「娘さん、きっと片頭痛ですね」
そう伝えた瞬間、お母さまがほっとしたように息をつかれたことが何度もあります。
片頭痛――それは、単なる頭の痛みではありません。ズキズキと脈打つような痛み。音や光に過敏になり、時には吐き気に襲われる。その発作が数時間から数日続くこともある、生活に大きな影響を与える疾患です。
片頭痛には遺伝的要素があることが、これまでの研究で明らかになっています。特に、母から娘への遺伝が目立つように感じられます。実際、片頭痛をもつ患者さんの多くが、「母も同じような頭痛を持っていた」と語ります。
不思議なことに、娘さんの片頭痛がはっきりしてくると、お母さまの症状が軽くなるという話もよく耳にします。
「私の痛みを引き継いでくれたみたいで、申し訳ないけど、どこか楽になった気がするんです」
そんな言葉に、医師としても胸を突かれる瞬間があります。
もちろん、医学的には“痛みのバトン”が渡されるわけではありません。しかし、親子の深い共感や身体の感覚の共有が、心の中でそう感じさせるのでしょう。
ただ、その遺伝、「いらなかった」と思う方も多いでしょう。片頭痛が生活を苦しめることがあるからです。
でも、遺伝は「悪いもの」ばかりではありません。
母から娘へ、引き継がれたのは痛みだけではないはずです。
たとえば、辛抱強さ、几帳面さ、他人への気遣い、共感力、笑顔のつくり方、手の温かさ。そんな「良い遺伝」も、たくさんあるのです。
片頭痛は確かにつらい病気ですが、決して終わらないものではありません。
近年では、片頭痛に特化した予防薬や治療法も進化しています。CGRP関連の新薬、神経ブロック注射、ライフスタイルへのアプローチ。対処法が広がったことで、以前よりもはるかに「コントロール可能な病気」になってきています。
そして何より、同じ経験をした母親がそばにいてくれることは、娘さんにとって何よりの心の支えです。
「あなたも、つらいのね。でも、乗り越えられるのよ」
そんな言葉には、何よりの力があります。
母から娘へ続く片頭痛の系譜。
それは「苦しみの連鎖」ではなく、「理解と支えの連鎖」に変えることができます。
あなたが今、痛みの中にいるとしても、それは永遠ではありません。
時代と共に医療は進み、選択肢も広がり、あなたの未来は必ず今よりも楽になるでしょう。
そして、あなた自身もいつか「誰かの支え」になる日がくるのです。
その日まで、焦らず、一歩ずつ進んでいきましょう。