ジリジリジリ……ジンジンジン………。
その手(手のひら)のしびれはいつからですか? どの部分がしびれますか?
実は、日常生活の中で、手のしびれを経験することは頭痛や腹痛などに比べると少ないものです。頭痛や腹痛などは、結構経験しているため、自分自身で重症感がわかるものです。しかし、初めて経験する急性的な手のしびれは不安感を増大させ、より症状を強く感じてしまいます。
もちろん慢性的にしびれを感じていて受診される方もいらっしゃいます。
このときに何科を受診するかはとても重要です。多くの方が整形外科を受診するケースが多いのですが、これは十分ではありません。仮に整形外科で異常がなくても、整形外科の範疇外に原因があることもあるのです。
では手がしびれた場合は何科を受診すればいいのでしょうか? また救急車を呼ぶべきか、とりあえず慌てずに受診を検討するかの判断をなんとなくつかむ知識はあるのでしょうか?
今回の記事では、神経内科の専門医として多くの手のしびれ患者さんを診ている長谷川嘉哉が、正しい対処方法をご紹介します。
目次
1.しびれは発症の仕方と左右部位が重要とは
神経内科の外来では、患者さんが「手のしびれ」を訴えた場合、症状によって対応に大きな差があります。緊急で入院となる場合もあれば、何もしないで様子観察になる場合まで様々だからです。実は専門医は、患者さんの症状を聞くだけで、緊急性の有無については分かるものなのです。
1-1.発症の仕方に注意
しびれが突然起こったか、徐々に起こったかで緊急性の有無が想像できます。
例えば、「先生、今朝起きたときから急に手がしびれます」と言われた場合は、医師としては緊急性のある疾患を疑います。逆に「いつからかははっきりしませんが、徐々に手がしびれてきています」と言われた場合は、緊急性は極めて低くなります。
1-2.しびれの左右差が重要
しびれが片側だけで起こったのか、両側で起こったのかで緊急性の有無が想像できます。
例えば、「先生、左手がしびれます」と言われた場合は、医師としては緊急性のある疾患を疑います。逆に「両手がしびれます」と言われた場合は、緊急性は極めて低くなります。
1-3.しびれの部位が重要
しびれが、親指側と小指側が同様にしびれるのか、親指と小指でしびれが違うのかでも緊急性の有無が想像できます。
例えば、「先生、親指側と小指側が同じようにしびれます」と言われた場合は、医師としては緊急性のある疾患を疑います。逆に「手の指の中指から小指がしびれます」と言われた場合は、緊急性は極めて低くなります。
2.緊急受診が必要なしびれとは
緊急受診が必要なしびれは「1章の3つの条件がそろったとき」となります。つまり、突然、片側の手で、親指と小指で差のないしびれを訴えた患者さんは脳血管障害を疑います。
しびれで緊急受診が必要な疾患は脳出血もしくは脳梗塞による脳血管障害だけといえます。緊急で頭部CTを撮影します。しかし、仮に頭部CTで異常がなくても、脳梗塞であれば発症から6時間以内であれば異常が見られません。さらに頭部のMRIまでが必要となります。
結果、病変が見つかれば入院加療となります。
3.様子観察でよいしびれとは
しびれを自覚したら、3つのポイントを確認しましょう。
- しびれは、突然起こった?
- しびれは、片側に限定されている?
- しびれは、親指側と小指側で違いがない?
