高齢者に多発、知っておきたいアミロイドアンギオパチーについて専門医が解説

高齢者に多発、知っておきたいアミロイドアンギオパチーについて専門医が解説

アミロイドアンギオパチーという病名をご存じでしょうか? 言葉も難しいし、正直医療機関でもあまり知らない先生が多いのです。その割には、高齢者の方を中心に頻度は増えています。アミロイドアンギオパチーについて知っていないと、そもそも見過ごす原因にもなります。また、経過を知らないと不適切な対応をしてしまうこともあります。今回の記事では、脳神経内科専門医の長谷川嘉哉が、アミロイドアンギオパチーについてご紹介します。

1.アミロイドアンギオパチーとは?

脳アミロイドアンギオパチー(cerebral amylold angiopathy: CAA)はアミロイドβタンパクが、脳の血管に沈着する病気で、脳出血だけでなく脳梗塞、認知機能障害の原因となります。高齢者の脳出血の原因の一つですが、大脳皮質下に出血が多発し、さらに再発を繰り返す特徴があります。したがって一度発症すると、運動機能・認知機能いずれも低下し、日常生活動作が悪化します。

2.通常の脳出血との違い

アミロイドアンギオパチーは一般的な脳出血とは異なる特徴があるので注意が必要です。

2-1.運動障害が少ない

通常の脳出血の場合、手足の動きが悪くなったり、しゃべりにくくなったりといった運動障害が出現します。しかし、アミロイドアンギオパチーでおこる皮質下の出血では運動障害があまり出現しません。したがって、周囲の方からも脳出血が起こっているとは想像できないことも多いのです。

2-2.意識レベルもはっきりしない

通常の脳出血では、意識レベルの低下が起こります。傾眠傾向でボーとして、呼びかけにも反応しないといった症状です。しかしアミロイドアンギオパチーで引き起こされる脳出血の場合、覚醒していて反応もあります。少しウトウトしている程度で、「何か変?」という状態です。したがって、家族としても「風邪でも引いた?」程度で様子を見てしまうことが多いのです。

2-3.何か変で頭部CTを

通常、意識レベルが下がったり、運動障害でもない限り頭部のCTは撮影しません。しかし、アミロイドアンギオパチーという病態を知ると、高齢者が「いつもより何か変?」と感じた時は、積極的に頭部CTを撮影されることをお薦めします。実際に、風邪でも引いたかと思って受診された患者さんで見つかったケースもあるのです。

3.アミロイドアンギオパチーの特徴的な経過

アミロイドアンギオパチーの経過には、以下のような特徴があります。

3-1.亡くなることは少ない

アミロイドアンギオパチーによる脳出血の場合、出血自体も小さいため脳の浮腫も少ないです。また高齢者の脳は、加齢性の萎縮を伴っているため呼吸抑制などがおきにくく、お亡くなりになるケースは少ないのです。

3-2.日常生活動作は低下

ただし、生命には関わらなくても、「今までできていたことができなくなる」といったように、日常生活動作が確実に低下します。その結果、いわゆる「寝たきり状態」になることが多いのです。

4.アミロイドアンギオパチーの予防

アミロイドアンギオパチーを完全に予防することはできませんが、以下のような対策があります。


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4-1.血圧を適正にコントロール

血圧を下げる降圧療法は、アミロイドアンギオパチーによる脳出血予防に重要であることが示されています。但し、高齢者の場合、下げ過ぎはかえって転倒・意識レベルの低下といった副作用の恐れがあります。血圧は、高すぎず、低すぎず、適切な治療が必要になります。

4-2.シロスタゾールの予防投与も

シロスタゾールとは、抗血小板療法といって血液をサラサラにすることで脳梗塞や心筋梗塞を予防します。そんな薬をアミロイドアンギオパチーの予防に使えば、かえって脳出血を起こしてしまうと考えがちです。しかし、アミロイドアンギオパチーの本体は、アミロイドβの血管壁への蓄積です。シロスタゾールには、アミロイドβの沈着量を減らすことがわかっており、予防投与が有用とされています。

5.日常生活動作低下の際の注意

アミロイドアンギオパチーの診断がされた場合は以下の対応が大事です。

5-1.介護度の区分変更

命に関わらず、日常生活動作だけが低下した場合は、すぐに介護保険の区分変更がお薦めです。それにより、従来より重い介護度がつくことになります。その後は、在宅の介護サービスの量を増やすことができます。もちろん、在宅介護が限界となれば施設入所も検討します。区分変更については以下の記事も参考になさってください。

5-2.食事がとれなければ自然経過がお薦め

ADLの低下により食事量が減少することがあります。その際は、自然経過をお薦めします。この場合の自然経過とは、ようするにお亡くなりになるということです。とても悲しいことですが、「人間は口から食事がとれなければ最期」なのです。

5-3.胃ろうや中心静脈栄養は勧めない

食事が摂れなくなれば、「死」を迎えることは自然の摂理です。それに逆らうように、胃ろうや中心静脈栄養による無理な延命は、患者さんに無用な苦痛を与えます。本来、胃ろうや中心静脈栄養は高齢者の延命のためではありません。胃ろうは中心静脈栄養については以下の記事も参考になさってください。

6.まとめ

  • アミロイドアンギオパチーは高齢者に多発する病気です。アミロイドβタンパクが、脳の血管に沈着する病気で、脳出血だけでなく脳梗塞、認知機能障害の原因となります。
  • 通常の脳出血・脳梗塞と異なり、症状がはっきりしないため、「ちょっと変」と感じたら頭部CTの撮影が必要です。
  • 予防のためには、適切な降圧療法やシロスタゾールの投与が必要です。
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