当院は、同一敷地内歯科クリニックさんに開業いただいています。そのため、糖尿病患者さんには、積極的に歯科受診をしてもらっています。その結果、歯科の先生からの報告では、「糖尿病の患者さんには、口腔内の環境が悪い方が多いと」いう報告を受けていました。
今回、大阪大学の研究で、「糖尿病や肥満の方は、口の中の機能が落ちてくる」といった報告がなされました。糖尿病の患者さんの、口腔内環境の悪さは、機能の低下も一因かも知れません。今回の記事では、総合内科専門医の長谷川嘉哉が、糖尿病とオーラルフレイルについてご紹介します。
目次
1.オーラルフレイルとは?
フレイルとは、「加齢により心身が衰えた状態」を意味します。そのフレイルに、口腔を意味するオーラルを加えたオーラルフレイルとは、噛んだり、飲み込んだり、話をしたりするための口腔機能が衰えることを言います。多くは、全身状態の衰え、全身の筋力が低下するサルコペニア、低栄養などと強く関連していることが分かっています。
2.過栄養でもオーラルフレイルが起こる?
今回の大阪大学の研究は以下です。
対象は、生活習慣病の患者1000名。口腔機能の指標である咀嚼機能と舌口唇運動機能を調べたところ、高齢であること、筋力が低下していることに加え、肥満や糖尿病も、こうした機能の低下のリスクを高めることが明らかになった
つまり、本来のフレイルとは正反対と言える、過食や食生活の乱れが問題となる肥満や糖尿病でもオーラルフレイルが認められたのです。
3.糖尿病・肥満で、なぜ咀嚼機能・舌口唇運動機能が低下?
大阪大学の報告では、握力や歩行速度などの因子とは独立して、糖尿病と肥満が、咀嚼機能・舌口唇運動機能の低下と関連していました。なぜ、糖尿病と肥満でこれらの機能が落ちるのでしょうか? 認定内科専門医としては以下が考えられます。
3-1.炭水化物が多い
糖尿病や肥満の方は、糖質、つまり炭水化物を好む傾向があります。炭水化物は、そもそも柔らかいため咀嚼回数が少なくなります。結果、咀嚼機能・舌口唇運動機能の低下につながるのです。
3-2.そもそも噛めていない?
ならば、糖尿病や肥満の方は噛む回数を増やすようにすれば良いと考えられます。しかし、大阪大学の報告では、「噛む回数を増やす以前の問題として、うまく噛めていない可能性が高い」と報告されています。つまり、口腔内の状況が上手く噛めないために、柔らかい炭水化物系の食事につながっている可能性もあるのです。
3-3.運動の機会が少ない
糖尿病や肥満の方は、運動の機会も少ないものです。全身の筋肉と口腔内の筋肉は密接関連しています。運動不足は、糖尿病や肥満を悪化させるだけでなく、咀嚼機能・舌口唇運動機能も引き起こすのです。
4.糖尿病学会は、糖尿病手帳のスペースを拡大
以上のように、糖尿病患者さんの口腔内環境はとても重要です。
4-1.歯周病が糖尿病を悪化させる
歯周病により歯肉の炎症が、インスリンの抵抗性悪化させ、糖尿病を悪化させることが分かっています。そのため、歯周病の治療をすると血糖コントロールが改善するという研究成果も数多く報告されています。
4-2.糖尿病・肥満が咀嚼機能・舌口唇運動機能を低下させる
今回の、大阪大学の報告は、4-1とは逆の話です。そもそも、糖尿病・肥満の患者さんでは、そもそも咀嚼機能・舌口唇運動機能が低下しているため、口腔内環境が悪化しやすいのです。
4-3.歯科医の先生も糖尿病手帳の記入を
特に糖尿病では、歯周病の関係が重要です。日本糖尿病学会が発行する糖尿病手帳では、歯周病の記載スペースが大幅に拡大されています。私の患者さんには、定期的に、歯科の先生に記載をお願いしています。
5.口腔内は、生き様の集大成?
これほどに、糖尿病・肥満といった生活習慣病は、口腔内環境と密接な関係があります。そのため、積極に歯科受診を勧めるのですが、残念ながら反応が悪い患者さんも多いものです。
確かに、定期的に歯科受診をしてくれるような患者さんであれば、暴飲暴食、喫煙、過度の飲酒は控え、運動も行ってくれるものです。結果、生活習慣病のコントロールにつながり、口腔内環境も維持されるのです。
つまり、口腔内環境は、生き様の集大成といえるのです。
6.まとめ
- 低栄養でおこるとされたオーラルフレールが、過栄養の糖尿病・肥満でも見られることが明らかになりました。
- 糖尿病・肥満では、糖質に偏った食事のため咀嚼回数が少ないこと、運動不足であることが原因です。
- 口腔内環境は、生き様の集大成であるため、その生活態度がすべて現れます。