介護事業所の運営母体は、中小企業、医療法人、社会福祉法人、そして上場しているような大企業が運営するものまで多種にわたります。世の中の常識であれば大企業に就職する方が給与を含めた待遇が良くなるものです。
しかし介護事業所の場合は、理屈からも待遇が悪くなることに間違いがありません。これには介護事業特有の明確な理由があるのです。今回の記事では、介護事業の経営者でもある長谷川嘉哉が「介護事業所が大きくなると社員への待遇が悪くなる理由」について解説します。
目次
1.そもそも介護事業は労働生産性を上げられない
介護の売上は、国の定めた保険サービスの単価に保険外として実費負担が収入になります。ただし保険外といってもあくまで実際にかかった費用ですので、そこで利益を出すことはできません。その上、各サービスには定員が決まっています。つまりサービス単価も、保険外の収入も定員もすべて国によって決められているため労働生産性を増やすことはできないのです。
2.介護事業にはスケールメリットがない
工場のような仕事であれば、多くの数を作るほどスケールメリットが出て単価が下がります。しかし、介護事業は全国に展開してもそれぞれの事業所の売上は決まっていて働く人数まで決まっています。つまり介護事業にはスケールメリットがないのです。
3.広域展開している企業には無駄な間接人員が・・
広域展開をすると各エリアごとのマネージャ、さらにそれらを統括する人が必要になります。しかし彼らは、一銭のお金も生まない間接人員です。彼らの給与を出すためには現場の職員の給与水準を減らすしかないのです。
実際、上場しているような企業は募集人員も非常勤の募集が多く社会保険加入といった待遇面に問題があります。そのうえ常勤でも驚くほど低い給与水準です
4.お薦めの就職先
以上の理由で上場しているような広域展開している介護事業所への就職はお薦めではありません。逆に介護事業でも以下がお薦めです。
4-1.経営母体は社会福祉法人系
経営母体では地域に密着している社会福祉法人グループがお勧めです。社会福祉法人は、地元を中心に運営されているため無駄な間接人員が抑えられています。さらに比較的利益率の高い特別養護老人ホームを中心としているため待遇は良くなる傾向です。ただし社会福祉法人系のなかにも広域展開しているグループがあります。この場合は、間接人員が必要になりますから避けることをお勧めします。
4-2.医療法人系もおすすめ
地域に密着している医療法人グループもお勧めです。株式会社単独ではどうしても利益追求に走ります。その点、医療法人はもともとの医療事業の経営が安定していることが多いため、理念と経営のバランスが取れていることが多いものです。
4-3.介護職員処遇改善加算と特定処遇改善加算をつけている事業所
2012年から運用が開始された処遇改善加算は優れた制度です。この制度は、処遇改善加算で請求した額を、全額職員の給与にのみ利用できるのです。そのため介護サービスの業種によりますが、年収ベースで5~15%は増えているのです。この制度自体は優れた制度なのですが算定していない事業所が結構あるのです。
さらに2019年10月から開始したスキル・経験のある職員の処遇改善を目的とした「介護職員等特定処遇改善加算」があります。かなりの給与アップになりますので、事業所としては積極的に導入すべき制度です。2022年4月分の調査でも3割が特定処遇改善加算を算定していないという結果となりました。
介護職として働くならば、最低限、「介護職員処遇改善加算」の届け出をしている事業所で働きたいものです。
5.まとめ
- 世間一般と異なり、介護事業は広域展開している大企業が運営している事業所の待遇は劣悪です
- これはスケールメリットのない介護事業における間接人員が減員です。
- お薦めは、地域に密着した社会福祉法人もしくは医療法人グループが経営母体である事業所がお薦めです。