濃縮された炭水化物」 が出来上がります。その炭水化物をさらに挽いて細かな粒子にすると、消化のスピードが上がり、血糖値が上がってしまいます。血糖や中性脂肪が高いと言われた方は、1日1食で良いので、パンやお米を摂らない食事がお薦めです。以下の記事も参考になさってください。

6-2.「天然油脂」を摂る

長年、脂質が身体に悪いと思われてきました。しかし、脂質はインスリンを分泌させないため、高インスリン血症の予防に役立ちます。脂質は、カロリーが高いため体重の増加を心配される方がいらっしゃいます。しかし、体重増加に影響するものは、糖質であって、脂質は影響しないことが分かっています。その上、脂質は腹持ちも良いため食欲も抑える効果もあります。具体的には、脂質が豊富な魚、オリーブ油、アボカド、ナッツ類がお薦めです。

6-3.タンパク質も忘れない

日本人はカロリー摂取の半分以上を糖質に頼っています。そのため、糖質を減らすと、摂取カロリーも大きく減ってしまいます。そこで、タンパク質もしっかり食べ、カロリーが減りすぎないよう にしましょう。タンパク質は、肉・魚・大豆などをバランス良く食べることで、 摂取することができます。

7.まとめ

  • 高インスリン血症は、動脈硬化や心臓発作などの危険性が高い「死の四重奏(deadly quartet)」の一つです。
  • 糖尿病の間違った治療で、高インスリン血症が助長されていることもあります。
  • 高インスリン血症の改善に最も効果的ないものは、精製された炭水化物の摂取を減らすことです。
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