日々の外来では、頻尿を訴えられる患者さんが多くいらっしゃいます。一口に、頻尿と言っても様々で、一日中訴える方から、夜間のみ頻尿を訴えられる患者さんもおります。夜に一時間ごとにトイレに行くような状態でも、「年だからしょうがない」と諦めている患者さんもいらっしゃいます。
家族にとっては、トイレに付き添うこともかなりの手間です。夜間に何度も起こされて疲弊している方も少なくありません。こういう方の中には、認知症が進んでオムツを付けっ放しでも平気になってほしい、その方が自分の負担が減ると考えてしまう方のお気持ちが芽生えてしまうこともあるでしょう。
頻尿は適切な治療により、軽減したり改善することができます。ですので医師に相談してほしいのです。
その場合、通常は泌尿器科を受診されることが多いと思います。しかし、私が専門の神経内科も脳血管障害や認知症の患者さんの頻尿を治療する機会が多いものです。そして、高齢の「頻尿」には特徴があるのです。
今回の記事では、高齢者医療に専門的に従事している長谷川嘉哉が、高齢者における頻尿の原因と治療方法についてご紹介します。
目次
1.頻尿とは?
いわゆる「トイレが近い」状態を、頻尿と言います。一般的な排尿回数は、一日4〜6回で、夜間は0〜1回です。これを超えたら、ただちに頻尿というわけではありませんが、一日8〜10回、夜間2回以上になると頻尿と判断します。
2.排尿のメカニズム
人間は、尿を貯める時には膀胱自体を弛緩させ、膀胱の出口である頚部を緊張させ漏れない様にします。そして、排尿となったときには膀胱頚部を弛緩させ、膀胱を収縮させるのです。人間はこのような一連の動きを、無意識に瞬時に行っているのです。
年を取ったり、脳血管障害になったり、男性の場合は前立腺が肥大してくると、この一連の動きに障害が出てきます。そうすると、排尿障害や排尿後に尿が残ったり尿意が頻回になってくるのです。
3.頻尿の種類と原因
頻尿の代表的な種類と原因を紹介します。
3-1.過活動膀胱
膀胱が過敏になって収縮しやすくなるもので、急に強い尿意が起こって頻尿になる(切迫性頻尿)ことが特徴です。男女ともに加齢とともに増加します。治療方法としては4−1.をご覧ください。最近は患者さんの数も多いため、一般内科でも処方は可能です。まずはかかりつけ医に相談、対応してくれなければ、泌尿器科、婦人科を受診しましょう。
3-2.神経因性頻尿
尿を溜めたり(蓄尿)出したり(排尿)する信号がうまく伝えることが出来なくなった状態です。 放置しておくと膀胱炎等の尿路感染症や腎臓の機能障害を引き起こします。脳梗塞や脳出血などの脳血管障害の後遺症として出現することが最も多いものです。脳血管障害がある方で頻尿を訴える方は、「高齢だから」とあきらめずに神経内科、脳外科等の脳・神経の専門医の診断を仰ぐことをお勧めします。
3-3.心因性頻尿
「精神的ストレスや不安などの心理的な要素が大きく関係して起こる頻尿」のことを言います。特徴として、何かに集中していたり、眠っていたりするときには尿意が起こらないということがあります。漏らしてしまうという可能性は低く、痛みや血尿も伴いません。頻尿の中でも非常に多い症状で、患者数は膀胱炎による頻尿の次に多く見られます。
3-4.膀胱炎
「膀胱」は、内面がやわらかい粘膜の袋で、尿を溜めるところです。 その膀胱が炎症を起こすのが「膀胱炎」で、外部から大腸菌などの腸内細菌が、尿道をさかのぼって膀胱の中に雑菌が入り増殖することで起こる病気です。女性の方が頻尿を訴えた場合は、最初に膀胱炎を疑って尿検査を行います。尿中に白血球や細菌を認めることで診断されます。
膀胱炎には抗生剤の服薬が著効します。抗生剤を服薬すると1〜2日で症状は改善します。しかし、中途半端な治療では慢性化することがあります。処方された日数分(おおよそ4〜7日)はきちんと服用するようにしましょう。
3-5.夜間頻尿
夜間頻尿とは、夜の睡眠中に1回以上、排尿のために起きる症状です。不快なだけでなく、睡眠不足を招いたり、体調をくずしたりするもとにもなります。
特に高齢者の場合、暗い中トイレに行くことで、転倒によるケガや骨折のリスクも高まります。夜間頻尿は高齢になるほど増えるので、なおさらこうしたリスクが問題になります。
治療法は、4章で紹介する方法を組み合わせます。しかし、どれも効果がない場合は単純に睡眠薬等で眠ってもらうことで尿の回数を減らすこともあります。もちろん、転倒等の危険について、ご家族に十分説明が必要となります。
3-6.前立腺肥大&前立腺がん
前立腺肥大症は、膀胱の下の尿道を囲む位置にある前立腺(男性生殖器の一つ)が、熟年以降に肥大して尿道を圧迫するもの。膀胱に尿が残りやすくなり、その刺激で頻尿になります。ときに前立腺癌が原因となっていることがあります。前立線癌は、血液検査でPSAを測定することで早期発見が可能です。男性患者さんが頻尿を訴えた場合は、最初にPSAの測定をすることが必須です。