以上の、3つが全部そろわない限りは、まずは命にかかわるような疾患ではありません。いったん落ちつきましょう。
4.手がしびれる理由は
手がしびれる理由をご紹介します。人間の神経の走行は、大脳から始まり、脊髄を通り、脊髄から末梢神経が筋肉を支配します。つまり、しびれは「大脳・脊髄・末梢神経」のいずれかにできた病変が原因となるのです。
4-1.大脳が原因のしびれ
大脳で梗塞や出血が起こるとしびれを感じます。いわゆる2章で紹介した緊急性のあるしびれです。特徴は、突然発症すること、病変は片側であることです。しびれの程度も「親指側と小指側で差がない」点が特徴です。「麻痺」「ろれつが回らない」などの症状が合併する事もあります。その場合、迷わず救急車を呼んでください。
4-2.脊髄が原因のしびれ
脊髄の変形により頚髄が圧迫されることでおこるしびれです。発症の特徴は、徐々に慢性的に発症します。片側であることも、両側であることのどちらもあります。特徴は、しびれが指の、親指から中指を中心とするか、中指から小指を中心とするかどちらかになります。顔を上に向けた状態で首を右に倒すと右手、左に倒すと左手のしびれが強くなるのが特徴です。
ちなみに、親指から中指を中心とする場合は、頚髄の5〜6番の圧迫で、中指から小指を中心とする場合は頚髄の6〜7番目の圧迫が原因です。解剖学的知識があれば、X線撮影もMRI撮影をしなくても症状だけで頚髄の病変部位は分かるのです。
4-3.末梢神経が原因のしびれ
末梢神経が原因の場合は、発症の特徴は徐々に慢性的に、そして両側に発症することが多いようです。
ただし、あとでご紹介する「手根管症候群」は、脊髄からでた末梢神経が単独で障害されるため片側にしびれを感じます。
5.手がしびれる病気の代表例
緊急性のある脳血管障害以外にも以下の疾患が多く見られます。
5-1.変形性頚椎症
外来でみるしびれ患者さんで最も頻度の多い疾患です。なぜなら、60歳を超えると100%頚椎の変形は起こるからです。もちろん、人によって重症度には差があるため症状が出ない人もいます。50歳を超えたころから、何となく、親指もしくは小指を中心としたしびれを感じたらほぼ間違いなく変形性頚椎症が原因です。
この病気は、放置しても指が動かなくなるような運動障害を合併することは稀です。この説明だけで安心されて、気にならなくなる方が大半です。ただし、生活の中では、カイロプラクティックだけは避けるようにお願いします。急激に首を動かすことで悪化することがあるからです。
5-2.糖尿病性末梢神経障害
初期には症状はありませんが、病気が進行すると末梢神経にしびれが出て、手以外に足もしびれることが多いです。また、左右の手にしびれが現れるのが特徴です。
治療法はとにかく、糖尿病のコントロールを良好にすることです。同時に、糖尿病性末梢神経障害への薬による治療も併用が必要です。
*糖尿病性神経障害の治療に使われる薬:アルドース還元酵素阻害薬という薬剤を用いて、糖尿病性神経障害の原因の一つと考えられているポリオール代謝活性の働きを抑制するという治療法がとられます。日本ではエパルレスタットが臨床の現場で用いられています。この薬剤は多くの症例を元にして有効であることが実証されており、とりわけ早期の症状を抑制する場合に高い効果を発揮します。自律神経の機能の改善にも役立つという研究結果もあり、糖尿病性神経障害のために用いられる薬剤の中では最もポピュラーなものの一つとなっています。
5-3.手根管症候群
手を使う仕事をされる方に多く見られます。私の外来でも、結構頻度のある病気です。ただし、専門外の先生は病気自体を知らないことが多く見落とされることが多いようです。
「手根管」は手のひらの付け根にある手首の骨と靭帯に囲まれたトンネルで、9本の「腱」と「正中神経」という神経が通っています。何らかの原因で腱を覆う膜などが炎症を起こして腫れると「正中神経」が圧迫されます。すると正中神経が関わっている小指以外の指にしびれが起こります。
親指の付け根の母指球筋が委縮してきたときや、夜間もしびれで目が覚めてしまう場合は、整形外科で局所麻酔で手術をすると症状は改善します。
6.手のしびれは何科で診てもらうのが正解?
手のしびれが起こる原因である、頭、脊髄、末梢神経の障害すべてが診られる診療科は神経内科しかありません。整形外科を受診するにしても、まずは神経内科医の判断において必要とされてから、受診することをお勧めいたします。
7.まとめ
- 手のしびれで緊急受診が必要な疾患は、脳血管障害(脳梗塞・脳出血)だけです。
- しびれを自覚したら、3つのポイントを確認しましょう。「突然起こった?」「片側に限定されている?」「親指側と小指側で違いがない?」
- しびれを総合的に判断できる診療科は神経内科です。