*PSA=prostate specific antigen:前立腺特異抗原の略:前立腺がんの判定をするために一番初めに行うのは血液検査です。血液検査でPSA値の値を測定し、その値が基準値以上の場合は前立腺がんの疑いがあります。「PSA値」は病態の把握や判定、再発の早期発見に有効な腫瘍マーカーです。
4.頻尿の治療
お伝えした通り頻尿の原因は人によって異なります。たとえば、糖尿病や前立腺肥大など病気が原因の場合は、病気そのものに対する治療が必要となります。それによって頻尿の症状が改善されることもあります。
ここでは主に、3つのタイプの薬の特徴をご紹介します。
4-1.膀胱の収縮に対してのアプローチ
抗コリン薬(ベシケアなど)を使います。これは過活動膀胱や神経因性膀胱の治療薬として知られ、中高年以降の女性に対して用いられる機会が多くあります。
排尿には、「アセチルコリン(副交感神経を興奮させる神経伝達物質)」が関わっています。膀胱に多く存在する「ムスカリン受容体」に、このアセチルコリンが働きかけることによって、膀胱が収縮し、尿意が起きます。抗コリン薬は、ムスカリン受容体にくっつくことでアセチルコリンの働きを鈍らせ、膀胱の収縮を抑えて頻尿を改善することができるのです。副作用として、喉の渇きなどが起こると言われています。
4-2.膀胱の貯蓄能力に対するアプローチ
β3刺激薬(ベタニスなど)を使います。頻尿の原因の一つは、「膀胱に十分に尿を蓄えることができないこと」にあります。「β3アドレナリン受容体(膀胱の平滑筋に存在し、膀胱の弛緩に関わるもの)」に働きかけることで、膀胱が大きくなり 、蓄えられる尿の量が増える結果、頻尿を緩和できます。過活動膀胱や神経因性膀胱の治療薬として、抗コリン薬と使い分けたり、時に組み合わせて使用します。
4-3.平滑筋弛緩薬を使用することも
投薬としてはほかに平滑筋弛緩薬 (ブラダロンなど) を使うことがあります。膀胱の筋肉の収縮を抑制したり、筋肉を緩めることで、膀胱の容量を増やすことができる薬です。膀胱の収縮を抑制する作用は抗コリン薬ほど強くありませんが、副作用も抗コリン薬に比べて少ないのが特徴です。臨床的には、効果は弱いと思ってください。
5.ロキソニンに尿量を抑える効果があった
実は、上記の薬の効果がない時に、効果がありえるのが有名なロキソニンという薬です。このロキソニンが、夜間頻尿に効果的なことがわかってきました。ロキソニンは、一般に消炎鎮痛薬として知られていますが、尿量を少なくする作用も持っています。そのため、頻尿に効果を発揮するのです。もちろん、保険適応ではありませんが、いろいろな薬を使っても改善されない場合は、一度主治医に相談することをお勧めします。
仮に医師に断られても、ロキソニンは医師の処方がなくても薬局で購入することも可能です。
6.寒さによる頻尿の可能性も
年齢に関わらず、寒くなって冷えると尿意が近くなりませんか? それって、何故だか考えた事はありますか? 「寒くなると、膀胱や筋肉が縮むから」「そんなこと考えた事ない」とはっきり答えられないのではないでしょうか?
答えは、寒くなると、体温に比べて外気温が低くなります。そうすると、体温を維持するために、通常より体内で燃焼作業を多く行う必要があります。その際に、代謝水が発生するからです。つまり、尿意が近くなるだけでなく、実際の尿量も増えるのです。
ですから、頻尿の患者さんに、部屋を暖めたり厚着をしたりカイロ等で身体を温めることで改善される方も結構いらしゃるのです。
7.認知症の症状としての頻尿も
実は、頻尿の中でも泌尿器科領域では扱われない原因があります。これは認知症患者さんの頻尿です。この頻尿は凄いものです。トイレから戻った途端に、トイレに行こうとします。大袈裟でなく1時間に10回を超えることさえあります。そのため、介護者の負担も相当なものになります。
この原因は、単にトイレに行ったことを忘れるからです。普通は、少し尿意を感じても、「まだ行ったばかりだから」と判断して我慢するものです。その点、認知症患者さんは、トイレに行ったことを覚えていませんから、尿意を感じればすぐにトイレに行こうとするのです。
そのため、症状は比較的日中に多い傾向があります。できるだけ、デイサービス等の介護サービスを利用することで、本人の意識を尿意以外に向けることが大事です。
8.まとめ
- 頻尿は多くの原因で引き起こされます。
- 男性なら最初に前立腺癌、女性なら膀胱炎を否定しましょう。
- その後、各種治療薬を適切に使用してみましょう。
- 薬以外に、温かくする、何かに集中することも大事です。